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科学はシェアするほうがいい

食べ物だいすき研究者のすずです。
今回は、「科学はシェアするほうがいい」という題で書いてみようと思います。

私は普段、食品企業で微生物を培養したり、GC/MSやHPLCなんていう機械を使った分析なんかをしたりする研究員をやっています。

「いらすとや」さんで出てくる研究者みたいな人、と言って差し障りないです。(うちの会社は白衣ではなく作業着ですが)

研究はその会社の最も大切な財産の1つなので、データがたくさん詰まった実験ノートやPCの中身は「社外秘」もしくは「所外秘」で、基本的に研究所から持ち出すことはできません。
もちろん、自分の研究内容について研究所外の人に話すなんてことも許されていません。
同じ会社の他の部署の上司に聞かれても、絶対ダメです!

これは私の会社だけでなく、研究部門を持つ会社は全部同じ対応だと思います。

つまり、科学は個々の会社が堅くしまい込んでいるのが普通です。

そうしないと他の会社に技術が盗まれてしまって自分の会社が儲からないからです。
もちろん、利益をあげることが企業の存在意義のひとつですから、これはとても大事なことです。

ソフトバンクの元社員が楽天モバイルへ移って技術を流出させてしまったことがニュースで話題になったりしましたが、ソフトバンク側からすれば莫大なお金と時間をかけて開発したものを取られてしまったのですから、由々しきことです。

けれど、個々の会社が秘密を堅く守ろうとするあまり、科学技術の進歩が非効率で歩みの遅いものになっていると感じます。

徹底して秘密を守るなら、当然最初から最後まで自社で完結して製品化することが定石です。
あるいは、仲のいい他の会社と手を組むとか、そういうこともできるかもしれません。

けれど、新しいものを作ろうとするとき、「新しい」設備やノウハウが当然必要になるでしょう。

2個目の「新しい」にカギ括弧がついているのは、その会社にとっては「新しい」けれど、世界を見渡してみたら既存なことが多いからです。

この「世界を見渡す」が本当に難しいんですよね。
欲しい設備やノウハウを持っている会社と手を組むのが1番早い、けれどそれを見つけることが難しいですし、相手にも利益がなければ一緒にやってもらえるとも限りません。

だから、科学にもシェアスペースが必要なんです。

インターネットで言う、クラウドやレンタルサーバーのようなものが必要です。

必要な機器や、場合によっては技術者を貸し出してくれるレンタルラボがあれば開発スピードがどれだけ上がることでしょうか。

そんなサイエンス・クラウドサービスは、実は海外には既にあります。

例えば、Solar Biotech
https://www.solarbiotech.com/

アメリカの会社で、生物を使った化成品生産のスケールアップを請け負うサービスを提供してます。
メーカーにとって製品化のハードルのひとつはこのスケールアップだったりします。
実験室規模なら上手くいくのに、大きいタンクだと何故か上手くいかない…なんてこともざらにあります。
また、スケールアップするためには工場をゼロから準備しなければならない場合もあるでしょう。
これをシェアできるなんて、魅力的です。

しかも、Solar Biotechはその社名の通り、太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素を原料にものづくりする、というのもポイントが高いです。
産業革命後、既に地球の平均気温は1℃上昇しており、これ以上温暖化すると生態系や人類の活動に対する影響は甚大になると言われています。
せめてもの抵抗として温室効果ガス排出を抑え、上昇率を2℃以内に抑えるという努力は、SDGs 13番目の目標として世界中の人類に課せられたものでもあるのです。
https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals/goal-13-climate-action.html

この意味でも、Solar Biotechは1企業の枠を超え、より広範な利益を目指した団体であることが分かります。

Culture Bioscienceという会社も、Solar Biotechのようなクラウドサービスを提供しています。
https://www.culturebiosciences.com/

こちらもアメリカの会社で、たくさんの培養槽を持っていて、様々な培養条件だったり菌株をスクリーニングする作業をやってくれます。
単純作業の外注により、依頼者側の開発時間は大幅に短縮されそうですね。毎日同じことをやっている熟練の技術者に任せた方が、自分でやるよりも精度も良さそうです。

さすがは合理主義のアメリカ、ビジネスを効率化することに前向きですね。

近年、植物由来肉や植物ミルクなどのバイオテック業界がアツく、食品の新素材開発をやりたいスタートアップが急増しています。
そのような小さな企業ではやはり設備を整えたりすることは難しいので、Solar BiotechやCulture Bioscienceのようなサービスの需要も伸びていると思われます。

では、日本国内ではどうでしょう?

残念ながら、サイエンス・クラウドのようなサービスが、特にバイオ業界において弱いという現状です。

そこには、大企業が倒産することが稀であるという、比較的安定した市場状態が関係しているように思います。
もちろん開発にはスピード感が求められますが、アメリカほどではないでしょう。
日本では株主達の目もそれほど厳しくないですから、コストに関する考え方もレベルが違いそうです。

こんな現実と、自社の秘密を絶対に外に出したくないという気持ちが相まって、シェアラボは流行らないのかなと思います。

でもこれでいいのだろうか。

日本の研究者として歯がゆい。

技術大国日本と呼ばれていたのは遥か昔の話です。
今となってはワクチン開発競争に手も足も出ない国になってしまいました。

島国であるが故に、私たちは世界に容易に置いていかれてしまう。
そんな危機感を持ちながら、どうにか技術者で手を取り合い、限られたスペース、限られた時間を有効に使えないものかと思います。

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