見出し画像

19:一度命を手放した話①

マガジン「人の形を手に入れるまで」の19話目です。まだ前書きを読んでいない方は、こちらからご覧ください。

大切な友人を2人も天に見送るという怒涛の大学生活を終え、私はなぜか市役所で働くことになった。もちろん正式採用ではなく、臨時職員だ。大学生活後半の2年間で起きた「不幸」は、もともと薄弱だった私のメンタルを打ち壊すの余りあった。集中して挑めなかった国家試験はもちろん惨敗。試験不合格だった場合に備えて受けた臨時職員試験が、思惑通り生きた形だった。

ちなみに、臨時職員での経験はあまり今に生きるものではなかった。でも、自分の身に起きてよかった時間だとも思っている。大学の4年間、私は心理や精神保健について学んだけれど、当時はまだそれらを活かせる状態になかった。正直そんなメンタルで精神分野に従事したら、自分を含め死人を出したかもしれない。それくらい私の中身は不安定だった。

*********

『今日、死のうかな』

それは本当に唐突な、発作のような衝動だった。

『明日から5日間休みだから、初日に実行すれば失敗しても回復するし、初日に死ねば業務に開ける穴が少なくていいんじゃない?』

今思い出しても論理が破綻しているが、おそらくあの時私は感覚が狂う瀬戸際にいたのだろう。思い立ったらやらずにいられなかった。家にあった向精神薬、睡眠薬、痛み止め、下痢止め、便秘薬、ありとあらゆる薬を出して、飲みやすいようすべてボウルに入れた。そして風呂場に場所を移し、それらをお酒で流し込んだ。

風呂場に移ったのは、吐いたり失禁した時に掃除がしやすいと考えたからだ。これなら汚しても安心。水で流せばすぐに原状回復。最期の時にテレビを見たりとかの娯楽がないのは淋しいが、生まれてから今まで迷惑しかかけなかった母の手を、できるだけ煩わせず死んであげたかった。

お酒のせいか、薬のせいか、ふわふわとした感覚が私を襲った。それは騒がしい飲み会を終えた時の虚しさによく似ていた。

途中、酒と薬の匂いで気持ち悪くなったのは覚えているが、どれくらいで意識を失ったのかは覚えていない。次に気がついたのは深夜帯の大学病院。ナースステーションすぐ脇の経過観察室の中だった。



駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!