見出し画像

全ての政治責任を負うのは国民である

まず、現在の日本社会においては、"政治の責任は、政治家が負うべきだ"という認識が一般的であり、各評論家や野党の政治家等は、政治上で問題が起こった際、事ある毎に、"政府や与党に責任がある"という趣旨の発言を行います。

そして、現実問題、"政治家が責任を負った"と認識される唯一の行為は、内閣の解散だと思います。

しかし、内閣を解散する事は、本当に政治家が、政治責任を負うような行為であると言えるのでしょうか?


現在の法制度上において、"責任を負う"という事は、即ち、被害者に対し、賠償債務を負うという事に等しいです。

しかし、内閣を解散した所で、委任者である日本国民に対し、与党の政治家達が、賠償債務を負う事はありません。

つまり、内閣を解散する事は、政治家が政治責任を負う行為では無いと考えられます。




1.全ての政治責任を負うのは国民である

日本国憲法の重要な規定の一つとして、"国民主権"というものがあります。

これについては、改めて説明するまでも無いですが、各政治家と言うのは、国民から政治を委任された被委任者に過ぎず、権利者は、あくまでも、日本国民であるという事です。

そして、一般的に、責任を負うのは、常に権利を持つ者に限られますから、政治の責任を負うのは、日本国民であるという事になります。


2.政治家は、政治責任を負う必要が無い

一般的な委任契約であれば、契約内容が、明確に定まっている場合が主なので、被委任者が、契約通りの債務を果たさない場合は、責任を負い、損害賠償責任を負う事があります。

しかし、政治を、政治家に委任する場合、自由委任(白紙委任)をするものと、憲法上解釈されるため、そもそもの契約内容が明瞭では無く、政治の結果と言うのは、明確な基準に基づいて評価する事が出来ないため、政治家達は、契約違反による罰則を受ける事はありません。

なので、政治家達は、どのような政治を行い、その結果がどうであれ、基本的に、その責任を負う事は有り得ないと言う事です。


3.国政選挙が、唯一、政治家に政治責任を負わせられる機会である

前述の通り、政治家達が、どのような活動を行ったとしても、政治責任負う事はありません。

しかし、政治家達に、政治責任を負わせる事の出来るような唯一の機会として、国政選挙があります。

そして、日本国憲法上、それ以外、政治家に手出しをする機会は存在いたしません。


4.日本国民が、政治の全ての責任は自分達にある事を自覚しなければ、日本の政治が進展する事はない

戦後、日本と似たような境遇を持った国として、ドイツが挙げられます。

そして、ドイツにおいては、二度とヒトラーのような独裁者を誕生させないために、数々の政治改革が行われており、ドイツ国民の政治への参加率や関心は、日本に比べても、非常に高い事で知られています。

その一方で、日本においては、戦時中の政治責任についての認識として、"軍部が悪い"等、他責の認識が主であり、"当時の日本国民が悪かった"という認識がされる事はありません。

しかし、当時の日本国民が、戦前の二大政党やその政治家達に失望感を抱いていたのは事実であり、軍事政権が誕生した事は、当時の日本国民の民意に反していたとは、完全には言い切れない訳です。


なので、あくまでも個人的な推察になりますが、戦後直後、当時のドイツ国民は、"戦時中の責任は、自分達国民にあった"と考えた一方、当時の日本国民は、軍部や海外勢力等、日本国民以外の何かが悪いと考えてしまった結果、ドイツの政治は進展した一方で、日本の政治は成長せず、戦後も停滞する事になってしまったと考えております。


最後に.

今回は、日本国憲法の解釈に基づき、"政治の責任を負うのは誰なのか?"について、私なりの考えを述べさせていただきました。

憲法に関する参考書には、"日本社会は、三権分立に基いて成り立っているが、実際は、議会(内閣)に大幅な権限の偏りがある"という趣旨の記述は必ず登場します。

そして、その理由は、"各国会議員は、国民によって、民主的に選出されており、その政治的判断に不満がある場合は、選挙を通じて、その民意を示せばいい"というものになります。


更に、本章では、日本国憲法に基いて、"全ての政治責任を負うのは国民である"という事が言えると述べましたが、この事は、民主的な憲法が制定されておらず、または公平な選挙が行われていない国においても、同じ事が言えると思います。

例えば、そういった国の例として、北朝鮮が挙げられますが、いくら国家元首やその他の役人達が、民主的に選ばれていないと言っても、北朝鮮政府の政治の結果は、全て北朝鮮国民が被ります。

また、そういった独裁政権を見て見ぬ振りをしてしまうという事は、独裁政権を、北朝鮮国民が、容認しているとも取る事も出来ます。

なので、酷な話ですが、若干の国際的な援助を行う必要があるとしても、最終的には、北朝鮮国民が自らの力で、民主的な政府を作り上げなければならないという事です。

そう考えれば、"全ての政治責任を負うのは国民である"という規定は、憲法の内容に関わらずに成立するような前憲法的な法則であるとも考える事が出来ます。


現在、日本の投票率は、非常に低い数値となっておりますが、その最も大きな要因としては、大半の日本国民が、"政治の責任は、自分達日本国民には無い"と考えてしまっている事が原因なのではないかと思っております。

確かに、今の日本の政治家達は、世界水準で見ても、あまりに高い給与や手当を貰っており、やりたい放題やっている状況なので、そういった政治家達に、政治責任を負わせたい気持ちはあります。

しかし、"自民党が悪い""野党が悪い"では、これまで通り、日本の政治は、何も進展する事は無いでしょう。

ですから、日本国民各々で、"政治の責任は、自分達にある"という認識を持つ事は、日本の政治を前に進める上で、最も効果的な第一歩になるはずですので、共に、その認識を持っていただけたらと思います。


参考文献.

・C-Book 憲法I〈総論・人権〉 改訂新版 (司法試験&予備試験対策シリーズ)

・C-Book 憲法II〈統治〉 改訂新版 (司法試験&予備試験対策シリーズ)


この度は、記事を最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。 Amazon Kindleにて、勉強法などの電子書籍を販売中です。 詳細は、下記公式サイトをご覧ください。 公式Webサイト:https://www.academicagent.net