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エッセイ|わたしは初めて「個」になった


先日、母が旅立った。

空はどこまでも青く
風は吹いてはいたが、日差しがとても暖かく
美しい日だった。

「少し眠いから横になりたいわ」
食事中にベッドに入った母は、そのまま眠るように穏やかで静かに最期のときを迎えた。

生前母が望んだとおりの死。ベッドに入ったら眠るように逝きたい。
「これだけ医療が進んだ現代では夢のような話だよね」
なんてよく話したものだ。

死の前日、母を病院へ連れて行ったとき
「わたし、どうなっちゃうのかしら」
「独りぼっちになっちゃうの、さびしい」
と言って

「何言ってるの、わたしが居るじゃない」
と抱きしめたら
「そうじゃないの、わからないけど独りになるの」
と。

いつもなら、そうね、あなたがいるものねって笑顔になるのに。

そんな経緯があったから、もしかしたら母は何か感じていたのかも知れない。

母が旅立つ頃、わたしの上半身がふっと軽くなった。
何か自分のまわりに乗っているような感覚だったのが、本当にふっと消えたのだ。

不思議な感覚だった。

わたしは数年前、父を亡くした。
そして今、母も旅立った。

よく「先祖代々」とか「代々のつながり」とか言うけれど
なんと言えば伝わるだろうか?
数珠繋ぎのようになっていたものが、わたしから離れたような感覚がある。

死が悲しいとか悲しくないとか、そういう話ではなく
ああ、わたしは『個』になったのだ。
やっと、わたしはわたしになれたのだ。

そう感じている。




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