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しっかりと「事業に寄り添う」。CFOに聞く、ABEJAのコーポレート部門が大切にする考え方

ABEJAの取締役CFOとして、コーポレート部門を統括する英(はなぶさ)。証券会社に約10年間勤務した後、ITベンチャー企業でのCFO職を経て、2021年11月にABEJAに参画。CFOの立場から、事業成長や組織体制の強化を推進してきました。

そんな英が重要視しているのが「事業に寄り添う」という考え方です。自身が会社の下地となるルールや仕組みを作るにあたって「事業の成長を妨げない」ことを大切にしているだけでなく、チーム内でも事業部のメンバーと積極的にコミュニケーションをとることを求めているといいます。

なぜ事業に寄り添うことが重要なのか。そのように考えるに至った原点やABEJAのCFOとしての取り組みについて、代表取締役CEOの岡田陽介とともに英に話を聞きました。

英一樹 / 株式会社ABEJA 取締役CFO
公認会計士。1978年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2003年に野村證券株式会社に入社。企業情報部にてM&Aアドバイザリー業務、公開引受部にてIPOアドバイザリー業務に従事。M&Aでは数千億規模の案件を遂行するとともに、ディール・マネージャーとしてチームを統率、IPOではマザーズ上場会社の支援から数千億規模の上場案件を担当。その後、2013年に株式会社アイリッジに入社、取締役CFOとして内部統制の構築、上場準備を進め、2015年にマザーズ上場、第三者割当増資による資金調達やM&Aによる子会社化、合併等を実行。2021年11月にABEJAに参画。2021年12月より執行役員CFO。2022年3月より現職

事業に寄り添いながら、仕組みやルールを整える

── まずは英さんが現在担当されている業務の概要について教えてください。

英 : いわゆる「バックオフィスの領域」が担当です。具体的には経理、財務、法務、労務、総務といった業務を見ています。

機能としてはそれぞれ分かれているものの、特にABEJAのような規模の会社では、みんなが自分の領域を少しずつはみ出しながら、やさしいパスを出しながら業務を進めています。それが円滑に回るように環境を整備したり、重要な点について先出したりすることも、自分の仕事だと考えています。

とはいえ「自分でやった方が」と、ついつい手を動かしたくなる時もありますが、これからさらに大きな会社・チームになっていくことも考えて、なるべく手を動かさず、仕組みを整えることを大事にしています。

── CFOとして特に重点的に取り組んできたことや、意識してきたことがあれば伺いたいです。

英 : 前提として、CFOの役割は会社の状況やステージによっても変わってくると思っています。

ベンチャー企業の場合、最初は何かを管理する人よりも事業側の人材ニーズが高いです。多くのベンチャーは社長が自ら営業をやったり、プロダクト開発をやったりするところからスタートして、少しずつ仲間を集めながら、事業を作っていきますよね。

だんだん売上が伸びてくると、管理する役割が必要になってくる。その前後くらいのタイミングで、成長のエンジンとして外部の投資家などから資金調達を実施することもあります。

ABEJAの場合はどうだったかというと、私が入社した時点で外部からの資金調達に一区切りがついていました。ある程度資金が確保されている中で、事業をさらにもう一段階伸ばしていこう、並行して組織体制を強化していこう、という段階でした。

ベンチャーではよくあると思いますが、ABEJAも中途採用で参画してきたメンバーが多かったので、それぞれが異なるDNAを持っています。例えば数万人規模の会社からきたメンバーだと、統制の仕方が非常に細かかったり、厳しかったりする部分がある。一方で未上場企業出身のメンバーだと、細かいルールがあまりなかったという人もいる。

そういった中で、ABEJAの考え方やルールを一緒に整理しながら、社内にしっかりと浸透させていく。その上で今の会社から半歩先、一歩先を見据える。今のABEJAであれば、まずは300人ほどの組織になったときのことを踏まえて、必要な仕組みを先取りして整えていくということをやってきました。

岡田 : 英さんはABEJAに入社されたのが2021年11月なので、役員陣の中では比較的最近のABEJAを外からの視点で見られていますよね。実際に入社してみて「想定よりも良かった点」と「改善が必要だと感じた点」をぜひ聞いてみたいです。

英 : 良かったのは売上ができていく体制が構築されていたこと。お客様からの引き合いがあり、それをきちんと成約させていく部分も含めて、組織として売上予算をきちんと達成するという考え方が根付いていた点はとても良かったなと感じました。

逆に改善の必要性を感じたのは、先ほども触れましたが、少し先の組織規模を見据えてのルールや意識付け、ルールはあるものの浸透・運用が弱い部分(やりきれていない)、ルールを現状に合わせてブラッシュアップしたほうがよい部分などです。

基本的なところでいうと月次数字が出てくるのをもっと早くするためのボトルネックを解消していったり、予算と実績の差異要因を掘り下げる過程で事業部側にも投げかけ、売上だけでなくコスト面にもより意識をもってもらったり。物品購入や経費全般、お金の使い道が予算と比べてどうなのかを、稟議申請をあげる際に書くようにしてコスト意識を持つといったこともそうですね。

もちろん営利企業としてやっているので売上、利益をしっかり出していくことが大事です。でも、そこまでの道のりとしてのルール、事業活動の下地となる仕組みをブラッシュアップしていくことが仕事だと考えていました。

取組んでいくにあたっては、「将来の視点、事業に寄り添うこと」を念頭に置いていました。今は必ずしもなくてもよいがこの段階で仕組化しておくことが今後を見据えるとベターとか、反対に窮屈になりすぎて事業の成長を妨げるといったことがないようにとか。

一方的にルールを作って押し付けても意味がないので、ビジネスの状況を理解し、みんなが納得した上で進められるようにルールを浸透させていくことが重要だと考えています。

しっかりと「事業に寄り添う」ことが大切。チームに関しても事業部のメンバーと積極的にコミュニケーションをとってくれる人、もしくはとれそうな人を求めていますし、まずは事業部の話をよく聞こうということを常々伝えています。

その中で難しいことやできないことは、きちんと伝える。そしてできる方法はないかを一緒に考える。私自身もそれを大事にしています。

「事業に寄り添う」の原点は証券会社時代の経験

── 英さんはもともと証券会社に入社されていらっしゃるんですよね。

英 : 社会人になってから20年ほど経ちますが、最初の約10年間を野村證券で過ごしました。そのうち7年間はM&Aのアドバイザリー業務、3年間はIPOのアドバイザー業務に携わる中で、さまざまな企業の成長のお手伝いをする仕事を経験しました。

証券会社時代にアドバイザーというかたちで大企業の方々をお客様としたビジネスをやっていたことから、事業側の気持ちもわかる部分があり、それが「事業に寄り添う」という考え方の原点なのかもしれません

もちろん全部がわかるとは言えないですが、一生懸命提案をして、順調に進んでいたと思っていたのに最後の意思決定で白紙になった案件も、逆に数ヶ月かけて関係性を築き上手くいった案件もあります。

私の場合は証券会社で10年間、大企業の方々と向き合ってきたので、その体験も大きかったと感じています。

野村證券を離れた後はIT系のベンチャー企業に入って、上場も経験しながら約7年間在籍していました。CFOの仕事も前職からです。

個人的には、これから上場を経て拡大していくような組織に加わり、必要な仕組みやルールを整備しながら、会社の成長に貢献したいという想いがあって。もう一度そんな挑戦をする場所として、ABEJAは面白い会社だと思ったのが入社のきっかけです。

── ご経歴だけを見ると、ファイナンスを中心にバックオフィスの業務の経験が豊富で、「かなりカッチリされている方」という印象を持つ人もいるかもしれません。ただ、社内では「柔らかくてフランクなキャラクター」という話を聞きます。英さんのキャラクターのルーツはどこにあるのでしょうか。

英 : 中高ではラグビーをやっていました。つらいことや思い通りにいかないことなんかもありながら、「それでもみんなで1つになって何かを成し遂げることが楽しいよね」というチームスポーツの影響も大きいと思います。

個人でスキルを磨いて頑張らなければいけない時、個人でタスクをこなさなきゃいけない時はもちろんありますが、結局「会社」という組織でやっていく上では、みんなが同じ方向を向いて協力していく。せっかく同じ会社で働くのだから、それができる人とやりたいという思いはあります。

時には部署間で意見がぶつかり合うこともあります。それぞれが会社のために「こうしたい」という想いを持っていて、それが部署、役割、立場によって変わってきているだけ。そうであるなら、一方的に「心に響かない正論」を振りかざすよりも、相互に理解し、一緒に着地点を見つけにいくことが大事なんじゃないかなと思っています。

── 確かに「事業部門VS管理部門」みたいな構図で、対立が起きているという話を聞いたりもしますよね。

岡田 : もちろん正論もすごく重要ですが、それだけを一方的に伝えているだけでは組織は動かないし、信頼関係は生まれない。

あとは「リスクに対する許容度」みたいなところも、人によって考え方が分かれそうだなと。「極力リスクは取りたくない」というCFOの方もいらっしゃるかもしれないけれど、やっぱりスタートアップって一定程度のリスクを取らないと何も進まないことが、現実としてあったりもするので。

英 : 何かの事業に挑戦して売上を作ろうとすれば、多かれ少なかれリスクは必ず出てきます。

特にイノベーションを起こそうとしているベンチャーであれば、ある程度はリスクも許容しなければいけないと思っている一方で、重要なリスクを把握して未然に防ぐ仕組化を進めていく、その辺りをうまく落とし込んでいくことが経営チームの仕事なのかなと。

理想は専門領域の知見に加えて「ビジネス感覚」を持ったCFO

── 日々の仕事の取り組み方など、これまでの経験が影響しているのでしょうか。それとも意識的に取り組まれている部分も大きいのでしょうか。

英 :この立場になってから意識的にやっている部分が多いかもしれないです。根本的には細かくやるのがすごく好きで、割と自分で手を動かすタイプだと思います。

でも、ABEJAで求められている役割はそうじゃない。だから最後は自分も動ける程度の余白は残しておきながら、チームのみんなに任せるようにしている感じですかね。

岡田 : 英さんが言うように、スタートアップって「最後は自分で何とかしないとまずい」ということが結構あるんですよね。だから経営チームのメンバーがそれぞれ個として尖ったものを持っていて、ある程度自分でも責任を取れる状況にしておき、うまく塩梅を取りながらチームのメンバーとコミュニケーションをしていくことが重要だなと改めて思いました。

英 : いつまでも自分がやっているわけにはいかないし、組織が拡大していく時にはチームもレベルアップしていかないといけない。だからこそ、メンバーの成長を促すような仕組みというか、メンバーが育つやり方を整えないといけないと思っています。

── 「メンバーが育つやり方」という観点で、英さんがチーム内で伝えていることや、取り組まれていることがあれば教えてください。

英 : バックオフィスは、まずは安定運用することがすごく重要です。だから目標を考える際には60%程度は「安定運用すること」を考えようと。一方で残りの40%は新しい切り口から業務の効率化に取り組むとか、自分のやってみたいことに挑戦するようにしようと伝えています。

狭義のバックオフィス業務だけにとらわれるのではなく、ベンチャーならではの改善点やもっとよくできる部分がたくさんあるからこそ、そういった部分にも目を向けながら一緒に取り組んで欲しいです。

── そのようなやり方を取り入れているのはなぜでしょうか。

英 : ルーティンだけをやっていても、面白くないと思うんですよね。もちろん経理であれば月次の締め作業を毎月やらなければいけないとか、労務であれば毎月勤怠の管理をやらなければならないとか、そういった業務は一定数あります。

そこは先ほども言ったように、安定的にしっかり運用しようと。ただ、そのやり方自体をもっと効率化するアイデアを新しく考えるのも大歓迎だし、プラスアルファの価値を出していくために事業部のメンバーを巻き込んで考えたいというのであれば、それもやってみようと伝えています。そっちの方が面白いし、今のABEJAはそれがやりやすい規模でもあるので。

岡田 : 私としては、会社としての成長や新しい挑戦を考えると、40%のフレキシビリティを許容しているくらいがいいと思っています。普段会話をしていても、「ここは絶対に押さえておかないといけない」というところと、「ここは結構チャレンジングにやってOK」という部分のバランスがすごく上手だなと感じます。

英 : そこは会社として売上の土台ができているというのが大きいですよね。それがあるからこそ、次にどんな挑戦をして、どうやってお金を使うのか。その部分はある程度許容度をもってやれば良いと思っています。

あと自分の中でずっと思っているのが、専門領域に加えて「ビジネス感覚」を磨き続けていたいということです。

これは証券会社時代にM&Aのアドバイザリー業務の一環で、いろいろな弁護士の先生と仕事をした時に感じたことです。良い先生は、正論だけを押し付けるのではなく、案件の状況や事業の観点を踏まえて「それならこの論点を押さえておいた方がいい」とアドバイスをくださる。そういうビジネス感覚のある弁護士の方は、すごく心強かった。

CFOも共通する部分があると思っていて。もちろん内部統制、コンプライアンス、ファイナンスなど、大事な論点はたくさんあるけれど、忘れてはいけないのは「事業」をやっているということ。その中におけるCFOという役割なわけで、自分としても常にビジネス感覚とか事業感覚を持ちながら業務に取り組んでいたいと考えています。

未成熟だからこそ、ブラッシュアップできる余白も多い

── スタートアップのCFOの方だと、英さんのような考え方をされている人が多いのでしょうか。

英 : そこはやっぱり人それぞれですよね。どういうCFOが求められるのか、会社の風土や事業の方向性などによっても分かれてくると思います。

岡田 : 会社のフィロソフィーやビジョン、ミッションに立ち返るところでもありますよね。例えばイノベーションを促進していこうという会社に対して、ものすごくしっかりと管理するのが得意な人がくると、フィットしづらい部分はあると思います。

ABEJA自体も初期は「なかなか売上がたたない」というところから始まり、紆余曲折を経て現在に至っています。ガチガチの管理会計ベースの話をされてしまうと、うまくいかない部分はあったかもしれないです。

英 : 「イノベーションで世界を変える」というビジョンを掲げてやっているのに、実際に中に入ってみたら「ものすごくガチガチに管理されていて、すごく息苦しかった」となってしまうようであれば、それは・・・。

ABEJAの中にも未成熟な部分はまだあります。でも今の時点で完璧な状態にする必要はないと思っていますし、事業成長にあわせながら少しずつみんなでブラッシュアップしていきたいです。大事なものはすぐに片付けながら、あとは順番を付けて楽しみながらやっていこう、というのが私のスタンスです。

── そういう意味ではまだまだ改善できる余地もあるし、チームとしても、もっと拡大していきたい思いはあると。

そうですね。一芸プラスアルファを持っている人、もしくはそうなりたいと思っている人と一緒に働きたい。「自分のところだけをきちっとやればいいんだ」という視点の人だと、今のフェーズには合わないかもしれません。

すぐに「3本の軸を作ってください」とまでは言わないですが、メインとサブぐらいは尖ったところを作れると、違ったものの見方や動かし方ができるようになるので。そういう人が活躍できる場所を整えていきたいです。

── 冒頭で、状況に応じてCFOの役割も変わるというお話もありました。上場を経て、チームとしてもまた新しい挑戦が始まりそうですね。

上場企業になるということは、株価を通じて毎日評価されるわけなので、大変な部分も増えるとは思います。一方で、これからさらに面白くもなると思っています。

今回集めた資金も活用しながらさらに成長していくことが求められるし、それにあたってはファイナンスを絡めたさまざまな手段も含め、自分の経験や得意なことが活かせると考えています。仲間を増やしながら、より発展したチームを作っていきたいですね。

ABEJAは、一緒にゆたかな世界を実装していく仲間となってくれる方をお待ちしています。

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