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食物アレルギーの次男と、この世で2人きり。

先月末、自治会の親睦会で、日本料理屋でお昼ごはんを食べるというイベントに家族5人で参加した。

無料送迎バス2台で、30人強の方々と一緒に10分ほどの距離の料理屋に向かう。

この地域に住むようになって丸6年、去年までの3年間はコロナで中止だったのと、それ以前もあった催しだけど、長男、次男は食物アレルギーがあったので、今まで参加したことがなかった。

ちなみに、、、
長男は、乳、卵アレルギーがあったが、4歳で全て克服。
次男は、乳、卵、小麦粉アレルギーがあり、現在、乳だけがまだ克服できてない。
しかも少量でも、じんましんと呼吸困難(アナフィラキシー)を発症するので、かなり、神経質にならざるを得ない。救急車を呼んだことも1度ある。

しかし、そのことを話しているのに、私の親も、夫の親も、「少しくらいなら大丈夫だろ」みたいな感覚でいるので、そのたびに半狂乱で反論してしまう。本当に、大変なことなんだけど、その現場を見ていないと、ピンとこないのかもしれない。

こども園の給食では除去食で対応してもらえていて、本当にありがたい。

今回のイベントに参加するために、事前にアレルギーの対応が可能かどうかを自治会の方に確認してみた。もちろん、確認はお手間なので、もしよければ自分たちでさせていただく、あるいはアレルギー対応が無理なら、参加やめときます、とお伝えしたところ、自治会の方から、
「お店の方で対応してくれるとのこと」という回答があった。

日本料理屋さんだし、あまり乳は使わないんだろうしな、よかった、参加できる、と胸をなでおろし、家族で楽しみにしていた。

ところが、当日———。

現地に着き、受付をしていたら、本イベントの幹事である自治会の副会長さんが
「あ、長橋さんちは、そこのテーブルに座ってね、お子さん3人、みんなおんなじお弁当になるからね」
と案内してくれて、アレルギー対応のために、気を遣っていただいてありがたいなぁと家族でテーブルに座った。

そして、大人の食事が来る前に、子どものお弁当が並べられた。

子どもたちが3人、喜んでいるので、私はどんなアレルギー除去食を用意してくださったのか気になって、隣に座っている長女のお弁当の蓋をそっと開けてみた。

「これは・・・除去食ではない」

見た瞬間に、直感でわかる。
これはもう、9年間アレルギーっ子の母親をやっている人間の勘としか言いようがないのだが、ハンバーグとエビフライが目に入った瞬間にそう思った。

通常、アレルギー対応食の場合は、「いかにも」な感じになる。
お子様ランチに入っている王道のメニューは入らないことが多い。

それでも、日本料理、会席料理屋と謳っている飲食店のこと、もしこれが除去食ならすごいぞ、すごすぎるぞと思った。

夫にもすぐに伝えたところ、「うん、なんか怪しいかも」という返答。

配膳のスタッフの方に、
「あの、このお弁当は、アレルギー対応をしてくださっているということで間違いないでしょうか」
と聞いてみたところ、

「え?なんですか?私は運んだだけなので、それは知りません」
と言われ、少し焦った。

女将さんらしき方が現れたので、聞いたところ、
「え?アレルギー対応?なにがダメなんですか?」
と少しイラついた様子で質問されたので、
「乳がダメで…あ、あの子1人だけダメなんです」と次男をこっそり指さして伝える。女将さんは確認のため厨房へ。

おかしいぞ、、、自治会の方からお店側に伝わってないかもしれない、これは。

そんなヒヤヒヤをよそに、副会長さんからの挨拶や、乾杯のご発声が始まった。

立っておろおろして、進行の妨げにもなりたくないが、確認しないわけにはいかない。
子どもたちは不安そうに私を見ている。
食べちゃダメなの?ねぇ、ダメなの?と次男が騒ぎ始めた。

女将さんが戻ってきて、
「あの、どうもエビフライに乳が使われていると。
(たぶんパン粉に入っている)
今あるお弁当をお持ち帰りになって食べられますか?
何だったらいいんですか?天ぷらとかうどんですか?」

とちょっと一瞬では理解できないことをいっぺんに言われた。

「あの…なんでもいいんですよ、乳さえ入っていなければ…」

どうしたらいいの、帰れってことか・・・?

もうみんな食べ始めている。
途方に暮れた。

女将さんは、「天ぷらね、分かりました」と言いながら、
我が家の子どもたちのお弁当3人分を無造作に持ち上げて下げようとした。
あの、この2人は食べられるんです、と夫と2人で言い、長男と長女の分は残してもらった。2人は食べ始めた。

食いしん坊で、癇癪持ちの次男が泣きわめき暴れはじめる。

なんでなんで、と私を叩きながら、
「死んでもいいから、みんなと同じお弁当が食べたい、下げるなんてひどい、もう帰る、もう嫌だ」と大声で泣き叫ぶ。

周りの参加者の「大変そう」という目。
気にするな、みんな優しい気持ちで見てくれてるはずだ、と自分を鼓舞しながら、ごめんねという気持ちでひたすら次男に叩かれまくった。
近所のママ友が状況を察して、励ましに来てくれる。
「いや~ごめんね、お店側に伝わってなかったみたいで…騒いでごめんね」

参加するんじゃなかったなぁ、こういうの、二度とやめよう。心に誓う。

自治会の人たちのせいではないのに、数人の人が謝りに来る。こちらこそごめんなさい。心苦しい。マジ帰りてぇ。

たぶん、15分くらい次男に叩かれ続け、そのうち、長女まで「ママ隣に座ってほしい」と泣きはじめ、カオスに・・・そしてやっと、次男用のお弁当がきた。

他の子どもの3分の2の大きさのお弁当で、それを見た瞬間、また次男は怒り出した。デザートもついてないし、ヒドイ!!
うどんがついているし、いいじゃん!と言ったが、彼は引っ込みがつかなくなっているようだった。

そこで、
「帰ったら、じろうちゃん(仮名)のためだけに、ケーキ作ろうね、じろうちゃんだけのだよ」
と言うと、ぱっと表情が変わり、うどんを食べ始めて「美味しい!」と叫ぶ。脳内どうなってるんだよ。

(・・・・・良かった、嵐が去った・・・)

席に戻って、私もやっと食べ始めると、近くの席のおじいさんが、大変だったね、お母さん、と声をかけてくれて、また、アレルギーのことを色々尋ねてくれた。ありがたかった。

次男はすっかりケロっとして、手品が趣味のおじいさんの出し物に目を輝かせて笑っている。その変わりよう…

帰宅してから、「あああぁ、つらかった」と吐き出すと、長男が
「ママ、泣きそうな顔してた」と言う。
「いや、ほんとね、じろうちゃんとこの世でポツンと2人きりになった気分だった」

そのうち、お店に対して怒りが込み上げてきて、夫にまくしたてた。

「あの店、二度と行きたくないわ。食べ物を提供する責任みたいのないの?今までにアレルギー対応とかしたことないのかよ。私が気づかなかったら、あの子は救急車だったんだよ。怖すぎるわ。
外国人観光客向けでもあるのにさ、宗教上の除去食とかもあるはずなのに。あれじゃあ対応できないわな!」

しかし、怒り狂いながら、ふと、お店で声をかけてくれたママ友のことを思い出した。

彼女は小学校2年生の息子さんと参加していたけど、その息子さんは、学校に行けたり行けなかったり。彼女もいっしょに登校したり途中で帰ってきたりの毎日だ。

「・・・少数派は、なんだって厳しいんだ」

そんな言葉が頭に浮かんだ。
彼女は学校の対応について「もっとこうしてほしい、ああしてほしい」という話を私にすることがあったのだが、
「それは、学校に求めすぎではあるまいか」と思うことがあった。

特に困っていない人間からすると、困っている人の意見は「勝手だ」と思えてしまうことがある。
今回私の「もっとアレルギーの人間のことも考えろよな!」という怒りは、アレルギーのない人たちからしたら、「求めすぎ、そういうメニューがもともとあるお店に行きなよね」と思われる可能性があるんだな、とハッとした。

どんなことだって、少数派は少数ゆえに、大多数向けにつくられた仕様に合わせられずに困っている。
そういう声に、「勝手だ」と思うのは簡単だ。

そんな例が悲しいほど、いくつも思い浮かんでしまい、
誰かの困りごとには、真摯に耳を傾けようと気づかされた出来事だった。

次男は、参加賞でクッキーをもらったが、気を利かせた長男が、もらったグミキャンディを「乳入っていないから」と交換してくれた。

次男はグミですっかり機嫌もよくなり、
「ママ、もうおなかいっぱいだし、ケーキいらないからぁ」と言う。
あー良かった。豆乳クリームを少し遠いスーパーに買いに行かなくて済んだ。

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