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誰がグランプリを獲得するか-LVMH PRIZE2019-

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年4月2日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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今や世界一注目度の高いファッションコンペ「LVMH PRIZE」2019年度のファイナリストが発表された。今回は6月に開催される最終審査で、誰がグランプリを獲得するか、その予想を行いたいと思う。

ただし、その予想を行うアプローチはデザイン面からでない。このLVMH PRIZEというコンペをこれまで見ていて感じた傾向から予想していく。最後にデザイン面について触れるという、これまでとは異なる内容になる。

まずファイナリストのメンバーから。以下の8組になる。

「ANREALAGE」Kunihiko Morinaga(日本)
「Bethany Williams」Bethany Williams(イギリス)
「Bode」Emily Adams Bode(アメリカ)
「HED MAYNER」Hed Mayner(イスラエル)
「KENNETH IZE」Kenneth Izedonmwen(ナイジェリア)
「PHIPPS」Spencer Phipps(アメリカ)
「Stefan Cooke」Stefan Cooke & Jake Burt(イギリス)
「THEBE MAGUGU」Thebe Magugu(南アフリカ)

アメリカとイギリスが2組ずつ、日本・イスラエル・ナイジェリア・南アフリカがそれぞれ1組ずつという内訳になった。

日本からのファイナリスト進出は2016年度から4年連続ということになる。

2016年「FACETASM」
2017年「AMBUSH」「KOZABURO」 
2018年「doublet」 
2019年「ANREALAGE」

昨年はdoubletの井野将之氏が見事にグランプリを獲得し、アジア人初の栄誉となった。今年は誰がグランプリを獲得するだろうか。それをテーマに今回のLOGICAZINEは考えていきたい。

私は3月5日配信No.8でLVMH PRIZEショートリスト20組の中から、気になるデザイナーを4組ピックアップした。その4組の中からファイナリストに残ったデザイナーはいるだろうか。私がピックアップした4組は以下になる。

Eftychia Karamolegkou(ギリシャ)
Hed Mayner(イスラエル)
Caroline Hu(中国)
Emily Adams Bode(アメリカ)

この4組の中からファイナリストに残ったのは、Hed MaynerとEmily Adams Bodeだった。

それでは本題に入りたいと思う。いったい誰がグランプリを獲得するか。このLVMH PRIZEを見てきて私が思うことは、グランプリは「純粋なデザインの実力とビジネスの実績では決まらない」ということである。

ポイントは本当に支援が必要であるか否か。ブランドのビジネス規模や実績がグランプリを獲得する上で大きな要素になっている。それは、ブランド規模が大きければ、ビジネスの実績が豊富であれば、有利という意味ではない。規模や実績がありすぎると、LVMH PRIZEでは不利になるのだ。

わかりやすい例でいうと2015年があげられる。この年のファイナリスト8組にはそうそうたるメンバーが入っていた。クレイグ・グリーン(Craig Green) 、ジャックムス(Jacquemus) 、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh) 、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)。今やファッション界のトップに位置するヴァージルとデムナ、ロンドンの気鋭クレイグ・グリーン、このLOGICAZINEでも紹介したジャックムスがファイナリストに入っていた。

しかし、この年のグランプリを獲得したのは彼らではない。まだまだ知名度も低かったマルケス・アルメイダ(Marques’ Almeida) がグランプリを獲得する。

デザインの実力やビジネスの実績で言えば、デムナやヴァージルが選ばれただろう。しかし、当時彼らはすでに世界で人気を獲得し、ビジネスも上り調子であった。その後、2016年グランプリのウェールズ・ボナー(WALES BONNER)、2017年グランプリのマリーン・セル(Marine Serre)も規模が小さく、知名度も低かった。セルに至っては自宅でコレクション制作をしているという状況であった。

昨年グランプリを獲得した井野将之にしても、国際的な知名度は十分ではなく、限られた人数のスタッフでブランドを運営しているという規模の小ささであった。

LVMH PRIZEでは実績があればあるほど不利に働く。それを証明するように、今年ショートリスト入りしたキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)がファイナリストに残らなかった。

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