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小説

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適当なものをモチーフにして小説にします。
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昼

事務職をしている。電話を取ったり、オセアニア圏での事業成績をパソコンにぽちぽち打ち込んだり、同じ事務職の女の子たちと1500円のランチを食べてる最中に合コンの誘いを受けたり、合コンでいい感じになった隣の課の二つ年上の先輩にこっそりと話しかけられたりしている。
先輩にデートに誘われた土曜日、薄手の白いノースリーブニットと紺のタイトなスカートを着て、新しく買ったいやらしく無いちょっと高価なブランドの鞄

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カメラ(書きかけ)

スマートフォンを乾杯している飲み物に向けて、写真を撮る。これはまだいい。スマートフォンを届いたばかりの牛フィレのカルパッチョと季節の野菜のチーズフォンデュに向けて、写真を撮る。これもまだいい。
酔いが回ってきて、皆の熱量が上がってくる。目の前で喋っている男の声が、横の席の大きな笑い声にかき消されて、私は男の口の動きに合わせて適当に相槌を打つ。トリュフ風味のソースがかかった、安い油を使っているフライ

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鍵穴

鍵穴

鍵をさす。石と石をぶつけたような音がして、扉が開く。玄関でブーツの紐を外して、ブーツを廊下と玄関の間に落としながらリビングに入る。
彼が私に声をかける。遅くまでお疲れさまやら、リオの好きな番組録画しといたやら、冷蔵庫に具が入ってるからスパゲッティ茹でるよだの、私が求めている優しい声をかけてくる。その声を無視して、ソファに座ってた彼を押し倒して、灰色のシャツを脱がした。
彼は私のヒモだった。
ソファ

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歯磨き粉

歯磨き粉

朝晩歯を磨いて、次の日も朝晩歯を磨く。朝晩朝晩朝晩朝晩朝晩……と考えると、なんだか途方もなくなってしまうが、僕は今から10分後に家を出て会社に向かわなければならないので、大人しくチューブから歯ブラシへ歯磨き粉をにょろりと出す。歯磨き粉をよく見てみると、ペースト状の中に沢山の細かい粒がある。粒というのは不思議なもので、どの角度から見ても同じように見えるので、歯磨き粉の中には無数の同じものがあるように

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赤い肌

赤い肌

夏にも冬にも顔が赤くなるのです。夏は太陽が私を照らして、公園の木陰で休んでぼうっとしながら、木が太陽のおかげで酸素を吐き出している真下で、汗をだらだらと流すことになります。その時の私の惨めな赤さときたら!氷が水になるように顔が少し膨れて(汗をかくと物事というのは膨れるのでしょうか)、とにかく顔が真っ赤になるのです。冬には寒さで顔が凍えて、周りのみんなのように鼻がうっすら可愛らしく赤らむだけならまだ

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