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物語創作に役立つ書評:「人類を前に進めたい」

物語創作に必要な3つの要素(コンセプト・人物・テーマ)を「人類を前に進めたい」から抜き出します。

書評は上のnoteで示したフォーマットで書かれています。詳しく知りたい方は是非、参考にしていただけると幸いです。

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コンセプト→(ストーリーの土台となるアイデア。「もし~だとしたら?(what if ?)」という問いで表すとはっきりわかる。)

「境界がなくなる世界」

「境界がなくなる世界」がどんなものか理解するにあたって、チームラボについて紹介します。
著者である猪子寿之さんはチームラボ株式会社の代表取締役です。
チームラボは、何をやっているのか。ホームページには以下のようにあります。

テクノロジーとクリエイティブの境界はすでに曖昧になりつつあり、今後のこの傾向はさらに加速していくでしょう。そんな情報社会において、サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートなどの境界を曖昧にしながら、『実験と革新』をテーマにものを創ることによって、もしくは、創るプロセスを通して、ものごとのソリューションを提供します。

一回読んだだけでは、何をやっているのか具体的にはイメージしづらいように思います。
チームラボでも有名なのは、アートの展示施設ではないでしょうか。実際に読むより、見たほうが理解できる部分も多いため、参考までに動画リンクを記載しておきます。

「境界がなくなる世界」とは何なのか。そもそも世界には境界なんてない。ともう一人の著者である宇野常寛さんは言います。
考えてみれば当たり前のことのように思えます。空はひと続きだし、今この瞬間も時間は流れていて、自分は世界の一部を構成していると実感できると思います。

人間はモノを境界で分け(分断して)、理解し認識しやすいようにしてきました。例えば、「言葉」は、多くの人間が円滑に情報を伝達し合い理解するために、これは「椅子」である。と決めて(ほかのものと分けて)認識を共有するための道具として使われているのです。

質量のある物質同士も「分かれている」と認識できます。例えば、絵画は、ある一つのフレーム(キャンバスなど)にある質量のある物質(インクなど)を使って作られているため、周囲の空間とは別れて存在しています。

チームラボ代表の猪子さんは現代の人々の生活では、テレビや写真などのレンズで切り取った「分かれている表現」を見ていることが多いことに気づき、本来自分の肉体と見えている世界にないはずの境界を感じやすくなっているのではという意識を持ったそうです。

そこから、猪子さんは、デジタルテクノロジーによって、境界が生まれにくい世界の見方とはどういうものなのかを探求し始めます。

本書では、「境界がなくなる世界」を目指すチームラボがどのような展示を行ってきて、何を表現してきたのか。猪子さんの言葉と、豊富な写真、評論家である宇野常寛さんの理解を助ける解釈を通して体感することができます。

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人物の世界観→(人の世界観は社会の価値観や政治、好み、信条などに培われ、その人の態度や習慣に表れる。)

「自然」と「人工物」…. 2つは相容れないものだよ….

自然と人工物。この2つは多くの場合、対立関係で語られます。
作り出した人工物によって自然が破壊されてきている。
という事実は、世界共通の問題意識として存在し、対立関係の構図を強めています。

著者の猪子さんは「デジタルはネットワークやセンシングを使って光や音を出しているだけであって、基本的には非物質的です。だから自然と比較的共存しやすい。」という視点を元に、自然を生かしたアート作品にも取り組んでいます。

自然の美しさ・生命としての圧倒的な情報量を生かした形で、自然を破壊せずにアートを作る。
光や音は、どちらも「波動」の現象であり、重ね合わせられる…..
さらに、デジタル側の解像度が自然と同じくらい高くなれば人間の目では見分けがつかなくなる。

本書では、自然と共存しているように見えない「デジタル」の力で、自然から離れてしまった人間という存在を、自然の一部へと戻す。そんな試みを知ることができます。

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人物のアーク→(ストーリーの中で体験する学びや成長。自分にとって最も厄介な問題をいかに克服するか。)


他者を不快なものだと思う → 他者との関係を心地のいいものと思う

「だって、『モナ・リザ』を観るのに隣の人は邪魔で、できれば一人で見た方がいいんだよ。ゆっくり観賞させてくれとしか思わないじゃない。」

芸術が展示される美術館では、静かに、ゆっくり、鑑賞できることが良しとされています。
喋ること自体がダメだと考えている人もいるため、喋ったとしても小声で他の人にあまり迷惑をかけないように、作品の前で長時間止まっていると他の人が見れないから少ししたら立ち去る….

美術館では、基本的に他者との関係性は「邪魔」になる。
他者との関係性をネガティブなモノからポジティブなモノへ。本書では、他者の振る舞いによって作品が変わることを楽しめるように作られた『花と人』という作品が紹介されています。

本書では、他の人がいてくれないと面白くならない、他の人がいることによって美しくなるチームラボの作品を通して、世界を丸ごと美しいと思えるようなアークを見つけることができます。

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人物の内面の悪魔との葛藤→(心のネガティブな側面。認識や思考、選択、行動を左右する。「知らない人と話すのが怖い」といった欠点は内面の悪魔の影響で表れる。)


セーフティネットが必要….守ってくれるものがないと精神的にも経済的にも
イギリスのEU離脱運動や、アメリカのトランプ大統領誕生に代表されるように
世界はますます保守的になり、境界を強める方向に進んでいっているように見えます。

境界をもたずに自由に移動し、新しい場所で新しい価値観に触れることで、
自分の居場所はいくつでもあっていい。たとえ今の環境で上手く生きれなかったとしても、別の場所がある。
と思えることが心地いい。
旅行などで、境界のない世界の素晴らしさを無意識に体験できている人は多いのではないでしょうか。

しかし、経済的にも精神的にも苦しい人が、境界のない世界へ大きな変化を受け入れるのは難しい。
境界のない世界になってトクをするのは、力を持つものだからだ。
繋がりを断ち、保守的になる世界をつなげるものは何か。

本書ではEU離脱運動の中、ロンドンで「境界のない世界」の展示をした時の作品が紹介されています。

著者の宇野常寛さんは、境界のない世界を実現するためには、快楽や美、気持ちよさみたいな文化的価値しかないと考えている人が、チームラボを指示しているのではと考察しています。

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テーマ→(簡単に言えば、テーマとは「ストーリーが意味すること」だ。世の中や人生との関わりだ。)

世界は美しい

今までの人生で見たもの全ての中で一番感動した。
著者の猪子さんがそう語る「増殖する生命の滝」という作品があります。

世界は美しいのだけど、人間が捉えられない…..

たとえば、見ただけで自然に対して、時間経過を知覚できる人はいないと思います。
この滝はいったい何年の間、水の流れを生み出しているのか….

デジタル技術を用いれば、現象を捉え知覚する手助けをえられる。
滝に花々が永遠と生まれ死んでいくことが繰り返されるアートの力を加えることで、
滝によって何年もの時間をかけて造形された岩の造形が浮かび上がる…..

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本書は以下の本です。


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