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「風」

母に手を握られて
毎日商店街に買い物に行った

あれは
3歳くらいだったろうか…

長い長い坂道を
たくさんの荷物を持って歩く母の姿が
朧げに…

小さい私にとって
坂道がとても長いものに感じただけかもしれないけど

今でこそ高級住宅街と呼ばれている町だけど
私が父と母と住んでいた場所は庶民的な町だった。

近くに大学があり、その周りが散歩コースだったそうだ。

その頃の我が家には冷蔵庫はなかった

なぜ?と聞いても
「いらない」と父がいったから

母は言った。

そういえば
お風呂もなく、銭湯によく行ってた
どんなおふろだったのか、全く、覚えていない。

銭湯に行くと仲良しの友達がいた
その子に会えるのが楽しみだった。

4歳になった時
町田市の団地の抽選があたり引越しをした。

今度は冷蔵庫にお風呂があった
父は出始めのレコードプレイヤーや
ステレオを買い、休みの日は
クラシックを流していた

団地の3階
地震が来ると揺れたので
母は私を抱き、階段を降り
外に出た

揺れる地面
抱きしめられて
見上げた夜空
星が綺麗
この記憶がずっと残っている。

ご近所には歳上の面倒見の良いお兄さんがいて、よく遊びに誘ってくれたり、いじめられていると助けてくれた。


結婚をする時
本籍の確認のため
小さい頃に住んでいた町にいった

本籍を動かしてなかったから…

20年以上、行ってなかった町

「懐かしいね、この道よく買い物に使ったんだよ」

母の言葉に振り向く…

(坂道なんてないじゃん)
私は苦笑い
3歳の記憶のいい加減さに笑ってしまった。

「このアパート取り壊すって言ってたのになぁ」

3歳の記憶しかない私には
懐かしさというよりも
物珍しさがあった

仲良しの友達がいた銭湯は無くなっていた。

あ!この友達なんだけど
なんと、その後、意外な場所で再会して
時々遊ぶようになった。

引越した先の団地からバスで1時間くらいの団地に母方の祖父母が住んでいた。

私はおばあちゃん子で母にせがんで連れて行ってもらった。

その近所に、その子がたまたま、住んでいたのだ。

お互いにわぁー!となり
また、一緒に遊ぶように

年月流れて、祖父母は叔父夫婦と
同居となり、その団地を離れた

私はまた、その子と離れ離れになった

あやふやの記憶の中で
「あっちが先に引越をした」と言うのがあるけれど、果たして、どうだろう…

私も結婚を機に東京を離れた

東京はもう外の世界

ハイヒール履いて
ビシッと、スーツを着て
通った町もすっかり変わり

「あんなに仲良しだったじゃない」
と話しかけても
「だれ?」

冷たい視線を投げてくる

緩やかに
穏やかな
今住む街の風が
私にはあっているようだ

この町の人達からみたら
「お町の人」
だけど
生まれ育った町では
「余所者」

宙ぶらりんだからこそ
どちらの良さも悪さも見えるのかな

縁あって
辿り着いた
「風の街」で
強い風に吹かれながら

多分これからも生きていく

ゆるゆると
強い北風と大嫌いな雪に
文句をつけながら

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