見出し画像

"グローバル企業税"導入の提言

現在、世界各国政府は、グローバル企業への対応に頭を悩ませている状況があります。

例えば、タックスヘイブンを利用した税逃れや、グローバル化に伴う海外への工場の移転による産業の空洞化は、グローバル企業が、国家に損害を与えるような行為の代表例であると思います。


今現在、タックスヘイブンを利用する企業に対する対抗策として、連結納税制度という税制が導入されております。

しかし、その一方で、海外への工場を移転を行おうとする企業の意思判断を抑制するような政策が無いのも、事実であると思います。

ですので、以下においては、海外に工場や拠点を持っている企業に対して、課税を行うという、言わば、"グローバル企業税"の導入について、提言してみようと思います。


1.産業の空洞化は、国家にとって害が多い

工場の海外移転によって、商品価格が下がるという効果はあるものの、各種税金や社会保険料の減収によって、国家の財政に大きな悪影響を及ぼしてしまう事は、事実であると思います。

また、当然、国内の雇用情勢にも悪影響を与えてしまうため、失業率を上昇させてしまう事も事実です。

実際、アメリカの中間層の没落に起因する貧富の格差の拡大の一因は、製造業の工場の海外移転にあるとも言われております。


2.製造業の工場移転を抑制する税制の具体案

そして、私の考える"グローバル企業税"の具体案としては、"大企業やその関連企業が、海外法人に出資した出資金自体について、課税を行う"というものを考えております。

今回は、"グローバル企業に、海外での工場新設を抑制する"という目的があるので、大企業が、海外で製造業を営む場合等、そういった要件を付け加えるのが良いと思っております。


3.法人税制度は見直すべき

確かに、法人税は、税金の中でも、政治色が強い税金であり、租税条約等の兼ね合い等から、他種の税法と違って、容易に変更出来ない事は間違いありません。

しかし、"法人の所得に対する課税"という概念をベースに持つ現在の法人税法は、現状、法の抜け道を利用し、節税や脱税を行う事で、数億円以上の税金逃れを行っている企業が多数存在する事から、明らかに欠陥のある法律であると言わざる負えません。

ですから、本記事で提案させたいただいたように、"海外への投資"自体に課税を行ったり、"法人の所得に対する課税"とは異なるやり方で、課税していかなければ、法人税自体、あって無いような物と言える状態となってしまう事でしょう。


4.タックスヘイブン対策

本章では、これまでの日本や海外諸国における私の知り得る限りのタックスヘイブン対策を述べ、最後に、私見のタックスヘイブン対策を述べたいと思います。

①連結決算制度

まず、連結決算制度とは、国内に拠点を持つ企業が、タックスヘイブンに子会社を作った場合、その子会社の所得と、国内の本企業の所得を合算して、そこに法人税を課税するというやり方となります。


②移転価格税制

次に、移転価格税制ですが、タックスヘイブンに子会社を作って、国内の親会社と取引を行う場合、課税額を最小に抑えるため、子会社と親会社の間で、商品やサービスの価格を、最適な値段に自由に変更するという事ができます。

ですから、"子会社と親会社を、完全に利害関係を持たない一切無関係の会社同士の取引と見做した場合、本来の価格であれば、どのような価格が最適であるか?"というのを割り出し、その本来の価格での取引があったと見做し、課税を行うという手法です。


③DST(Digital Service Tax:デジタル・サービス税)

これは、まだ、フランスやイタリア等で検討されている段階ですが、GoogleやFacebook等、デジタル広告業を行っている企業を対象に、広告掲載料自体に課税を行うという手法となります。



私案①:個々企業毎に、時限式の租税特別措置法を作る

やはり、これまでの租税回避対策の歴史を見ても、"グローバル企業"という括りで、租税法案を作っても、個々の企業から税制対策を実施され、法の穴を突いて、逃げ切られるのが、オチだと思います。

ですから、1年という時限を設け、一つ一つの企業に対抗し得る一企業のみをターゲットとした租税特別法を作るのが、最も効果的であると考えております。

色々、憲法上の問題はあるかと思いますが、今の憲法の規定は、100年~300年前に出来たものであり、それに準拠していては、グローバル企業を課税する事は不可能であると思うので、効果的にイタチごっこを行うため、国家の対応も進化させるべきであると考えます。


私案②:消費税や所得税で、法人税を代用する

いくら、グローバル企業が、得た所得をタックスヘイブンに流せるとしても、顧客と企業間の取引が行われる瞬間に課税されてしまえば、逃げ切る事は出来ません

ですから、そういう意味で、消費税を増税し、法人税の代用とする事は、有効な手段だと言えます。

実際、今回参考にした一部の著書内においても、"需要地(消費地)において、課税すれば良いのではないか?"という案が掲げられておりました。

なので、中小零細企業には、軽減税率を適用し、大企業やグローバル企業の行う取引にのみ、高い消費税を課すという事を行えば良い訳です。


また、それと同時に、法人税が課せなくとも、法人から個人に支払われる配当金等に対する課税も強化すれば、同様に、所得税で、法人税を代用出来ると考える事が出来ます。


元々、法人税自体、負債の調整によって、いくらでも、納税額を調整する事が出来てしまう欠陥の多い課税手法と言えます。

なので、消費税や社会保険料、所得税に重きを置く事は、労力に見合った対価を産まないであろう法人税の改良に尽力するよりは、コストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。


まとめ.

本記事で最も伝えたかった事は、既存の法人税システムは余りにも欠点が多いため、他に、有用な法人課税のシステムを作り出さなくては、租税国家(福祉国家)は成り立たなくなってしまうのではないかと言うことです。

実際、最近では、一人社長からなるマイクロ法人でも、多額の節税が出来るという本が出回っております。

ですから、現状においても、法の抜け道を徹底活用する企業は山程あるので、今後何の対策も行わなければ、税金を納める企業の方が、極少数であるような社会になってしまうでしょう。


また、今回は、大企業の工場移転を防止するというケースに焦点を当てましたが、実際の所、日本の大企業が、市場原理に基づき、海外の資源を目的として、海外に工場や会社を設立するという事は、長期的に見れば、日本においてもメリットがあると考えております。

例えば、海外に工場を移転しても、日本から中間財や人材を仕入れたりする場合は、当然、日本国内の企業の景気も潤い、日本人の雇用情勢も良くなるでしょう。

また、海外に工場を新設したりという、所謂直接投資は、海外で最終財を作り、日本に輸出するという目的に限らず、現地で販売したり、第三国に輸出するという端から海外市場が目的である場合も多いです。

また、直接投資も、一種の投資であるので、利益が上がれば、日本国内の法人に還元されますので、実際、直接投資で得た利益の日本国内への還流も年々増加しているようです。

更に、国家間の直接投資が活発になれば、世界経済が上向く事から、結果的に日本経済も上向くため、短期的に見れば、日本にデメリットが多いと考える事も出来ますが、長期的に見れば、企業の工場移転に対し、変な制限を設けない方が良い可能性は高いと言えます。


ですから、以上を総括してみますと、グローバル化は確かに、長期的に、日本経済には良い影響を及ぼす事は間違いなく、国家が、グローバル化を阻む事も不可能だと思っておりますので、税制もそれに追随させ、進化させなければ、租税国家は上手く運営出来なくなるであろうと言うことです。

参考文献.

・税金を払わない巨大企業 (文春新書)

・なぜ多国籍企業への課税はままならないのか

・租税理論研究叢書31 企業課税をめぐる内外の諸課題 (租税理論研究叢書 31)

・法人・企業課税の理論 (租税法研究双書)

・タックス・ヘイヴンの経済学: グローバリズムと租税国家の危機

・拡大する直接投資と日本企業 (世界のなかの日本経済:不確実性を超えて7)



この度は、記事を最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。 Amazon Kindleにて、勉強法などの電子書籍を販売中です。 詳細は、下記公式サイトをご覧ください。 公式Webサイト:https://www.academicagent.net