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連載 #夢で見た中二物語 56

その人喰い柱時計は、相当の物好きでもめったに立ち入らないような山奥の洋館にあった。

洋館の持ち主は人との交流を出来るだけ避けていた老人で、もう亡くなって百年ほど経つそうだ。

彼にはアンティークものの収集癖があり、特に時計に関しては恐ろしいほど執着していたという。

我々がその洋館に向かったのは、老人の亡くなり際を誰も知らず、未だにその屋敷が放置状態であることを聞いたからだ。

今時こういった古典ホラーやミステリーは面白がられないかもしれないが、YouTubeなどもあるし情報発信の方法には事欠かない。

我々がその洋館に足を踏み入れてしばし、その柱時計を見つけた。

他の時計コレクションは専用の部屋が五個くらいある中に綺麗に並べて飾ってあるのに、その時計だけは主が座っていたのであろう大きな椅子のすぐ後ろにあった。

しかし特に変わった様子は見られないので、我々は調査を続けるために持ってきた食料で夕食を作り、食べてすぐに寝ることにした。

翌日、夜中にトイレに立ったはずのカメラマンの姿が見えなかった。

他の三人でどれだけ探しても見つからず、そのカメラマンと婚約関係にあったアナウンサーが一人で狂ったように彼を探し始め、我々はついに彼女を見失ってしまった。

・・・それ以来、彼女には会っていない・・・。

残されたディレクターである私とADは、調査を続けるか否か悩んだ。

これは、場合によってはかなりの事件だ。

あれから苦労して全部屋を回ったのだが、カメラマンもアナウンサーも全く姿を表さないどころか、周囲に生きているものの気配すらしないような始末。

二人で話し合い、さっさとこんなところ出ようという話になった。

だがいざその時になって、我々は一体出口が何処なのかサッパリ分からなくなってしまっていた。

確かにこの屋敷は暗く恐ろしい雰囲気に包まれていて広くはあるのだが、構造自体はそんなに迷うようなものではなかったはずだ。

だから我々は再び屋敷中を回ったが、結論でいうと出入り口の扉がなくなっていたのだ。

我々は何度も屋敷中を巡り、屋敷の壁を破壊しようとすらしたが、目眩のような妙な感覚に悩まされてそれを遂げることがどうしても出来なかった。

故に例の柱時計のある大広間に戻り、作戦を立て直すことにした。

話し合いを開始してしばし、不意に二人とも何かの気配を感じた。

先ほどまでこの空間自体が死んだもののようだったのに、確かに何かの気配を感じたのだ。

・・・我々は、金縛りにあったように動けなかった・・・。

しかしその背後から迫り来る気配に、ADがバッと背後を振り返った。

その途端に彼は悲鳴を上げ、瞬時に立ち上がって一目散に走り出した。

相変わらず動けずにいる私のすぐ横を、目にも留まらぬほど高速で移動するものがかすめたように感じた。

・・・遠くに聞こえていたADの悲鳴が、突然消えた・・・。

それからしばらくして再び背後に気配を感じた私は、覚悟を決めたようにゆっくりと振り返った。

・・・そこには、ガラスの扉を開いた柱時計が立っていた・・・。

始めは分からなかったが、よくよく見ると・・・その柱時計の端々に血のような染みが付いていたのだ。

その柱時計は、人の願いを叶える代わりにいつかその主を喰うと言われていた。

元々アンティーク時計好きだったこともあって面白がって購入したが、それ以来、人が苦手で引きこもりがちだった私の元には、願うだけで地位も名誉も金も入ってきた。

私は浮かれていた。

だがその柱時計のいわれを思い出した私は、次第に恐ろしくなった。

この柱時計は人前にさらしてはいけないものと思い、得た金で誰も来ないような山奥に洋館を建てて、生涯そこで柱時計と共に過ごすことにした。

誰も側に置かないで、たった一人でこの場所で人生を終えることにした。

・・・だが死に際、やはり寂しくなってしまったのだ・・・。

願ってはいけないのに願ってしまった、今にも私を喰おうとしている柱時計に。

・・・もう一度、誰かに会いたいと・・・。

2XXX年、SNS上で発信元の分からない面白ネタが話題になった。

それは某所の山の中にある洋館の話で、どうも実在するものらしい。

そこには人を喰らう柱時計があって、一種の心霊スポットとなっているそうだ。

だが実際に行方不明者も出ているとのことで、注意喚起がなされているようだった。

それは他愛もない、ただの一つの都市伝説やオカルトの類かもしれない。

面白がって心霊スポットに赴いた少年たちが何気なく茶色い手帳を拾い上げ、そこに取材のネタが書かれていたとしても気にも止めないかもしれない。 

・・・だが確かに、その洋館から願いが発せられて柱時計が叶えてくれたのだ・・・。

「・・・実際にワタシが体験した恐怖の取材ネタを、多くの人々に伝えタイノd...」

☆☆☆



久しぶりの夢物語、本当はもっと長かったのですが短縮しました(意訳:一度、下書きが全部消えた)。

今回はいつもの趣を異にして、慣れないゴシックホラー的なミステリー的な夢物語でしたね。

人の願いを叶えつつ、最後にはその願いの主を喰らってしまうという柱時計。

人の願いを叶えるために喰らうのか、人の願いを叶えたから喰らうのか、それとも人を喰らうために願いを叶えるのか・・・それは不明です。

洋館の主の願いは「人に会いたい」→そしてやって来た主人公であるディレクター(とADも多分)の願いは「この屋敷での恐怖体験を多くの人々に伝えたい」/カメラマンとアナウンサーの願いは「(取材自体にはそんなに興味ないけど)お互いに一緒になりたい」というもの。

・・・まぁ、ある意味叶っているのでしょうか・・・ σ(^_^;

とにかく、誰も救われない話のような気がしないでもないですが (>_<)






中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。