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想い出は雪の結晶のように

窓の外には
白い粉雪がちらちらと舞っている
ガラス窓から冷たい空気が伝わって
思わず
身震いした

卒業まで学校にくる日

あと13日

教室の掲示物が伝えてくる

そう考えると
胸の奥がぎゅっとなる
クラスメートは
みんな前を向いて
先生の説明に聞き入っている

入試が近い
その事実が
卒業への切なさを
焦燥感に変える

隣に座る友の横顔を盗み見た
真剣な表情
難関高校入試に挑戦する彼女に
周りを見回す余裕はない

別々の道

つい最近まで
小さなことで笑いあい
じゃれあっていたのに
授業中も
先生の目を盗んでは
顔を見あわせて笑いあっていた

それぞれの道

語りあって
慰めあって
笑いあう時間を
惜しむように机に向かう友
なんだか
置いてきぼりにされたような私

旅立ちへの準備の特別な時間
教室は
絵の具を
ごちゃまぜにしたパレットみたい

進学先を決めて
心はすでに遠くのほうにあるもの
卒業までの日数をカウントしながら
やたらとテンション高いやつ
その横で必死にたたかっているやつ
私みたいに
なんとなく
ぼんやりと日々を過ごしているやつ

それぞれの
思い思いの色が
ごちゃまぜになって
なんとも言えない色を醸し出す

思えば
私たちの中学時代の始まりは
ばらばらだった
見えないものと戦い続けた3年間だ
入学してすぐに学校は休校
やっと
通えるようになっても
分散登校だった

マスク姿の友と先生の顔は
笑っているのか
怒っているのか
分からなかった

時計の針が
なかなか進まないような
じれったさや曖昧さを
いつも感じていた

ぼんやりと始まった学校生活

だけど

やがて

私たちはその中での
楽しみ方を覚えた
工夫することで
協力することで

できないを
てきるに変えた

見えないものとの戦いは
見えないものの支えで
乗り越えられると知った

マスク越しの交流でも
ほんの少し
今までより
心を開くことで
繋がることを知った

見えないものに支えられた3年間

あと13日

意味のないはずだった数字が
大きな意味と重みを連れてくる

あと13日

何ができるだろう

学級訓の
「まほろば」の文字が教室を
見下ろしている

この教室での想い出は
窓にくっついて消える
あの雪のように
溶けてしまうのかもしれない

でも
あと13日を
大切に生きることで
美しい想い出を
またひとつ
つくることができるかもしれない


まほろばの心に積もる想い出は
雪の結晶ノートの切れ端





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