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息をするための

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2020年4月の記事一覧

春吼

春吼


花束
金鳳花
爪先立つ
別れの瞬間
またねと呟く
ぎょっとする癖
嘘をついたような
後ろめたさが刺さる
もう偶然では逢えない
餞別なんか渡さなければ
さよならさえ言わなければ
別れを遠ざけられると信じて
こどものように口をとがらせて
ただ背を向けることしかできない
私を置いて春になる生暖かい空気に
やり場の無い気持ちをぶつけてみても
きみがいないと私はなぜか息ができない

弾時雨

弾時雨

みな最前線に居たはずなのに
安全圏から放たれる矢
自分の体を、正しさを
守るポーズで矢を放ち
勝てそうな敵を見付けて殴り
正当防衛と高らかに

君は弱い 私も弱い
君がふるふる震える手で
その矢を掴んで構えるわけを
私はどうして解ってしまう
弱いことは罪ですか?

いつしか言葉は貌を持ち
呟きは声より遠くへ届き
自ら放ったその矢尻を
誰かが拾ってまた放つ
始まるのに終わらない
終わらないのにまた始

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走る万華鏡

走る万華鏡

随分呆気なく学生生活が終わってしまった。小学校に入学してから16年。私の人生の大半だった。今更になってくるくると記憶の破片が脳裏を廻る。

高校大学の7年は、ほとんど同じ通学路を行き来していた。

広瀬川は青葉萌ゆる新緑の季節が一等美しく、秋になると歩道まで枝を伸ばす母校の紅葉がガラス細工のように陽を透かし、そして散らしていた。

心理学を学んだ。
自分の苦しさ、あのこの生きづらさ、彼の父が死んだ

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冬の空蝉

冬の空蝉

或る秋の夕暮れ
大学の松のひび割れた肌に
何やら光るものを見つけた
近づいて見ると蝉の抜け殻が獅噛付いていた
ふと視線を落とす、と、そこにも居た
随分長い間踏ん張れるものだなと、感心した

或る冬の朝
雪を柔らかく肩に掛けたあの松を見て
どうだろうかと近づいてみた
まだ彼はそこに居た
ふと視線を上げる、と、そこにも居た

君、もう冬だよ
君の出番は茹だるような夏だろう
草木が蒼く萌え盛る あの夏だ

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