今も昔も人の悩みってのは多いもんで、予知できない未来について知りたがる事は誰しも一度はあるかと思います。
そんな悩み多き女''おみつ''と頭の回転の早いつまらねえ男''吉助''のお話でございます。





『なぁおみつよ、さっきからお前何をそんな必死に見たんだい?』
『占いだよ!占い!』
この元気でお転婆な三十路の女がおみつ。昔は街では有名な位のべっぴん。今じゃ吉助の妻。
『なぁおみつよ、そろそろ夕飯にしねーか?俺は腹が減ってよ』
こちらのだらだらと屁理屈ばかりの男が吉助。見た目は悪くないが色男とは言い難い男であります。なぜこの二人が結婚したか。
『あんたは五月蝿いねぇ、私はいま忙しいんだよ!文学少女になるってんだから!』
『いい年の女が何が、文学少女だぁ呆れたね〜お前さん今日一日中そうして机に向かってるじゃあないかよ。』
『五月蝿いね〜本当にあんたって男は、えぇ?少しは家事を手伝ったらどうだいね?私はそんな男と結婚した覚えはないってんだ。』
『お前、亭主に向かってなんだそら、お前から俺に言い寄ってきたでねーか。』
『あの時はねそういう月の周りだったんだよ〜全く、だからお互い生活も安定したじゃあないか。』
『お前さん月見て結婚するかしないか、決めてたのかい?えぇ?どういう事だって話しだよそれは。俺に惚れてた訳でねぇってことかいね?』
『惚れてたさ! だって、私は木でお前さんは水なんだからね、私はお前さんと結婚すると運気が良くなるってんだからそら、人生儲けもんだよ。』
『お前さんというその月とかってのはなんだい?当たるんかい?』
『当たらなかったらどーすんだい?離縁かい?』
『そんなんで離縁されたら、お前、溜まったもんじゃあないよ全く馬鹿だね〜』
『馬鹿とは何かい全く。一応ね!これでも美人で若い時にお前さんの嫁になったんだよこっちは!少しは有り難く思わないかね』
『自分でそれ言ったらおしまいだよお前〜。どれ、その運気とやら当たるか聞いてみようってんだ』
『えーっとお前さんの性格は、、、
・素直
・自分の言う方は突き通したい
・たまに優しい
・心を開いたらよく話すタイプ
だってよ!よく当たってると思わないかい?』
『お前さんよ、、、そんなの誰だってそうだろーね。大体みんなそうだよ!自分に素直で、我儘なのが人間様だろうが。阿呆』
『くぅ!悔しいこと言うね、ほら私のを見てごらんよ!』
『なになに、、えーっと。
・好きになったらとても一途
・健康に気を使うタイプ
・気持ちが強い 
だってさ!お前さん、、これで文句なんか無いだろう?』

『あんな、、こんなのね、誰にだって当てはまるんだよ!全く!』
『一途でねぇ女もいるだろうが!それに比べてあんた、あたしはね毎日あんたが仕事に行くのを見送ってね、えぇ、家事掃除をまぁ完璧にこなしてだ、お前さんが好きなまんまを作ってだね、おやすみなさいなって寝かしつけるとこまでやってんだから!』
『寝かしつけてもらってはねぇ。』
『まぁおいておいて、月の流れてのは当たるんだよ!これは!昔から言われてるもんなのさ!』
『じゃあよ、お前さんツボを作って売って来なさいな。』
『壺?ってあのツボかい?』
『そこまでおまえさんが詳しいならね?みんなの月をみてやって、この壺を使えば福がある。ってそう言ってごらんなよ!』
『そしたらすこしはうちの生活も楽になるかいね!』
『壺なら、ほれ、俺がいくらでも作ってやるからよ!』

こうして二人は新しい副業を始め、大きな川にかかる大橋の下で始めたら、これはもう大人気。
街のお偉いさんまでくるように。
嘘かほんとかわからないが、おみつの占いは当たっていたのだった。

『おみっさんあたしはね、旦那が他の女に鼻の下を伸ばしてないから心配なんだよぉ』
『キヨさん?あんたの旦那、ありゃ女癖が悪いわ。残念だけどねキヨさん、星の流れによるとね、旦那さんは若くてべっぴんな娘が好きみたいでね、嫁子供より快楽を優先してるよ〜やめておき!』 
『そ、、そんなぁ、、とほほ』

と、まぁこんな具合で誰だってそうだろ。という
心理学を駆使して二人は大儲かり
それに目をつけた、街の調べ屋の大という男がいた
茶屋に行き小娘の幸子に問う。
『あの夫婦なんか怪しかないか?』
『大さんなんだい?疑い屋かい?』
『まぁ、おいらの仕事だからね〜』
『なら、大さんやってきたらどうかいね?』
『銭払っていっぱい食わされるのか?嫌だなぁ』
『それを暴いたら、お偉いさん方も大さんの仕事ぶりをお認めになるかもしれないよ?』
『そうか!確かにな、偉いところまで手を出してるあの夫婦の魂胆、おいらがしかと見てやらぁ!』

こうして大はある嘘をついた
『いらっしゃい。あら、兄さんガタイがいいのね。どんな悩みだい?』
『おいら、こんなにガタイがいいもんだからね、女に怖がられるんだ。結婚したくてもご縁がなくてなぁ
しばらく一人もんさ。このまま一生一人もんなんかね。哀しいな。』
大は今年二十六になる男だが嫁を二十二の時に迎え二人の子供に恵まれている。
『ありゃ、そら大変だったねぇ兄さん。あなたの心はきっと優しい。その優しさがあればきっとだれか迎えることができるよ!ただし、この壺を玄関に飾るんだ。この壺を見た女たちがお前さんが選ぶ目がいいと見てこぞってやって来るに違いないよ!』
『本当かい?ならそれ買っていくよ。』
こうして大は壺を買って家の前に置いてみた。現時点でおみつの占いは大外れ。大の嫁は大より性格がきつく体も大きな女である。壺なんか見てもときめく様な女ではないのだ。
『ただいま。』
『おかえりおまえさん。どこで道草食ってたんだい?』
『いや、ちょっと怪しい話があってだなそれを調べていたのさ。』
嫁に聞かれた大は隠すと、後が怖いので全て赤裸々に話す。
『なんだって!?お前さん女がいないと嘘をついたのかい!?全く薄情だね〜アタイはお前さんにずっとついてきてだね!子供も二人産んだのさー!そんな、お前さん悲しい嘘なんてつくこと無いのに!まったく。その壺を見せてごらん!』

茶色の小さい壺を見せる大。

『なんだねこれ!泥みたいじゃないか!変なところに曲線つけて!こんなの家の前におけって?冗談じゃあないよ!アタイの自慢の手作り竹飾りの方が余程風情あるってもんさ!貸してごらん!これ、アタイが持ってく!』

『ちょ、、やめとくれよ、、これは大きな証拠、、』

『お前さんは黙っていておくれ!アタイに任せな。』

そうして大の嫁は壺を持ち驚く速さで橋の下に。
『やい!お前さんたちかい?うちの旦那にこんなもん買わせて!全く!何が女が目を離さない壺だって!?あの人にはね、アタイという素敵な嫁がいるのさ!いい加減にしてしな!』

おみつは目を丸くして
『ど、どういうことだい?、、、』
『さっき来た大って大柄な男いただろ?あれはね、アタイの旦那なのさ!』
おみつは壺をそっと風呂敷に入れ
『な、なんのことだいねー!はははは、アタイはそんな大柄な男。見ていないよ〜。』

『困ったもんだね、アタイの耳に間違いはないってんだよ!』
大の嫁は壺を片手で持ちおみつの頭に打ち付ける。

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おみつの声が籠る
『アタイは知らないよー!』

まんまとおみつは壺にハマったのでした。


いつの時代も、嘘か誠か信じ決めるのはお前さんさ。

ご朗読ありがとうございました。

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