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第10回 ロッキー2 (1979 米)

 さて、「火曜日はロッキー」と称して見切り発車したわけですが、「ロッキー2」はそれに値する作品です。ロッキーにホモとくれば「ロッキー3」がフォーカスされがちですが、今作はそれに負けない値千金のBL映画です。

 激闘を経て俄かに大金を掴んだロッキー、しかしエイドリアンと結婚して始めた第二の人生はうまくいかず、決着をつけるべくロッキーを付け回すアポロとのリターンマッチに挑みます。

 そこにはボクサーにはリングの他に居場所はないという悲しい現実と、壮大なBLが隠されているのです。

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真面目に解説

ボクサーという生き方

 ボクサーほど間尺に合わない生き方という物もないでしょう。ボクサーのファイトマネーはチャンピオンを除いて極めて安く、引退した後の方が人生は長いのです。

 ロッキーはまさにリングでしか生きられない典型のようなボクサーです。アポロとの一戦で3万7千ドルのファイトマネーが得られたことが語られますが、これで一生暮らせるわけもありません。

 それどころか、この額は極めて良心的と言っていいでしょう。世界タイトルマッチに無名の挑戦者が挑むとなれば、ファイトマネー無しというのも珍しくはないのですから。団子屋になった人はその条件で見事にチャンピオンになりました。

 そしてロッキーはエイドリアンとの新生活を画策するわけですが、せっかく舞い込んだCMの仕事はカンペさえ読めない無学なロッキーには重荷になり御破算。肉体労働は嫌だと職探しをしますが、その程度の教育しか受けていないロッキーにはデスクワークの口などあるはずもなく、ポーリーの口利きで精肉工場に勤めるものの、それさえ首になります。

 しかし、ボクサーの引退後の現実はこんなものなのです。こうならない方がレアケースとさえ言えます。「チャンピオンは負ければただの人」と言った直後に負けて引退した、ただの人になるのを免れたカンムリワシは言いましたが、現実はただの人にさえなれないのです。

身体が資本

 監督は前作はジョン・G・アヴィルドセンでしたが、今作からは基本的にスタローンが監督を務めることになります。主演、監督、脚本兼任のスターロン。世界の北野方式です。思えばあの人もボクシングが好きですね

 そればかりが理由ではないでしょうが、ロッキーシリーズは実に安上りに作られています。スタローン自ら殴り合って根性を出せば後は特に金のかかるものは必要ないのですから。

 今作は760万ドルと当時としてもかなりお安く作られていますが、2億ドルも稼ぎました。前作に至ってはたったの100万ドルでそれ以上です。そりゃあ何作も作られるのは当然です。ラジー賞なぞ気にしている場合ではありません。

 それでもエキストラが増えて前作よりは大分豪華になっています。子供がロッキーを追いかけるのは今作です。しかし、それとてロケ現場で適当に募ってもタダで出てくれる人が腐るほどいるでしょう。

サウスポーの憂鬱

 ロッキーはサウスポー(左利き)ですが、右目を悪くしたことからオーソドックス(右利き)に矯正を図ります。

 サウスポーというのはリングに上がれば有利なわけですが、オーソドックスの選手と戦うと二人の間に距離が出来てしまい、派手な打ち合いが減るというのでマッチメイクで損をします。プロスポーツの難しい所です。

 前作でロッキーはサウスポー故にチャンスに恵まれないとこぼしていたわけですから変われば変わるものです。

 ちなみに、この矯正は前作で試合前にアポロとあいさつをしていた往年のチャンピオン、ジョー・フレージャーのエピソードがモデルになっています。彼は左利きでしたが幼少期に片目を失明したことからオーソドックスのボクサーになりました。

 しかし、東京五輪で金メダルを獲得し、モハメド・アリとの三回の死闘で知られ、アリをダウンさせた瞬間世界中でお年寄りがショック死したという伝説があります。

お馴染み珍トレーニング

 今回もミッキーは珍トレーニングを考案してロッキーを戸惑わせます。目玉は鶏を追いかけるというものです。

 広島のプロ野球チームがまだ弱くて貧乏な弱小チームと言われていた頃、話題作りも兼ねてか真似してカルトな話題になりましたが、これが役立つのかは甚だ疑問です。

 ミッキーに言わせれば昔のボクサーは皆やったということですが、私が以前昭和一桁の元ボクサーに聞いたところでは「あんなもん役に立たん」と身も蓋もない返事でした。やらなかったとは言わなかったので、真相はもはや藪の中ですが。

 その他丸太を担いでうさぎ跳び、スクラップ置き場でハンマーで鉄屑を殴るなどのトレーニングが行われますが、これは効果ありげなのが素人目にも明らかです。特に後者ははじめの一歩でも取り上げられた割とよく聞く方法です。

石の拳

 前作のフレージャーに続いて、今作も伝説のボクサーがちょい役で出ています。ロッキーがジュニア誕生を知る直前に腑抜けた状態でスパーリングをしていたのが、当時全盛の世界王者で「石の拳」の異名を取るロベルト・デュランです。

 ただの人を免れたOK牧場の人は最も選手が多いと言われるライト級で世界タイトル防衛5回を誇るとても強いボクサーでしたが、海外ではむしろ「デュランと戦った」と言った方が尊敬されるそうです。1ラウンドでこりゃ勝てないと悟り、適当なところでダウンして負けたのにです。

 ここで注目すべき点は、デュランとスタローンの身長が大差ないことです。ロッキーはヘビー級(90キロ以上)ですが、前述のとおりデュランはライト級(62.5キロまで)です。ステロイドでは背は伸びないのです。

 ちなみにデュランは引退後に金に困り、日本に来てプロレスラーの船木誠勝と異種格闘技戦をして負けました。ぶよぶよの身体がボクシングとプロレス両方のファンから失笑と同情を誘ったものです。しかし、これがボクシングの現実です。

BL的に解説

エイドリアン包囲網

 ロッキーは天然ホモジゴロである一方でエイドリアンが好き過ぎます。エイドリアンに言われるままボクシングから足を洗い、後先考えず高い買い物をし、現役復帰をしたらしたでエイドリアンと産まれてくる子供が気になって身が入りません。

 早い話がロッキーは腑抜けになってしまったのです。「女は足に来る」という次元の話ではありません。守りに入ったファイターほど惨めなものはありません。しかし、友達は金で買えません。

 早産で重体となったエイドリアンの為に練習を放り出し、生まれた息子にも目もくれず夜通しお祈り、読めもしない本の読み聞かせ、スケート場デートのポエムの披露など、優しいロッキーらしいですがどこかズレた心尽くしの末エイドリアンは回復します。

 そしてエイドリアンは「試合をしないで」から「勝って」と態度を軟化させ、ロッキーは本気モードに入るのですが、そこまでにはロッキーを愛する男たちのなりふり構わぬ復帰工作がありました。

 言うなれば、今作はエイドリアンから俺たちのロッキーを取り返さんとする野郎どもの群像劇なのです。

ミッキー×

 ボクサーとおやっさんという立場上、常にロッキー争奪戦のランキング1位に居るのがミッキーです。

 最初はロッキーの復帰に反対していました。復帰しようとジムを訪れたロッキーの目が万全でないのを見抜き、勝てる見込みはないと拒絶するのです。ミッキーはあくまで腕利きのトレーナーであり、ボクサーをみだりに危険に晒さないのです。

 そしてジムで雑用係の職に就いたロッキーですが、「お前はここの名士だからな」と承知はしつつも嫌な顔をします。ミッキーの懸念通り、ロッキーはアポロの挑発もあって周りからバカにされます。

 そして俺のロッキーを汚されてブチ切れたミッキーはロッキーの家に押しかけ、自ら復帰を促すのです。そうしてエイドリアンが泣き喚くのも聞かずロッキーは復帰を決意します。ロッキーの中でミッキー>>>エイドリアンの図式が成立した瞬間です。

 ここからはもうエイドリアンはコンドームに再び格下げです。「仕事に精を出せ」「口より足を動かせ(マニアック!)」「くそみそにけなす」など、言葉がいちいち意味深に聞こえる領域に突入します。

 お産で重体というエイドリアンの捨て身の反撃にロッキーは一瞬エイドリアンに靡きます。病院の礼拝堂でお祈りするロッキーにずっと付き添い、一緒に祈ることで巻き返します。

 ここで注目すべきは「ロッキー3」ミッキーはユダヤ人であることが判明することです。ユダヤ人が教会でお祈りとは褒められない行為です。しかし、愛は信仰を超えるのです。

 その後もエイドリアンの世話をするロッキーの後ろにぴったりと付いています。これが愛でなくて何ですか?そしてエイドリアンが翻意をするや、「何をぼけっとしてんだ!」とロッキーに檄を飛ばします。勝利の雄たけびです。

 そしてロッキーはいつもの珍トレーニングに戻り、試合を迎えます。「勝っても負けても今日はお前の為にベストを尽くす」という殺し文句付きです。こういう所がロッキーのホモジゴロぶりなのです。

 そして前回にもまして壮絶な泥試合の末、ロッキーは紙一重で勝利を掴み、エイドリアンに勝利の報告をし、最後にミッキーと抱き合って映画が終わるのです。そしてエンドロール中そのシーンが残るのです。そう、ロッキーというチャンピオンベルトはミッキーが獲得したのです。

ポーリー×

 義理の兄というポジションは有利なので、ミッキーに次ぐランキング2位に常につけているのがポーリーです。

 ロッキーが転落人生を送る一方で取り立て屋の仕事をあっせんしてもらったポーリーは一転羽振りが良くなり、立場は逆転します。

 ロッキーは買い物ラッシュの中でエイドリアンと買ったペアウォッチポーリーにあげてしまいます。これはキーアイテムなので覚えておきましょう。そして失業して金に困り、買った車を残ったローンごとポーリーに譲り渡してしまうのです。

 もはやロッキーに売る物は残っていません。裸一貫、身体一つです。しかし、そこに需要と供給の一致があれば商売が成立する。数字に明るいと自分で語るポーリーがその事実に気付くのにさほどの時間はかからないでしょう。イタリアの種馬がメスになる瞬間です。

 そして試合当日、ポーリーはエイドリアンとジュニアと一緒にお留守番です。甥っ子にロッキーの影を見ていたのは言うまでもありません。我が国に千年前から伝わる光源氏システムです。ジュニアが成長してどういう行動をとったかを考えればそれはある程度上手く行ったのは明白です。

ガッツォ×

 権力と財力を武器に3位に座るのがガッツォさんです。ロッキーもガッツォさんを恩人とみなしているのは、ごく身内だけの結婚式に招いたのからも明らかです。

 そしてガッツォさんは俄かに高額なファイトマネーを掴んだロッキーを、税金の心配をしつつマンション投資に誘うのです。仲の良いマフィアの投資話より固い物は世間にそう多くはないでしょう。

 そして雑用係に収まったロッキーを見かね、現役復帰かさもなければ稼ぎの良い取り立て屋に戻るよう勧めます。ロッキーを最も建設的に案じているのはガッツォなのです。

 そうして復帰を決意したロッキーのタイトルマッチに、ガッツォはまたしても愛人と一緒に訪れます。勝ったら抱き合って大喜びです。しかし、彼女もまた高価なコンドームに過ぎないのは言うまでもありません。なにしろコルレオーネファミリー仕込みです。

カーマイン神父×

 今作より新キャラが登場です。結婚式を取り仕切り、試合を目前にロッキーに祝福を授けるカーマイン神父(ポール・J・マイケル)です。以後彼は準レギュラー化します。

 ロッキーは信心深い事が何かというと神頼みをすることから伺えます。そこで『ニューシネマパラダイス』でも紹介した聖職者の罰当たりな役得が介在するのは容易に想像できます。

 エイドリアンの事となれば我を忘れるロッキーの事です。万病に効く秘跡とか何とかいえば、容易に尻を差し出すわけです。

 そしてタイトルマッチの会見ではファイトマネーで買う物リストの上位に「教会にキリスト像を寄付」というものが出てきます。

 キリスト教は本来偶像崇拝はしてはいけないのです。そして、その裏に悪徳と頽廃に満ちた動機があったと主が知ったなら、フィラデルフィアの治安がアメリカでも特に悪いのも納得です。硫黄の雨の代わりです。

アポロ×

 今作のアポロは病的にロッキーに固執します。ヤンホモ以外の何物でもありません。

 ロッキーに押され気味の引き分けという戦績はどこまでも付いて回ります。このままではどんなに勝ち続けてもロッキーには…と言われるのは必定です。

 ロッキーを怒らせる為にあらゆるネガティブキャンペーンを行い、ロッキーはまんまと引っかかって彼の元に舞い戻って来るのです。最後に側に居れば良し。それが拳に生きる者の哲学であるのは、「ホモのつもりで描け」とアシスタントが檄を飛ばされながら書かれた漫画からも明らかです。

 もっとも、彼との突っ込んだ話は次回に取っておきましょう。今作はほんのジャブです。

アポロ×デューク

 むしろ今作アポロについて注目すべきはこっちです。デュークもまたおやっさんであるという事実は見逃すことができません。

 挑戦者選びにあたり、ロッキーに固執するアポロをデュークは最初は止めます。あの手の根性のある相手は危険だというのは前作で見せたデュークの手腕からも確かな話なのでしょうが、そこに嫉妬心があったのも否定できません。その懸念は次作で現実の物になります。

 しかし、デュークは最終的に「チャンピオンはお前だ」とゴーサインを出します。デュークは最愛の人であり、最高傑作であるアポロを最後は信じたのです。二人の前には素晴らしい奥さんであるメアリーさえもコンドームほどの存在でしかないのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します。

『ロッキー』(1976 米)
『ロッキー3』(1983 米)
『ロッキー4/炎の友情』(1985 米)
『ロッキー5/最後のドラマ』(1990 米)
『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006 米)
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015 米)
『クリード 炎の宿敵』(2018 米)

『レイジング・ブル』(1980 米)
『リベンジ・マッチ』(2013 米)

今までのレビュー作品はこちら

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