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地球星人 -村田沙耶香との遭遇-

「地球星人」を読んだ。
「コンビニ人間」で芥川賞を撮った村田沙耶香氏の、受賞後初の著作となる。
「コンビニ人間」は買ったもののまだ読んでおらず、氏の作品を読むのは初めてだが、とても素直な文章ですんなりと入ってくる感覚が心地よかった。

これは抑圧の物語だ。
世間、常識、社会と対峙する一人の女性の生き様だ。
いわゆる「純文学」を構成する要素の一つとして、その時代における社会の歪さを取り上げ、問題提起をすることが含まれているが、その意味ではこの小説はまさしく「純文学」だ。

その一方で、これは優れた「エンターテインメント」でもある。
書かれている内容は決して楽しげなものではなく、凄惨で目を背けたくなるような描写もある。
でも、どこか可笑しい。
主人公は自分を守る為に「魔法」を使ったり「幽体離脱」をしたりする。
そして、それと同じような形で読者はこの物語を目撃する。

何か悲しいことが起こった時、感情が激しく蠢めく時、それを感じている自分の他に、それを冷静に見つめ、あまつさえ感想を漏らすような第二の自分を感じたことはないだろうか?
この本を読む時、その第二の自分を常に感じる。現実感、当事者意識のない、冷静な自分。どこか白けた自分。
一人称で語られるこのお話には切実さがない。感受性を取り払ってしまったような涼しい語りで物語は進む。
それが何故だか面白い。娯楽小説のように軽く楽しく読めてしまう。

しかし最後の章で読者は、世界は遭遇する。
これは抑圧の物語であり、「ファーストコンタクトSF」だ。
自分たちの仲間だと思っていた者が、とうとうその正体を現す。
異星人が地球にやってきた時、生活は変わる。
これまでと同じではいられなくなる。
拒絶なのか、迎合なのか、果たして和解はできるのか。

今僕らは異星人を目の当たりにしている。

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