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まぁるい静岡 ローカル指標に学ぶ、地域ビジョンとロードマップのつくり方


マイボトルを持ったり、再生可能エネルギーに切り替えたり…いろいろなアクションにチャレンジしてみたけれど、どこへ向かっていけばいいのかわからない・・・SDGs の実現に向けてどうしたらいい?

そんなモヤモヤを抱えているみなさん、地域の指標づくりにチャレンジしてみませんか?

みなさんの理想のビジョンづくりやアクションの見える化を助けてくれるのが、「指標(インジケーター)」です。

日本国内でも、内閣府から「地方創生SDGs ローカル指標」というものが出され、グローバル指標とともに日本において参考となる指標が紹介されていますが、この指標をつくる動きが盛り上がりつつあります。

国連や国も地域のSDGs 指標を出していくことを推奨しているなかで、実はすでにいくつかの地域で「ローカル指標」をつくる取り組みがはじまっているのをご存知でしょうか? 

今回の記事では、いち早く静岡の指標づくりに取り組んだ、一般社団法人ローカルSDGs ネットワークの木下 聡さんに、指標ができるまでの道のりやどういうところを意識したかについて、詳しくお話を伺いしました。



ローカル指標をつくるまでの背景を教えてください!

木下さん: 静岡市は2018年にSDGs未来都市に選ばれているのですが、施策として認知向上をしていこうということで、ガールズコレクション for SDGs というイベントと「SDGsウィーク」「SDGs マンス」「SDGs シーズン」というキャンペーン広報活動をしてきて、市民の66.0%が何らかのかたちでSDGs を知っているというデータ(2021年3月)が出ています。

こうした認知度向上の取り組みやデータを見たときに、果たしてこのうちのどれくらいの人が、SDGs の言葉をちゃんと理解しているんだろう、どう生活に落とし込んでいるんだろうと思っていました。

SDGs とは一体何なのか、どう関われるのか、市民レベルでここがそんなに広まっていないのではないかということで、SDGs の草の根活動をはじめていくことになりました。

この活動の目的の一つは、SDGs が目指す社会像を地域の身近なテーマや言葉で捉え直すことで、自分ごととして実感してもらうこと。地域にSDGs を落とし込んだときに、どんな社会や世界に見えてくるのか、静岡の人が分かりやすい言葉に置き換えていくことが必要だと思いました。

もう一つは、一人ひとり取り組んだとしても、それがどうSDGs の目標に貢献しているのかなかなか見えづらいので、まずはそれぞれの行動が地域にこう貢献していくよというものが可視化される仕組みをつくることで、一人ひとりの行動を促進していくこととしています。


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出典/国連広報センターUN75 ページ


これまで開催した勉強会では、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」をみんなで読んでみたり、地球環境でどんな問題が起きているのか学んだり、ゲストを呼んで静岡市でどんな活動があるのか学んでいくことをやってきました。

そうして2020年になって、「行動の10年」というメッセージが国連から出されて、勉強会からどう行動に移していって、どう目標達成につなげていくのかをやらないといけないと考え、一緒に運営・活動していた静岡市番町市民活動センターの五味さんと、市民レベルのアクションを促していくための活動をしていきましょうという話になりました。

私のなかでは、アクションと言うと「ローカル指標づくり」のアイディアがずっとありました。国連の目標に注力しようとなると、それだけでは宙に浮いた話になるのと、自分たちがそこに向かって取り組んでいくイメージがしづらいと思っていたからです。

自分たちが抱えている課題やリソースを踏まえて、地域をどうしていきたいのかをベースに、自分たちが目指す社会や指標をつくって、自分たちの行動がその先に日本や世界を良くしていくことにつながっていく、というかたちにしていきたいなと思いました。

最初は一旦SDGs を意識せずに、自分たちが目指したい将来の静岡像を設定して、オリジナルの目標をつくりましょうという話になり、幸いタイミングよく私の団体が(一社)SDGs市民社会ネットワークの補助金を受けられて、

五味さんの番町市民活動センターの活動としては(公財)静岡県労働者福祉基金協会の講座の補助金が活用できたこともあって、番町市民活動センターを拠点に意見を持ち寄って、目標をつくっていくことになりました。



指標づくりにあたり、前提共有とビジョンづくりで工夫したところ、意識したところはありますか?

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スタートのときに悩んだんですけど、一番最初のビジョンづくりのときには、SDGs をまったく出さずに、自分たちの日常にあるものがSDGs につながるという順番にすることで、なるべくみなさんの足下からビジョンを出してもらえるようにして、理想の地域像を表すキーワードをたくさん出してもらいました。

結果出てきたもの、たとえば安倍川に象徴されるきれいな水がシビックプライドにつながっているというのがわかったときに、これは「ゴール6・14・15」につながっていたり、汚染につながっていたら「ゴール3」に、子どもと清掃活動をしたら「ゴール4」になるというので、後からSDGs を関連させて話をしていきました。

最終的な成果物もSDGs のゴールにリンクさせずに出しています。これは良し悪しあって、もう少しリンクさせたほうがわかりやすかったかなという話に今はなっています(笑)



指標づくりをどのように取り組んだかを教えていただけますか?

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出典/まぁるい静岡 冊子より


流れとしては3ステップをとっています。ステップ 1は「ビジョンづくり」ステップ 2は「テーマごとに話し合い」ステップ 3は「指標について話し合い」をしました。

「ステップ 1」では、みんなでこういう未来になってほしいというのをキーワードに書いてもらって、それぞれ 4人ずつのグループになって、お互いに説明しながら深掘りして、その未来のために必要なもののキーワードをどんどん出してもらいました。

「ステップ 2」では、それを集めてKJ法と呼ばれる手法を使って、同じものや似ているものをまとめていきました。たとえば、環境、水、人のつながりなどのキーワードを5つに分類して、テーマごとにそれぞれ深掘りするワークショップにしました。

ワークショップでは、テーマごとにゲストスピーカーを呼んでそのテーマに沿ったご自身の活動などの話をしてもらい、私からSDGs との関連を話をしました。そのあとは参加者のみなさんから、それぞれに出来るアクションを考えてアウトプットしてもらいました。


さらにステップ2と3の間に、市民フォーラムを開催して、SDGs や地域目標づくりの専門家の方々からもお話を聞きました。それを踏まえたうえで「ステップ 3」の指標づくりは話し合いながらやるのが難しかったので、これまでの話から私が一度素案をつくって、意見をもらいながら修正していくという意見交換会をやりました。

コロナの第三波のタイミングだったのでオンラインで実施したんですが、こういうデータやアンケートもあるよというのを個人として関わってくださっている行政の方などからも紹介してもらって、裏付けとなる統計などを入れ込んで、つくりあげたという感じになっています。


どんな人が参加されたのでしょうか?

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属性としては、企業の人や市民活動をしている人、昼間は行政職員の人、さまざまな人が集まってくれました。だいたいワークショップには毎回20人くらいの人が参加していたんですが、10人くらいが毎回参加する人で、ジェンダーバランスは良かったんですが、年齢層は30代以上がほとんどたったので、今後は若者たちを巻き込みたいと思っています。

今回は主に市民活動の経験がある人たち、SDGs にアンテナがある人たちが集まっています。さまざまな制約があって今回は意図的に当事者の人たちの意見を拾うということをしていないところもあるので、あくまで集まった人たちの声でできたものになっています。

たとえば北海道メジャーグループ・プロジェクト2020 「誰ひとり取り残さない」を実現しよう!だと、農業従事者の人、アイヌの人や障害者の人たちの声を聞く会をやっているというのは聞いていたんですけど、静岡では今回そこは取り組まず、一旦集まった人たちでつくるというかたちにしました。



「まぁるい静岡」の「まぁるい」にはどんな思いが込められているのでしょうか?

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出典/一般社団法人ローカルSDGs ネットワーク


いろんな意味はあるんですけど、キーワードを集めたときに象徴的だったのが、静岡の市民性が非常に穏やかで柔らかいということ。その人間性の魅力を入れたいという意見と、水の意見がたくさん出たので、循環という意味もここには込められています。

パートナーシップのイメージも横並びでなく円卓のイメージもあったので、みんなで輪になって進めていくプロジェクトという意味も入っています。

” 自分たちの” という意味合いで捉えてほしいこともあって、あえて平仮名で、県や市を入れないネーミングにしているところもあります。



みなさんの意見をまとめる際に難しかった点や工夫した点はありますか?

大枠で目指す方向は一緒になるんですが、一人ひとりが大事にしたいところはバラバラで強弱があって、全部をカバーするというのは難しいので、どう優先順位をつけるかというところにとても気をつかいました。

少数でも強い声があったり、みんななんとなく課題だと思っているけどそこまで深刻でないものだったり、特定の人しか気づいていなかったけど、みんなが聞いたらそれは深刻だねというものだったり、全員のものをすくいたいけど、フォーカスがぼやけてしまうので、そこは悩みながらやっていました。

キーワードを出してもらったなかからテーマを5つ絞るときに採用したのが、全員に丸シールを5枚ずつ配って、出てきたすべてのキーワードのなかから特に共感したものに貼っていってもらうかたちにしました。1つのキーワードに対して何個までとは決めずに、際立つキーワードを探し出していきました。

これをやることで、運営側の意図的な選択ではなく、みんなの関心が高いものを見える化して、テーマを抽出するという点は工夫しました。

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指標をつくるときの合意形成は、私が出したものがベースになっていたので、これでいいでしょうかとみなさんに聞くかたちになってしまったところがあるのと、すべて満額回答はできないところはあったけれど、皆さんの意見をできるだけ入れるところにはこだわりました。

たとえば、「つながりがある社会」ではなく「つながりが ”育つ” 社会」というふうになっているところは、到達点としてあるものではなく、その先にも広がっていくイメージの目標にしたいという意見があって、それを反映しています。

なかには「明るい未来を描きすぎていて、シビアに現在の課題を捉える、発信する要素が弱い」との意見があって、そこは統計データを載せることで問題意識を持ってもらえるようにしました。

私としては危機を伝えるよりも、前向きな明るい未来の雰囲気を出せたらと思っていたので、こういう現状をベースにしていますというところに止めています。

ただ、今回出来上がったものは ”つくりかけ” の意識でいるので、今後ブラッシュアップしたり、来年第2版を出すということで、先に進めたらと思っています。


統計データは前もって共有していたものだったんですか?

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出典/まぁるい静岡 冊子より

多く引用させてもらった静岡市の市民満足度調査は毎年とっている設問があって、指標として定期的にモニタリングできるので採用したものもあるのですが、目標やターゲットにあたる部分を細かくつくり込みすぎると、そこに紐づく指標を探さないといけないわけですよね。

これをこじつけ的・短絡的に結びつけてしまうと、やるべきことが決まってきて、仕事のようになってしまうので、あくまで参考情報としてファクトがあるよという紹介にとどめて、あえて抽象度のある目標にしています。



指標の完成版にはどんな反応がありましたか?

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出典/まぁるい静岡 冊子より


2月にお披露目会をしたときには、ワークショップに参加してくださった人たちに一人ずつコメントをもらったんですけど、「考えたものをここまで整理してくれてありがとう」「できてよかった!」「はじめやすい!」という好評の声をいただきました。

ただ、現状の課題認識が少し物足りないという意見をもらったのと、SDGsとリンクさせていないので、これをやったらどうつながっていくのかがわかりづらいというのは反省として残ったので、次につなげたいと思います。

みなさんからのキーワードや意見を集めて、五味さんと二人で形づくってから最後微調整としたので、木下さんがつくったものというふうになってしまい、「ここはわたしがつくりました」「ここにはわたしの言葉が入っている」という感じで、それぞれがオーナーシップをもっと感じてもらえたらよかったなというのは思ったところです。


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出典/まぁるい静岡 冊子より



できた指標を今後どのように活用していくのか教えてください!

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出典/まぁるい静岡 冊子より


大きな目標をつくってわたしたちが向かう先や、やるべきことがひとまず整理できたので、みなさんが参加したというのを見える化したいなと思って、4〜9月でハッシュタグをつけてSNSで「こういうのをやったよ」というのを共有してもらっています。

これ以外にもフォームをつくっているので、そこでも情報を集めています。それが終わったら振り返って分析する期間もつくりたいと思っています。

10月〜今年度末には、結果をみんなで共有して改善点を話し合って、アクションを改めて話し合ってブラッシュアップして、来年の前半に実践して、後半に振り返ってというサイクルにしていきたいと思います。

そこには新しい人がどんどん参加できるかたちにして、変化しながら進めていきたいなと思っています。


今後の展開について教えてください!

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現状ではアクションの集計はリアルタイムで見られるかたちになっていないので、それを見ることができるまぁるい静岡のサイトをつくるというのと、それをするためにステップアップ委員会という枠組みをつくったので、ここで今後のための話し合いをしていきたいと思います。

これまで指標を広めていくプロセスにそこまで手がかけられなかったので、みんなで話し合いながら、時間がかかっても参加しているみなさんのアイデアと動きによって広めてもらうことを意識して、ここに取り組んでいきたいと思っています。

今回の指標でひとつ市民社会としてのやりたいことを出せたので、これを行政や企業に持っていって、それぞれの立場からの意見をもらってブラッシュアップしていけるといいなと思っています。

市民からスタートしてステークホルダーと一緒にやっていくというところも取り組んでいきたいので、ここに広がりを持たせてやっていきたいなと思っています。


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木下 聡(きのした さとし)さん

一般企業の営業職を5年間経験した後、退職して青年海外協力隊に参加しモンゴルで環境教育隊員として2年間活動。帰国後AAR Japan難民を助ける会に入職し、ミャンマー担当や企業連携の担当を歴任。2018年7月に退職してからはフリーランスファンドレイザーとして静岡市にてSDGsの勉強会、普及活動などを実施。2021年4月からは静岡市のあさはた緑地(公園)の指定管理事業に携わっている。

あさはた緑地
https://asahata-gp.com/

静岡のローカル指標プロジェクト
https://local-sdgs.net/indicator.html


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