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ナマチェコは難解なデザインへのシフトを始める

*このテキストは「AFFECTUS letters」「AFFECTUS subscription」参加メンバー限定有料ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年10月1日に配信されたタイトルです。

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・アパレル営業・販売の方で、モードファッションの情報収集と商品の言語化の参考にしたい

本文は以下から始まります。

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次代のスター候補として注目を浴びていることを知り、AFFECTUSで「ナマチェコ(NAMACEKO)」を書いたのが昨年の9月。それから1年が経過したことになる。その間、ナマチェコはデザインをどのように更新しているのだろうか。

ファッションデザインの更新には、大別して2種類ある。一つは確固としたスタイルを継続しながらアップデートを行う方法。そして、もう一つはイメージは継続しながらも、シーズン毎にスタイルの大胆な変化を見せていく方法である。

例えば前者を代表するブランドとしてマーガレット・ハウエルがあげられる。ハウエルはシーズン毎にスタイルを大きく変化させない。時代に合わせて自身の完成したスタイルを更新していく。後者を代表するブランドといえば、コム デ ギャルソンになる。一貫してアヴァンギャルドというイメージは変わらないが、スタイルそのものはシーズン毎に変貌する

ナマチェコはどちらの道をたどっているのだろうか。そこで私は2017AWコレクションから最新の2020SSコレクションまでをチェックしてみると、ナマチェコが明らかに変化を見せ始めていることに気づく。

ナマチェコは、デビューコレクションの2017AWから2019年9月現在まで6つのコレクションを発表している。ナマチェコのデザインは、メンズウェアから始まっていることもあり、ベーシックウェアを軸にディテール・色・シルエットに独創性を盛り込みながらも、シンプルな外観でモード性を打ち出している。ブランドのスタイルは、デビューコレクションの2017AWシーズンにしっかりと確立されている。このデビューコレクションでは、シャツ・ジャケット・クルーネックニットといったシンプルなベーシックアイテムに、細部のカットで独創性を披露していた。

例えばシャツ。衿のカットが波打って曲線を描き、切りっ放しで仕上げられている。左胸に取り付けられたポケットもカットが波打っており、切りっ放しである。前身頃の左右にダーツが1本ずつあるが、通常の縫い代を裏側にする縫い方ではなく、ダーツをつまんで縫った縫い代を表側に出している。そのため、前身頃表面にダーツ縫い代分の凹凸ができており、その凹凸の上から左胸にポケットが縫い付けられているため、ダーツによってポケット中央に突起物があるようにかすかに膨らんでいる。この胸ポケットもよく見ると、ポケット口も縫い付けられてポケット口が塞がれている。

デビューコレクションで発表されたアイテムにステンカラーのファスナー開きブルゾンがあり、このブルゾンにも前身頃にダーツがあるのだが、ダーツの本数と長さが奇妙である。

通常のブルゾンで見られるように、前身頃ウエスト付近にフラップ付きポケットがあり、ポケット口からダーツが胸に向かって直線で伸びている。このダーツの配置自体はジャケットでもよく見られ、珍しくない。だが、通常のジャケットのダーツ本数が一つの前身頃に1本・左右両身頃で合計2本であるのに対し、ナマチェコのブルゾンは一つの前身頃に3本・左右両身頃で合計6本も入っている。過剰な印象を抱くダーツ本数だ。しかも前身頃中心側のダーツの長さが一番長く、脇側のダーツになるにつれダーツの長さが短くなっていき、3本のダーツの先端が階段のように段差がついている。また、ポケットのフラップ自体もシャツの衿と同様に波打ってカットされている。

細かい記述になってしまったが、デビューコレクションのナマチェコはシンプルな外観に見えながら、細部に奇妙な変化が加えられている。

翌シーズンのショーデビューとなる2018SSコレクションでは、その奇妙な変化が大胆さを伴う。

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