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三島由紀夫「剣」

驚くほど退屈な短編だ。

話としては、剣道部の群像劇。主要人物は、
国分次郎、壬生、賀川。

国分は隠し立てのない、正義と公正を重んじる性格の主将。
壬生は純粋に国分を慕う一年生。
賀川は国分にねじれた愛着を感じる部員。

退屈の理由は、これが「小説もどき」だからだろう。
最後、国分は死ぬ。部員たちが、国分の言いつけを破り海に行ってしまった。そこから、彼の自尊心に従って自殺した。 

しかし、この死を真に受ける読者はどれくらいいるだろう?

三島が手抜きと意識しないそういう手抜きが、「剣」にはそこここで見られる。それが「剣」という作品が、モサモサしたカリフラワーのように魅力のない理由だと思う。

彼は他者の声を殺して、自分の好きなもので溢れた子ども部屋に閉じこもった。滑稽だ。

昭和三十八(1963)年発表。
三島由紀夫38歳。

(追記)しかし、作中血を百合の花で拭うシーンがある。それは好きだ。
血と百合。このまま三島の短編のタイトルにしてもいいくらいだ、美しいと思う。

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