現代のファッションデザインは拡張する -ジャックムス-
*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年3月19日に配信されたタイトルです。
本文は以下から始まります。
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丸や四角といった図形を取り入れたようなシルエットに、青や黄色、オレンジといった鮮やかな色に黒と白のベーシックカラーを織り交ぜたデザインは、どこかコム デ ギャルソンのよう。
一方で、南仏の海や白い砂浜、夏の官能的な匂いが上質な色気を持って伝統の美を讃えてくるシルエットを描くそのスタイルは、パリオートクチュールをモダナイズし、フレッシュな感性で街を闊歩するよう。
この二つのデザイン、実はある一つのブランドが発表していたものである。一見すると全くの別ブランドに見えるデザイン。これだけ大胆なモデルチェンジを図りながらブランドのファンは離れることなく、むしろシーズンを重ねるごとに増加を繰り返す。今やInstagramアカウントのフォロワーは80万人を超え、一つのポストに対するLike数は2万から3万になるまでに人気が高まり、ビジネスが成長しているブランド。
それが今回取り上げる、サイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacqmus)が創業した「ジャックムス(Jacquemus)」である。
サイモンがブランドをスタートさせたのは2009年。彼は18歳で出身の南仏からパリへと移り、エスモードで学び始めたのだが、たった3ヶ月で辞めてしまう。そのため、サイモンはファッションデザインを専門的に学んだ経験がない。だが、その後サイモンは19歳でブランドをスタートさせるという早熟さを見せる。また、彼はコム デ ギャルソンで販売員として2年間働いていた経験があり、パリモードにおいてかなり異色のキャリアの持ち主である。
ブランド名のジャックムスは母親の姓なのだが、サイモンが南仏からパリのエスモードに入学した直後に、母親は亡くなってしまう。その経験がきっかけとなってブランドをスタートさせたことを、サイモンは語っている。
ブランドをスタートさせてから2年後の21歳。パリコレクションの公式スケジュールでランウェイデビューを果たす。その時、ショーに使用できた予算はたったの3000ユーロ(当時のレートで約41万4000円)だったそうだ。彼がコム デ ギャルソンで販売員として働いていたのが、2012年から2014年の2年間。ブランドの創業が2009年ということを考えると、その道程は決して順調でなかったことが伺える。
冒頭で述べた通り、サイモンの初期のデザインは図形的大胆なフォルムが目を惹く、コム デ ギャルソン的なものであった。日本でも話題になり、私も実際に初期のデザインを某セレクトショップで見ている。その時の感想が、先ほどから何度も述べている通りコム デ ギャルソンなテイストが匂ってくるデザインである。
正直に言えば、当時のジャックムスを見て私は「日本で好かれそうなデザイン」と思い、そこに新鮮なインパクトを感じた記憶はない。
だが、アヴァンギャルドテイストが強かったジャックムスは、次第にそのデザインを変化させていく。徐々にクラシックな要素が表面化し始める。2017SSコレクションは、図形的フォルムが多少混ざりながらも全体の印象は、テーラードやロングドレスを白や黒といったカラーパレットで展開するクラシックスタイルである。
翌シーズンの2017AWになるとクラシックのテイストはより強まり、テーラードの数がさらに増加し、70年代サンローランの匂いも感じさせる端正で静謐なムードのデザインを展開する。しかし、そこにはまだ図形的誇張したフォルムが混じっている状態ではあった。
しかし、決定的なモデルチェンジが起きる。それが2018SSコレクションである。発表されたのは2017年9月であるから、まだ2年も経っていない、つい最近の変革と言えよう。
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