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第103回 帰ってきたヒトラー(2015 独)

 さて、本日4月30日はヒトラーの命日です。人類史上最大の殺人鬼、類まれなるカリスマちょび髭の代名詞、そして国家社会主義の最大の体現者であるヒトラーの映画は腐るほどあります。

 その中で最も面白く、ナチスについて学べるのが今回紹介する『帰ってきたヒトラー』です。原作も大ヒットしたので観た人は多いと思います。

 ストーリーそのものは単純で、2014年に転送されたヒトラーが映画監督志望の青年に拾われ、現代ドイツの惨状を目の当たりにして再起を目指すという、今風に言えば転生物の筋立てです。

 群衆は現地調達でインタビューはアドリブ、ヒトラーの視点から現代ドイツの問題をズバズバと斬りまくる様は痛快であり、恐ろしくもあります。

 そして、この映画の実態は濃厚なBLです。何しろヒトラーは拭い難いホモ疑惑の持ち主です。良い機会なのでそこについても徹底的にやります。さあ、皆ナチスBLしよう!

帰ってきたヒトラーを観よう!

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真面目に解説

ヒトラー入門

 アドルフ・ヒトラーは何と言っても20世紀最大の怪物であります。スターリンは結局のところレーニンの跡継ぎで、毛沢東やポルポトは田舎者です。その点ヒトラーは一代でヨーロッパ征服を成し遂げました。次元が違います。

 従ってヒトラーの映画は無数にあります。作中にも名前が出て来るレニ・リーフェンシュタールのプロパガンダ映画に始まり、チャップリンの『独裁者』からあらゆる戦争映画まで、パロディも含めれば数えるのは不可能です。

 しかし、多くの映画はヒトラーについてある程度知識を持っている事が前提になっています。しかし、ナチス関係の書物は映画以上に多く、おまけに高価です。

 そこでお勧めしたいのが、ウィキペディアを軽く読んで本作を観る方法です。まずはこの程度で十分で、その都度分からない事を調べていけばおのずとヒトラーの事は分かります。

 ヒトラーの映画にしては陽気で明快なので、戦争映画に無縁な人でも楽しんでいただけるはずです。

 あとは水木しげるの『劇画ヒットラー』を読めばまず初級は卒業です。これは非常に良く纏まった名著です。

ドゥーチェ!空からフューラーが!

 原作は2011年ですが、映画では2014年のベルリンの空き地にヒトラーが降って来るところから始まります。可愛い女の子が降ってきたら嬉しいですが、ちょび髭の独裁者が降って来ても迷惑…というわけでもないのが本作の凄さです。

 ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)は総統官邸へ向かおうとしますが、ベルリンの人にはモノマネ芸人と思われて相手にされません。ブランデンブルグ門では大道芸人に営業妨害と言われて突き飛ばされる有様です。

 どの映画でもヒトラー俳優は似ている事が第一で選ばれるので基本的にはよく似ていますが、それはちょい役だから出来る事です。喋るとボロが出るので、ヒトラーをメインキャストに持って来る映画は非常にまれです。

 そこへ行くとマスッチは非常に良い仕事をしています。身長が本物よりかなり高いですが、見た目もしゃべり方もよく似ています。ただし、マスッチの父親はイタリア人なのが笑えない笑いどころです。さらに言えば、原作者のティムール・ヴェルメシュはマジャール人(ハンガリー人)なので、この作品は始まる前からブラックジョークなのです。

嗚呼アーリア人

 ヒトラーは観光客に自撮りをせがまれつつとにかくそこが1945年ではない事を悟り、親切な新聞屋に拾われ、2014年の情報を仕入れる事から始めます。

 トルコ語の新聞があるのを見て、トルコが援軍に来てくれたと勘違いするのがかなりえげつなく笑わせてくれます。何しろ、トルコ移民との軋轢が現代ドイツ最大の社会問題なのですから。

 とにかく、ドイツは戦争に負けて陰気なオーラを纏った女が支配していると知ってヒトラーは愕然とします。メルケルが陰気とは、分かっていてもなかなか言えない事です。私は大笑いしちゃいました。

 かつてナチスのライバルだったドイツ社会民主党が堕落したと嘆き、昔のルンペンは根性があったとかつての政敵を懐かしむのも面白いですが、環境保護を重視する緑の党に一定の評価を与えるのが学べるポイントです。意外と知られていませんが、ヒトラーは環境保護に力を入れていたのです。

今回のメインヒロイン

 そんなヒトラーを追い求めるのが売れない映像作家のファビアン・ザヴァツキ (ファビアン・ブッシュ)です。面白い事に、登場人物のファミリーネームは原作と一緒ですが、ファーストネームは俳優と同じに設定されています。

 ザヴァツキは花屋の母親と一緒に実家住まいのヘタレで、テレビ局のゴスな受付嬢のクレマイヤー(フランツィスカ・ウルフ)が好きなのに煮え切らない態度を取り、映像作家としての実績もないのでクビになってしまいます。

 ところが、たまたま撮った映像にヒトラーの降臨シーンが映っていたのに目を付け、ヒトラーを新聞屋から貰い受けて母親の仕事用のバンでドイツ一周の旅に出ます。

 ハッキリ言って、ザヴァツキがヒロインです。クレマイヤーは重要な役回りには違いありませんが、BL的にはコンドームに過ぎません。ナチスは女性を軽視していたのです。

民主主義の欠陥

 旅に出たヒトラーとザヴァツキはドイツ各地を周りながら民衆のインタビューを収録します。殆どデートです。

 ドイツの人々はヒトラーにドイツ政府への不満をぶちまけます。移民の流入、政治への不信、料理番組ばかり流すテレビ局、まさに現代先進国の抱える問題が凝縮されています。

 驚くべきは、これらがドイツ人の生の声である事です。そして、ヒトラーはどこへ行っても人気者。撮影現場ではボディガードが付いていたそうですが、殆ど出番はなかったそうです。民主主義は今や崩壊の危機に瀕している事が端的に示されています。

 特に面白いのはサッカースタジアムでの一幕です。ヒトラーに罵声を浴びせた男が現れましたが、ヒトラーがフーリガンを扇動して制圧してしまいます。

 これは仕込みだったのにフーリガンがマジになってしまったそうです。というのも、ドイツのフーリガンはネオナチとズブズブなのです。もっとも、ヒトラーは専らF1派で、サッカーは軽視していました。

 バイロイトで路銀が尽き、ヒトラーが似顔絵を描いて金を稼ぐのも笑いどころです。ただし、あまり上手ではありません。ヒトラーは風景画は得意ですが、人物画が苦手なので画家として成功できなかったのです。

画面は戦場だ

 ヒトラーとラブラブデートの末に良い画を撮ったザヴァツキはクビになったテレビ局にヒトラーを売り込みに行きます。

 ザヴァツキをクビにした副局長のゼンゼンブリンク(クリストフ・マリア・ヘルプスト)はあまりに危険なので拒絶しますが、ヒトラーは彼のライバルである局長のベリーニ女史(カッチャ・リーマン)の会議室に勝手に入り込んで大演説をぶち、気に入られてコメディアンとして採用されます。

 このベリーニが大変なオメコ芸者で、ユダヤ人ネタ以外は何でもありという条件でヒトラーを売り出しにかかります。そこには倫理観は全くありません。テレビマンは商業主義に徹する生き物なのです。

 ヒトラーの方もベリーニを高く評価し、レニ・リーフェンシュタール以来の傑出した女性と褒めちぎる有様です。

 リーフェンシュタールはナチスお抱えの女性映画監督で、多くの優れたプロパガンダ映画を作った人物です。特にベルリンオリンピックのドキュメンタリーである『オリンピア』は傑作と誉れ高く、この作品を越える事が出来ないのでオリンピックの記録映画は毎回監督のなり手がない程です。

 しかし、リーフェンシュタールはナチスの御用監督という立場から戦後は仕事が無くなり、アフリカの原住民やスキューバダイビングの記録映画を作りながら晩年を送りました。

政治はプロパガンダなり

 ヒトラーが台頭できたのは、ひとえにプロパガンダの力です。あの格好良い制服や荘厳な党大会は何よりも宣伝の為の道具でした。

 オリンピックの聖火リレーだってヒトラーの発明です。ついでにヨーロッパの道路を調査して侵略に役立てたのもよく知られています。

 ヒトラーはクレマイヤーを秘書につけてもらい、ついにプロパガンダの核兵器であるインターネットに触れます。ウィキペディアに大興奮です。

 ウィキとはヴァイキングの意味であり、ゲルマン民族の知恵の結晶だと言って涙さえ流します。本当はハワイ語ですけどね。

 そして、ヒトラーが英語の名詞をドイツ語読みするのも笑いどころです。結局のところ、言語というのは曖昧な物なのです。

 そして政治風刺番組に出演したヒトラーは絶妙な演説で大評判になり、人気者になります。ヒトラーは演説の天才なのです。お茶くみとして復職したザヴァツキもついにクレマイヤーと良い仲になりますが、ここから作品は急激に暗い方向へと進んでいきます。

バカ息子の憂鬱

 さて、ヒトラーの的確かつ鋭い既存政権への批判がありましたが、現代ドイツにもヒトラーの信奉者が居ます。そう、ネオナチです。ヒトラーはここへきてネオナチも斬ります。

 ですが、ヒトラーのネオナチ評は散々です。特にネオナチの最大派閥であるドイツ国家民主党の本部に殴りこんで党首をなじるシーンは最大の笑いどころです。流石にこのシーンだけは生の声ではなく役者が使われています。

 党首が『我が闘争』を読んでいないのも笑いどころと見せかけて笑えない場面です。ヒトラーの著作権が切れたので今でこそドイツでも『我が闘争』は出版されていますが、当時は持っているだけでも逮捕される文字通りの禁書でした。復刊も大変な論争の末にようやく実現したのです。

 これはドイツが「戦う民主主義」を標榜し、言論の自由を制限しているからです。きっと、ドイツを褒めるリベラルもヒトラーになじられるでしょう。

飼い犬に手を噛まれる

 ヒトラーの人気が面白くないのがゼンゼンブリンクです。ベリーニをゲッペルス呼ばわりして嫉妬に狂っています。

 ヒトラーとベリーニを失脚させる為に警察にチクりますが、検事がヒトラーを高く評価していて失敗。多くの人はここでもう不穏な何かを感じるはずです。

 そこで今度はザヴァツキとヒトラーのデート映像に狙いを定めます。ヒトラーが噛み付いてきた犬を射殺した映像をリークし、ベリーニとヒトラーはついに失脚してしまいます。

 日本人には理解できない感覚ですが、ドイツでは犬を殺すのは重大なタブーなのです。それというのもヒトラーが動物愛護を広めたのと無関係ではないので、まさに身から出た錆です。

 暇が出来たヒトラーはザヴァツキの実家に転がり込み、執筆活動に入ります。これはかつてのヒトラーがミュンヘン一揆に失敗し、臭い飯を食っている時に『我が闘争』を書いたのと同じ構図です。

 そしてザヴァツキはこの原稿をベリーニに売り込みます。自分が監督して映画にする条件付きで。まさにゲッペルスとリーフェンシュタールです。ザヴァツキもついに悪魔に魂を売ってしまったわけです。

おっぱりプルンプルン!

 ヒトラーの本は大ヒットします。原作の本が使わています。定価も本物と同じく19.33ユーロ。ナチスの政権掌握の年に因んでいます。これこそプロパガンダです。

 ヒトラーは華麗に復権し、フェイスブックで人材を募集して親衛隊を組織する有様です。

 親衛隊のメンバーにご注目下さい。多くが金髪碧眼でガタイの良い青年です。これこそがヒトラーの求める理想的アーリア人なのです。

 一方、ゼンゼンブリンクのテレビ局は視聴率が落ち込んで窮地に立たされます。ゼンゼンブリンクはあの有名な『ヒトラー 最期の12日間』を完コピして暴れ狂う有様です。

 ヒトラーをよく思っていなかったのにヒトラーと一体化したゼンゼンブリンクもやはり悪魔に魂を売ります。監督デビューを果たしてウキウキのザヴァツキに出資の申し出を行い、ヒトラーの映画に加担してしまうのです。

ユダヤ人って何だよ(人類学)

 しかし、すっかり調子に乗ったザヴァツキがクレマイヤーの家にヒトラーを招いた事で事態が暗転します。

 伏線はありましたが、なんとクレマイヤーのおばあちゃんはユダヤ人。おばあちゃんはヒトラーを前にユダヤ人の虐殺という最大の罪を糾弾します。

 ヒトラーはお気に入りのクレイマイヤーがユダヤ人なのにがっかりしつつも、血が薄いので克服できるなどと抜かします。

 これはリアリティのある話で、ナチスの高官は個人的に仲の良いユダヤ人は名誉アーリア人と称して保護していました。そもそもユダヤ人の定義は非常に曖昧で、ナチスは鼻の形で分かるなどと言っていた程です

乙女心とスキンヘッド

 ザヴァツキはついにヒトラーが本物である事に気付き事態の深刻さをいち早く悟りますが、ヒトラーはネオナチに襲撃されます。

 ヒトラーが現体制のドイツを侮辱するのが許せないというのがネオナチの言い分です。ネオナチといえども一枚岩ではないので、この言い分自体はある程度筋が通っています。

 テニスプレイヤーのボリス・ベッカーからお見舞いの手紙が届くのが最後の笑いどころです。ベッカーはウィンブルドンを制したドイツの英雄でしたが、黒人女性と結婚した為にネオナチに嫌がらせを受けてアメリカに移住した経緯があるのです。

 そうして反ネオナチ感情を募らせた結果がヒトラーへのお見舞いなので、さりげないシーンですが強烈なブラックジョークと言えます。

親友ザヴァツキ

 ザヴァツキはヒトラーの台頭を阻止しようとし、ヒトラーから取り上げた拳銃を手に撮影現場に殴り込みます。ここへきてかなり熱い展開になってきました。

 そしてヒトラーにとってザヴァツキは特別な人間であったことがヒトラーの口から語られますが、ヒトラーは大衆が自分を求めていると主張し、ザヴァツキの襲撃は失敗。映画はかなり悲惨にエンディングを迎えます。

 ベリーニがエヴァ・ブラウンのように振舞っているのはまさに吐き気を催す邪悪という奴です。そして、大衆がヒトラーを求めているという言葉は否定しがたい説得力があります。

 民主主義が崩壊する現場を我々は日々目の当たりにしています。この映画は民主主義の大切さと脆弱性を切り取っている、非常に有意義な作品なのです。

BL的に読むナチス

ヒトラーホモ説

 戦争と人種差別の悲惨さを知る為には、その実行者の内面をも知らなければいけません。その為にはBLは適当な機会であると私は信じます。

 ヒトラーのセクシャリティには色々な説があります。言い換えれば決定的な証拠はないので、想像の余地があるわけです。

 ホモ説、ノンケ説、バイ説、アセクシャル説、歴史家からは相手にされないスカトロ説、実に多種多様ですが、勿論ここではホモ説で押し通します。

 特に本作ではホモ説に傾く要素が多く見られます。ヒトラーは女について全く言及しません。

 ヒトラーのセクシャリティがどうあれ、エヴァ・ブラウンはヒトラーにとってかけがえのない女性であり、死の間際に結婚したのは事実です。しかし、作中でヒトラーは一度も彼女について言及しないのです。不自然です。

 また、ヒトラーは姪のゲリ・ラウバルを溺愛していて、禁断の関係にあったという説が根強くささやかれています。ヒトラーが菜食主義者だったのは有名ですが、それはゲリの自殺がショックで肉を食べられなくなったからだと言われています。なのに彼女についても全く言及されません。凄く不自然です。

 愛人関係ではないようですが、ヒトラーが敬愛したワーグナーの義理の娘であるヴィニフレート・ワーグナーについても言及されません。獄中のヒトラーに原稿用紙を差し入れたのは彼女です。しかも、ヒトラーはバイロイトで似顔絵を描いていたのに、一言も彼女について言及しませんでした。あまりに不自然です。

 一方で、ヒトラーホモ説は根強い人気があります。状況証拠が豊富なのです。

 ヒトラーは画家志望でウィーンに住んでいたというのがそもそも怪しいのです。あの時代にウィーンに居た芸術家がノンケは有り得ないでしょう。一説には、ホロコーストの最初の犠牲者はウィーン時代のヒトラーのホモ達だったとも言われています。

 そして、アーリア人という幻想に囚われ、金髪碧眼の逞しい男に執着していました。これも分かりやすいホモ要素です。そして、プロイセン軍人の間ではホモセクシャルが蔓延していました。元をただせば、第一次世界大戦はカイゼルのおホモ達が宴会ゲイでバレリーナのコスプレをしたせいで始まったのです。

 これからヒトラーとナチスの偉い手のカップリングを列挙しますが、これはほんの一例にすぎず、私は専門家ではないので抜けもあるはずです。とにかく、ヒトラーはカップリング相手に事欠かぬ男なのです。

 これをきっかけに皆様がナチスBLに入門して頂ければ、これ以上の事は有りません。

レーム×ヒトラー

 ヒトラーは攻め志向ですが、このカップリングに関して言えば間違いなく受けです。

 突撃隊SA長官、エルンスト・レームはナチスとホモの関係を語るにおいて絶対に欠かせない中心人物です。それとホモもやめてくれ

 レームは陸軍大尉として数多の勲章を受けたWWIの英雄であり、ヒトラーよりも先に入党した筋金入りの古参党員です。

 そして、重要なのはレームがプロイセン軍人の崇高にして甘美な伝統の継承者であった事です。つまり、バイでした。明確なホモの大物は彼だけなので非常に重要です。

 しかも、我らが三島由紀夫先生がこのカップリングは書いています。なにしろホモのネオナチごっこの末に切腹した三島先生がレームに注目するのは当然なのです。

 初期のナチスは単なる泡沫政党だったので、演説会を行って寄付を募る事で活動資金を作っていました。演説会場にはライバル政党が嫌がらせにやって来て、暴力沙汰は日常茶飯事でした。

 このような暴力沙汰に対処する為に作られたのがSAという通称で知られる突撃隊です。レームは突撃隊の長官としてライバル政党を蹴散らし、ついには突撃隊を国軍に匹敵する大組織に成長させます。

 有名なSSやゲシュタポはSAの分家に過ぎません。ヒムラーやゲーリングは後から来た新参なのです。

 つまり、黎明期のナチスはヒトラーが演説し、レームがそれを守る事で成長していったのです。ヒトラーとレームは親友であり、レームは党内で唯一ヒトラーと対等に話せる間柄でした。

 伍長に過ぎない(伍長と言えるのかさえ微妙)ヒトラーにとって、正真正銘の英雄であり、先輩であり、自分を守ってくれるレームは眩しすぎる存在です。

 そして、ガチホモのレームがアドルフがウィーンで画家をしていた事実について無関心だったとは到底思えません。ヒトラーがプロイセン精神を尻の穴から叩きこまれたとしても、それは驚くべき事ではないのです。

 事実、レームはSAをプロイセンの伝統に倣って教育しました。SAはノンケお断りのホモ軍団であり、ホモがホモを呼ぶ有様でした。レームの言葉を借りれば「法律に反した特別な事に慣れねばならない」組織だったのです。

 その為にSAは市民から非常に嫌われていたので、ナチスの政権拡大に伴ってヒトラーにとっては悩みの種になっていきます。何しろドイツは90年代まで同性愛が違法だった国です。この点ではフランスより200年も遅れています。

 結局、ヒムラーやゲーリングがレームが謀反を企てているという嘘をでっち上げてヒトラーをたきつけ、レームは暗殺されてしまいました。これが所謂「長いナイフの夜」です。

 レームは刺客を前にして「俺を殺すなら、アドルフがやるべきだ」と主張しましたが聞き入れられませんでした。

 殺されるのならアドルフに殺されたい。何と美しい悲恋物語でしょうか?ただの親友では無かったと私は信じます。水木しげる先生の劇画も「それとホモもやめてくれ」ばかりが有名ですが、その後にはレームとヒトラーのBL痴話喧嘩が描かれています。

 ついでに言えば『ブルースブラザーズ』にはホモのネオナチが登場しますが、あの制服はSA仕様です。知っていてそうしたに違いありません。結局のところ、レーム亡き後もレームが遺したホモ魂を捨てる事が出来ず、ネオナチさえもホモが少なくないのです。

ヒトラー×ヒムラー

 レームの粛正に最も熱心で、その結果最も得をしたのがハインリヒ・ヒムラーです。そして、最も典型的にナチなのもヒムラーでしょう。

 ヒムラーは前線に行く前に終戦を迎えたケチな教師上がりの小男で、ナチスへの加入も遅く、ヒトラーの忠犬になったのもかなり遅い時期です。

 そもそもヒムラーもかなりホモ臭い男です。ヒムラーの率いるSSは先祖にユダヤ人が居ない金髪碧眼でガタイの良い男を欲していました。そしてヒムラーは武士道に傾倒し、日本人がアーリア人だという証拠を探し回り、更には一夫多妻制の支持者でもあります。

 どう考えてもホモのホモ嫌いです。虚弱な小男が逞しいイケメンを集め、侍に憧れ、女を軽視する。これでノンケの方が異常です。思うに、ヒムラーがレームを消したのはホモのジェラシーではないでしょうか?

 レームはヒムラーが欲する物を全て持っています。立派な体格、輝かしい軍歴、逞しく忠義な部下達、そしてヒムラーには決して手に入らないヒトラーとの思い出の日々。

 ヒトラーはレームを「君」と呼び、レームはヒトラーを「アドルフ」と呼ぶ。一方ヒトラーはヒムラーを公然と小物扱いしているのです。これはもうNTRです。

 嫉妬に狂ってレームを始末し、SSを手中に収めたヒムラーこそが最も残虐でした。これはヒトラーへの忠誠の証明であると同時に、SAへの対抗意識だったのではないかと私は推測します。

 行儀が悪くともヒトラーにとって苦楽を共にしたかわいい息子達でもあるSAに対抗する為に、SSをヒトラーの理想の体現として育てようとしたわけです。強制収容所を取り仕切っていたのもSSです。

 そしてSSは陸海空軍を有する国防軍とは別の軍事組織として権力を増大させ、戦況の悪化と共にヒトラーは国防軍を信用しなくなり、忠義なSSを信頼するようになります。ヒムラーはもうびんびんです。

 トム・クルーズの『ワルキューレ』で描かれたヒトラー暗殺計画でもSSが鎮圧を担当しました。しかし、ヒムラーは実はこの計画を事前に知っていたという説があります。

 泳がせて全ての関係者を逮捕するべきだと考えたとか本当はヒトラーに死んでほしかったとか理由には諸説ありますが、BL的に考えればこれは単純なマッチポンプです。弱っているヒトラーに手柄話を持って行けば寵愛を得られると考えたのです。

 しかし、所詮ヒムラーは小物なので、敗戦を間近に控えて独自に降伏工作を開始します。そしてヒトラーの死と共に失脚し、下士官のふりをして逃げようとして捕まり、屈辱的な扱いを受けた挙句自殺してしまいました。愛に徹しきれなかった男の死に様は所詮こんな物です。

ヒトラー×ヘス

 ヒトラーのカリスマに心のケツを掘られたナチスの高官たち。その中でも正妻面をしていたのがルドルフ・ヘスです。

 ヘスはナチスの創立メンバーの一人であり、レームに匹敵する古株です。しかもパイロットなのでかなりの重要メンバーです。ミュンヘン一揆ではヒトラーと一緒に行進し、仲良くムショに入ってして身の回りの世話まで担当していました。

 更に恐ろしい事に、ヒトラーは「我が闘争」を自分で書きませんでした。ヘスが口述筆記してあの本は作られたのです。これはもう実質セックスです。勿論、刑務所での事なので本物のセックスに雪崩れ込むのは当然の結末であります。

 それからという物、ヘスはヒトラーに引っ付いて他の幹部を寄せ付けませんでした。あからさまな正妻ムーブです。そうしてヘスは2人きりの時にはヒトラーと対等に話せる地位を得ました。

 そしてヘスは副総統に就任します。これはヘスがレームやヒムラーやゲーリングのように手下を持っていない弱い立場だからだと言われています。神輿は軽い方が良いというわけです。

 しかし、BL的に言えばこれは見逃せない重大事項です。つまり、ヒトラーは単純にヘスの献身を愛していたから重要な地位を与えたのです。まさに騎士とお姫様。まさにゲルマン精神。

 しかし、他の男達もヒトラーに殺到し、ヘスは徐々に権限を失っていきます。ヘスはあまりに弱く、オラついた他の連中相手だと競り負けてしまう立場なのです。

 そこでヘスは忠義でヒトラーを助けようとあれこれ考え、レームの処刑を志願します。しかし、ヒトラーも愛する男達が殺し合う様など見たくもないのでこれは断られてしまいました。

 どんどん権力を失い、愛するヒトラーから遠ざけられるヘスは嫉妬に狂ってオカルトにハマり、世界大戦の開戦でついにはおかしくなります。

 占い師の予言に従ってヘスはイギリスとの和平交渉を目指すようになります。ヒトラーはイギリスとは戦争をしたくなかったのでこれが成功すればヒトラーは完全にヘスの物。だとしても、嫉妬と占いに振り回されるというのは完全にメンヘラ女子です。

 そして本当にイギリスへ飛んで行ってしまいました。何しろパイロットなので。しかし全く相手にされず、戦争が終わるまで精神病院にぶち込まれて過ごす有様です。しかし、ヘスの家族に年金が支払われ続けたのはヒトラーもヘスが好きだった証明ではないでしょうか?

 戦後の軍事裁判で死刑を免れたヘスですが、最後まで刑務所に残されて塀の外のネオナチのカリスマに祭り上げられました。しかし、ヘスはネオナチを嫌っていました。ヘスにとってはヒトラーが全てだったのだと思います。お姫様は身持ちが固いのです。

ヒトラー×ボルマン

 正妻面をかますヘスからその座を奪い取ったのがマルティン・ボルマンです。彼はかなりの若手でヘスの副官の地位からヒトラーに接近したので、ナチスBLは大奥物の様相です。

 ボルマンはヒトラーの発言をいちいちメモに取る事でアピールしていました。そして政治献金の管理を任されるようになり、良妻面をするようになります。

 しかしこの時点ではまだ小物に過ぎません。風向きが変わったのはヘスが飛んで行ってからです。官房長に就任したボルマンは戦争の指揮で忙しいヒトラーに代わって内政を取り仕切るようになります。

 着実にヒトラーはボルマンへの依存度を高めていきます。そしてついにはヒトラーの秘書になり、名目上の第一夫人の座を手に入れてしまいます。正妻面をして他の高官をぞんざいに扱うので嫌われていたようです。

 おまけにボルマンは女狂いで、エヴァ・ブラウンからも酷く嫌われていましたが、これはボルマンにとっては望むところでしょう。エヴァは当て馬女です。

 敗戦間近ともなるとヒトラーは総統官邸にこもりきりで、ボルマンを含めて数人の高官としか会わなくなります。ここでドロドロスペクタクルが発生しました。

 外でソ連軍を食い止めていたゲーリングがヒトラーに指揮権の移譲を願い出たのをボルマンは裏切りとみなし、ヒトラーにチクって失脚に追い込みます。

 何しろゲーリングは大物です。ボルマンはこの機会にこのライバルを銃殺してしまおうと画策しますが、それはヒトラーが止めました。ヒトラーにとってはやっぱり古参の高官は可愛いのです。

 そしてヒトラーは自殺し、ボルマンは遺言執行人となり、ヒトラーの死体に火をつける役目も担いました。これは美味しい地位です。正妻面の次は未亡人面が出来ます。

 そしてボルマンは総統官邸を脱出し、混乱の中で間もなくヒトラーの後を追いました。

 ヒトラーがボルマンを信頼していたのは確かです。そして、2014年にやってきたヒトラーが最初に探したのもボルマンでした。この映画を見たらボルマンはイきます。

ヒトラー×ゲッペルス

 ヒムラーと並んで分かりやすい嫌なナチなのが宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッペルスです。何しろベリーニは女ゲッペルスですから、本作を語る上では重要な人物と言えます。そして、私が見るに一番ホモ臭い顔です。

 ゲッペルスは苦学して哲学博士になった人物で、卒業後も貧乏をしたせいで反ユダヤ主義に傾倒したというかなりホモっぽい経歴の持ち主です。もっとも、職権を悪用して女優を食いまくる女狂いでもありました。

 演説の上手さで頭角を現したので、言うなれば初期のナチスにおいてはヒトラーと飛車角のような関係でした。社会主義寄りだったのでヒトラーとは思想が相容れない側面もあり、ヒトラーの排斥さえ画策していました。

 つまりライバルだったわけです。ところが、ゲッペルスはヒトラーと初対面を果たした途端にヒトラーのカリスマに魅了されてメス堕ちしてしまいます。

 ところが、ドイツ帝国の皇室財産の処分を巡って初めての喧嘩になります。ナチスは皇室と近しい権力者の援助を受けていたのでヒトラーは皇室財産の没収に反対しますが、社会主義寄りのゲッペルスはこの意見に失望してしまうのです。その一方でやはりゲッペルスはヒトラーに魅了されているので、この辺りのやり取りはBLとして見ると非常に重大な場面です。

 結局ヒトラーのカリスマに心のケツを掘られてしまったゲッペルスは思想を放棄してヒトラーに従うようになります。本当にヤっていても驚くべき事ではありません。

 そして巧みな宣伝手腕で党の精力を増大させ、古株を次々を蹴落とし、ますますヒトラーに信頼されるようになります。

 ゲッペルスが得意としたのは華麗なパレードにプロパガンダ映画、そして格好良い制服です。結末を知らない当時の人々が魅了されたのは当然だと思います。

 これはゲッペルスの愛です。俺の愛するヒトラーは格好良くないといけないという考えが根底にあります。ヒトラーをプロデュースしたのはゲッペルスを置いて他ありません。

 しかし、戦争が始めるとゲッペルスの立場は弱まっていきます。ナチスの高官の集合写真を見ると分かります。いつもゲッペルスだけ違う制服です。これはゲッペルスが軍人ではないからです。

 従ってゲッペルスは開戦を嫌がっていました。BLを抜きにしても俺がプロデュースしたヒトラーがアホの軍人に盗られると思ったのは疑う余地がありません。

 果たしてゲッペルスは引きこもりがちなヒトラーに代わってナチスの顔としてあちこちに顔を出すようにして保身を図ります。女優を弄ぶ一方で男には必死に尽くす。まさにホモのホモ嫌いの行動様式です。

 ベルリンにソ連軍が迫ると多くの高官が総統官邸から脱出しますが、ゲッペルスは居残り組でした。これもゲッペルスのヤンホモ気質の一例と言えましょう。

 そしてボルマンと一緒にヒトラーの結婚と葬式を取り仕切り、遺言に従って首相の地位をゲットします。

 しかし、国外へ逃げて指揮するようにというヒトラーの遺言を拒絶し、断固としてベルリンに留まると表明しました。文字通りのヒトラーとの心中宣言です。一番弱そうな男が一番の愛と勇気を見せた瞬間です。

 そして首相の権限によってソ連を和解交渉を行いましたが決裂し、妻子を道連れにゲッペルスは自殺しました。プロパガンダの王様は、迷惑かつ劇的に死んだのです。

ヒトラー×シュペーア

 ヒトラーのハーレムの中でも特異な経歴を持つのがアルベルト・シュペーアです。彼は軍人ではなく建築家であり、死刑になる事もなく、ナチスの良心として扱われています。

 シュペーアはあまり熱心とは言えないナチ党員でしたが、卓越した建築家だったのでゲッペルスの目に留まり、総統官邸の改修を引き受けた事でヒトラーのお気に入りになりました。

 シュペーアはナチスの大予算をバックに存分に腕を振るい、その作品は今でも多く残っています。ただし、作ったのは強制労働で駆り出されたユダヤ人なのでシュペーアに戦争責任がないとは言えません。

 つまり、ヒトラーはシュペーアという極上のオスに魅了され、シュペーアはヒトラーというパパにべったりだったわけです。しかもヒトラーは芸術家なので、シュペーアとは話が合いました。

 ドロドロの駆け引きが存在しないのである意味純愛かも知れません。他の建築家との争いくらいはありましたが。

 とはいえシュペーアはヒトラーから世界首都ゲルマニアなるベルリンの都市計画も任されてますます勢力を増し、ついには軍需大臣に上り詰めます。兵器もやはりユダヤ人が作ったので、シュペーアにはやはり責任があります。

 ですが軍需大臣というのは大変な仕事です。物資が無くなっていくのが一番よく見えます。ついにはシュペーアは身体を壊して辞職を申し出ますが、ヒトラーがヤンホモ気味に慰留したので結局終戦までその地位にありました。

 もう戦争は負けると悟ったシュペーアは負けた後の事を考えるようになり、ヒトラーとしばしば対立しますが、結局シュペーアは失脚しませんでした。魔性のオスです。

 戦後はホロコーストについては知らないと主張しつつ責任を認めたので死刑を免れ、貴重な回想録を残しました。ですが悪い事は出来ない物で、最近はシュペーアにも批判的な意見は増えつつあります。主君を失った小姓は哀れな物です。

ヒトラー×カイテル

 ヴィルヘルム・カイテルは知らない人も多いかもしれませんが、国防軍のトップなので無視できない大物です。ちなみに、この人の甥御さんが経営するドイツレストランがかつて新宿にはありました。

 正式なナチス党員ではないのであまり目立ちませんが、ナチス物の集合シーンには大抵並んでいて、とても目立ちます。カイゼル髭で一番立派そうな人がカイテルです。

 初めての前線で負傷したきり最後まで前線指揮官を経験せずに軍のトップになった人で、ヒトラーの評価もあまり高くありません。「映画館の案内係程度の頭」という酷いコメントが残っています。

 それでも出世できたのは、ひとえにカイテルが典型的なプロイセン軍人だったからです。立派な容貌と忠義をヒトラーは気に入っていたのです。

 速い話が色小姓です。ルックスはサムソンビデオその物ですが、やっている事は森蘭丸です。見た目重視でそばに置いておくというのも小姓の用途と完全に一致します。

 終始軍人だったのでナチスの台頭とSAの横暴を酷く嫌っていましたが、カイテルもまたヒトラーと会うなり魅了されてしまいます。とは言え彼がナチスの残虐行為に加担したという話はほとんどないので、軍人が政治に関わってはいけないというプロイセンの伝統を重視していたのも確かです。

 だとしても、ナチスと結びつく事で出世したのは確かです。尻一つで軍司令官というわけです。ホモ疑惑でライバルを蹴落としたりもしました。かつての主君のカイゼルにも冷たい態度です。見た目はああですが完全にファムファタールです。

 会議ではいつもヒトラーのイエスマン、ヒトラー暗殺計画でも最初にヒトラーに駆け寄り、降伏文章にも署名しました。しかし主君を失った小姓というのは悲惨な物で、絞首刑になってしまいました。ただし、筋金入りのプロイセン軍人らしく立派な死に様であったと伝わっています。

ヒトラー×デーニッツ×海の男

 変則カップリングです。ヒトラーが自殺した後に誰がドイツのトップになったのか。それが実は海軍代表のカール・デーニッツなのです。最後の最後にヒトラーのハートを射止めた男です。

 カイテルと違って前線でUボートに乗り込んで捕虜になった経験もある実戦派で、潜水艦乗員の団結の素晴らしさを説いています。ヒトラーからは海のロンメルと呼ばれる程信用されていました。ヒトラーは常に英雄を欲しているのです。

 ドイツ海軍の主力は港でずっと英国海軍を牽制しているばかりで、Uボートでの通商破壊が専らの仕事でした。従ってヒトラーは海軍を軽視していましたが、デーニッツと彼の後輩のUボート乗りは自慢にしていました。

 欠点は血の気が多い所で、断固として終戦に応じなかったので犠牲者を増やしてしまいました。

 そしてデーニッツは消去法の正妻です。後継者になれるような軍人は大半がヒトラーの下を去るか、失脚していました。特にヒトラーは陸軍のせいで負けたと信じていたので、唯一大きなミスをせずに残っていた海軍軍人のデーニッツが残ったのです。

 しかし、デーニッツはヒトラーの遺言で大統領に指名された事を後悔していました。なまじ重大なポストを押し付けられたばかりに戦犯になってしまい、軍歴は終わってしまったのです。

 これはよくあるパターンで、ドイツ軍のトップクラスは戦犯になったためにキャリアを絶たれ、その少し下のポジションの面々が戦後のドイツ軍のトップになりました。言うなれば、デーニッツはヤンホモヒトラーに掘られてキレ痔になってしまったのです。

 幸い特に政治に関わっていなかったのでデーニッツの支持者は軍隊にも多く、デーニッツはかつての部下に元帥元帥とちやほやされるのが最大の楽しみであったそうです。

 つまり、デーニッツにとって真に愛する男はヒトラーではなく部下なのです。ヒトラーのカリスマさえも凌駕するUボートマンの絆。これは別の機会にじっくりとやりましょう。Uボートではしばしば同性愛は発生しました。

あれ、ゲーリングは?

 実はヘルマン・ゲーリングはそれ程ヒトラーといちゃいちゃしていません。確かにゲーリングはケツをヒトラーに向けていますが、股間のV2ロケットは部下達に向いています

 ゲーリングもレーム同様にヒトラーにとって眩しすぎる存在でした。どっちも大尉ですが、ゲーリングは経歴がずば抜けています。

 何しろ城住まいの貴族で撃墜王です。晩年のモルヒネ漬けでぶくぶく太った姿ばかり有名ですが、若い頃の姿ときたらもう、現実味が感じられないレベルです。

 ゲーリングはナチスの思想にあまり関心を持っていませんでした。彼はヒトラーへの個人的な崇拝によってナチスに入党したのです。

 とは言え、初期のナチスにおけるゲーリングの価値は絶大でした。何しろ有名な英雄で上流階級にコネがあります。金持ちマダムから資金援助を得る為にジゴロのような事もしていたそうです。

 ババアイかせてなんぼの杉良太郎の世界観ですが、それはつまりジジイもイかせてナンボです。ちなみに、当時のドイツの軍需産業を支配していたクルップ社の先代は、カプリ島でホモ祭りをした事をすっぱ抜かれて自殺しています。

 ヒトラーがゲーリングを頼りにしたのは言うまでもありません。そして、ゲーリングの経歴から言っても、ノンケとは考えられません。

 また、ゲーリングは反ユダヤ主義に関しては職務上の付き合い程度でした。代父がユダヤ人、ミュンヘン一揆で負傷した時に助けてくれたおかみさんもユダヤ人、元舞台女優である嫁さんの友人にもユダヤ人、WWI時代の可愛い部下にもユダヤ人、ナチスのトップとは思えない経歴の持ち主です。

 もっと言えば、恐らくゲーリングが欲しかったのは金と名誉とホモソーシャルだけです。ゲーリングは贅沢好きで有名で、彼が愛用した拳銃は「ゲーリングルガー」と呼ばれてモデルガンにもなっています。

 この通りど派手です。フレディ・マーキュリーやマイケル・ジャクソンの愛用品だと言ってもガンマニア以外は信じるでしょう。ノンケのセンスではありません。

 また、ナチスの高官は反吐の出る女狂いが揃っていますが、ゲーリングは結婚してからは嫁さん一筋で、女性関係は極めてクリーンでした。これも相当怪しい物があります。総統と怪しい物であります。

 思うに、ゲーリングはモテモテ過ぎて女を信用できなかったのです。そしてたまたま特別な女性に出会って結婚し、唯一信頼を置ける女性として溺愛した。これは偽装結婚したゲイにはしばしばみられる行動様式です。

 最初の妻であるカリンは若死にしましたが、ゲーリングは別荘やヨットにこの嫁さんの名前を付ける程愛していました。そして、リベラーチェ風のゴテゴテファッションに凝り出したのは彼女の影響だそうです。

 後妻のエミーは舞台女優です。何しろ舞台の世界ではノンケが変態、ゲイのユダヤ人が多数派になれる世界です。前妻を忘れられない亭主を許す度量の大きさから言っても腐の素質の持ち主です。

 さて、ミュンヘン一揆の後にヒトラーとの倦怠期がありました。ナチスにゲーリングに匹敵するいい男が揃い始めたのです。前科持ちでモルヒネ中毒のゲーリングは遠ざけられてしまいます。

 しかし、ヒトラーは思い直してゲーリングを再び重用し始め、ゲーリングは国会議員になります。ヒトラーが思い直した理由ははっきりしませんが、ホモはその疑問をすべて解決してくれます。

 そのあとはお得意の人たらしでどんどん金と権力を集め、レームも始末し、ついにはゲーリングは空軍司令官になります。

 しかし、ゲーリングにとってはナチスは若き日の仲間達の代わりでしかありませんでした。ゲーリングの全盛期はあくまで前の世界大戦なのです。

 トップガン マーヴェリック』でも説明しましたが、ゲーリングはかのレッドバロンの後任者として類まれなリーダーシップを発揮した男です。自分の手柄は捨てて仲間達のチャンスを作る。これは中々出来る事ではありません。

 敗戦によってゲーリングは涙ながらに仲間と別れましたが、ゲーリングは権力を得てからというもの多くの元部下を再び取り立てました。

 そして、WWIでは多くのユダヤ人がドイツ軍に居ました。ゲーリングは元部下のユダヤ人がゲシュタポに捕まったと聞くや乗り込んで行って助け出し、匿い続けました。そのパイロットもゲーリングの恩を決して忘れず、イスラエルへの移住を拒んで終生ドイツで暮らしたそうです。

 これはほぼ受けオークションを破壊するスーパー攻め様の図です。SAがホモ軍団だとゲーリングは言いますが、お前の方がもっと尊いホモをかましてるじゃないかというわけです。

 戦争が始めるとヒトラーとゲーリングは権力を増します。何しろ何処へ行っても連戦連勝で、何処へ行くにも先頭に居るのは空軍です。

 とにかくヒトラーは空軍を重視していました。ドイツ空軍は優遇され、陸軍とは別に歩兵師団まで持っていました。これに至ってはゲーリングが欲しがったから与えられたとしか言いようがない代物です。欲しがるゲーリングもゲーリングですが、与えるヒトラーもヒトラーです。スーパー攻め様とスーパー攻め様の同軸リバです。

 しかし景気が良かったのは最初だけで、連戦連勝の次は連戦連敗の泥沼に陥ります。こうなるともう毎日が痴話喧嘩で、2人の中はソ連の冬のように冷え込んでしまいます。

 更には攻め込むどころかドイツ本土への空襲が始まり、ヒトラーとゲーリングはアメリカ人にリバられてキレ痔状態となります。ゲーリングの権威は失墜し、引きこもって美術品集めに耽るようになります。ゲイ術が慰めというわけです。

 意外ですが、ゲーリングはどんなに負けても国民からの人気が絶大でした。つまり、国民はヒトゲリ推しなのです。なのでヒトラーもゲーリングを排斥できませんでした。

 しかし、泥棒ネコのボルマンが裏工作をしてゲーリングをついに失脚に追い込みます。ヒトラーはボルマンの汚い工作を信じて遺書でもゲーリングを罵って死にました。

 つまり、ゲーリングはナチス政権の前半ははヒトラーとズボズボで、後半は仲が冷え切っていました。最も振れ幅の大きいカップリングです。

 そして、多くの作品でゲーリングはヒトラーと一番近い所に居ます。これはドイツ人がゲーリングが好きだった裏返しです。そういう意味ではヒトゲリこそが公式なのかもしれません。

ムッソリーニ×ヒトラー

 愛はアルプスを越えますが、これは近く別の機会を用意して徹底的にやりましょう。

ヒトラー×クヴィツェク

 トリに持ってきたアウグスト・クビツェクはヒトラーの若い頃の親友です。何しろヒトラーは友達が少ないので極めて重要な存在なのは考えるまでもありません。それどころか「グストル」「ドルフィー」と呼び合う仲でした。こいつは美味しいですよ皆さん。

 クヴィツェクは音楽家を志してウィーンでヒトラーと同居していました。世紀末ウィーンの爛熟したホモ文化の中で青春を共有する若き芸術家が一つ屋根の下、これで何も起きない方がどうかしています。

 クヴィツェクは指揮者になりますが戦争で失業し、役所勤めになりました。一方画家として挫折したヒトラーは政治家としてたちまちドイツを手中に収めます。

 クヴィツェクは1933年にヒトラーが首相に就任した時にお祝いの手紙を送りましたが、すぐに返事が来たそうです。ヒトラーの中でグストルが特別な存在であった証拠です。

 1938年、総統として故郷リンツに凱旋したヒトラーはクヴィツェクとついに再会します。一介の役所勤めが総統と個人的に面会するというのは、どう考えてもただの友人ではありません。

 ドルフィーはグストルの友情に報いるためにあれこれ提案しました。役所での出世、子供の音大への進学援助、金だって望めばシャハトがいくらでも用意してくれます。しかし、無欲なグストルは友人としてすべてを固辞します。

 何としてもグストルに恩返しをしようとあれこれ提案した挙句、共通の趣味であるワーグナーに妥協点を見出し、バイロイト祭への全日招待というプレゼントが行われました。

 たかがオペラの切符と侮るなかれ、金とコネがいくらあっても足りない無茶苦茶豪華なプレゼントです。少なくともメルケルの甲斐性では無理だと思います。ヒトラーのスーパー攻め様気質の面目躍如です。

 1940年にもバイロイト祭で2人は友情を温め合い、それがドルフィーとグストルの最後の別れとなりました。

 ヒトラーは「戦争が終わったら君を建築の分野で呼ぶ」と言い残したそうです。それがもし実現していたらヒトラーが夢見た世界首都ゲルマニアはゲイタウンとなり、シュペーアが嫉妬に狂う事になっていたでしょう。

 しかし、愛する親友と死に別れたグストルに連合国の野蛮人どもが追い打ちをかけます。16か月にも及ぶ取り調べの末、取調官は「監視無しで接見できたなら、どうしてヒトラーを殺さなかったのだ」とクヴィツェクをなじりました。

 この野蛮でデリカシーの無い暴言に対し、クヴィツェクは毅然と「親友を殺す事は出来ない」と言い返したそうです。まさに純愛です。ヴィニフレート・ワーグナーもこの愛の前にはコンドームでしかありません。

 結局のところ、グストルにとってドルフィーは悪魔ではなく、思い出と時間を共有した幼馴染なのです。やっぱりなんだかんだ言っても幼馴染こそが原点にして究極なのです。

BL的に解説

ヒトラー×ザヴァツキ

 クヴィツェクをトリにしたのにはもう一つ意味があります。作中のヒトラーは明らかにザヴァツキにグストルを見ているのです。

 考えてみてください。これだけたくさんのカップリングがありますが、ザヴァツキと似た位置づけにあるのはグストルだけです。レームやシュペーアにしては頼りないし、ヒムラーやゲッペルスにしては無欲すぎるし、ヘスやボルマンにしては反抗的です。

 幼馴染と生まれるのが運命ならば、偶然に出会うのもやはり運命です。現世に降臨したヒトラーは、「貧困層の少年がサッカーに希望を見出す」というありきたりにもほどがあるザヴァツキのドキュメンタリーの映像に写り込んだのです。

 現場近くの新聞屋にヒトラーが居座っているのを見つけ出したザヴァツキは、ヒトラーに全国ツアーを提案し、母親の経営する花屋のバンに乗って旅立ちます。

 薔薇の花の咲き乱れるワゴンです。意味深すぎます。古典の知識のあるヒトラーが、薔薇がそういう意味のある花だと知らないはずがありません。そう、この映画は一転してBLロードムービーに変身するのです。

 しかし、実際のところヒトラーが心配しているのは、この車が実質女人禁制のマジックミラー号である事ではなく、装甲が無い事なのです。何しろ1945年バージョンなのでヒトラーもすれています。

 こうしてヒトラーとザヴァツキは諸国巡礼の旅に出るのですが、ザヴァツキは基本的に映像作家としては無能なので、銀行へ行こうだの、水着を着ろだのと置きに行った提案ばかりして怒られてしまいます。残念ながら、水着シーンは無しです。

 しかし、ゲッベルスが墓でのたうち回るというコメントを聞けば、ゲッベルスは墓でビンビンになること請け合いです。ヒトラーは確かにゲッベルスのプロデュース能力を買っていた証拠ですから。

 深夜テレビのくだらなさにブチ切れて「8.8センチ高射砲で吹き飛ばしてやりたい」と怒るのも意味深です。

 何しろヒトラーはデカい兵器が大好きで、メーカーがそういうのを持って来れば後先考えずに量産させるのは有名です。デカチン好きなのです。

 しかし、ヒトラーは物凄く頭が良いので、このテレビに啓示を受けて政治をテーマにすると決め、国民に現代ドイツのへの不満についてインタビューして回る方向に進みます。

 ヒトラーを前にすると、ドイツの人々は民主主義と対立するどす黒い本音を次々ぶちまけてしまいます。いかにドイツが移民問題に悩んでいるか痛烈に抉っています。

 そしてこの段階に至ってヒトラーとザヴァツキは急激に仲良くなり始めます。しかし、ヒトラーは倫理観も70年遅れなので、噛みついて来た犬を射殺したり、ヒップホップの「ニガ」の意味を誤解して騒動を起こしたりと世話が焼けます。そんなヒトラーの面倒を見るザヴァツキと、天真爛漫に好き放題するヒトラー。萌えの方法論を感じさせます。

 しかし、路銀が尽きると今度はヒトラーがザヴァツキの為に身体を張る番です。かくしてヒトラーはバイロイトで似顔絵を書いて稼ぎます。

 よりにもよってバイロイトです。ワーグナーとヒトラーが紐づいているのは世界中のワグネリアンの悩みの種なので、似顔絵は売れますが文句言う人も当然います。

 ここでヒトラーが突然前触れなくザヴァツキがモテないことに文句を言い始め、女には攻撃あるのみなどと有難くない教えを授けてエキサイトするのは何気に重要です。

 何しろ、ヒトラーは若い頃は全然イケてない男で、好きな娘にそれを言い出せずにクヴィツェクに泣き言を延々垂れるような奴だったのです。

 バイロイトに長居したのでヴィニフレードの事を思い出したのか、ザヴァツキがアルベリヒに見えたのか。いずれにしても、こういう関係性で相手の女関係を気に掛けるのは物凄くBLです。ヒトラーは男にも女にも電撃戦なのです。

 その直後に遊園地デートになだれ込むのに至っては、やはりヒトラーは売れていなくても世紀末ウィーンの末席に居た男だったという事を示しているようにしか思えません。あんなのを人が見たら間違いなくゲイカップルだと誤解します。そして、誤解であるという保証はどこにもないのです。

 ここからはもう完全にラブラブ婚前旅行コースです。そしてついには脚本を越えたフーリガン扇動に至り、SNSでヒトラーがバズってしまいます。これはもはや神の御意志です。

 そしてザヴァツキはゼンゼンブリンクの元へヒトラーを売り込みに行きます。流石にヤバいと思ったゼンゼンブリンクですが、ヒトラーは勝手に会議室に殴りこんで演説をぶってベリーニを仕留めてしまうのです。

 これはです。ザヴァツキを助けねばとヒトラーは思ったに違いありません。そう、それはナチスがミュンヘンの泡沫政党だった頃と同じ構図です。レームやゲーリングとの苦難に満ちた闘争の日々を思えば、銃規制の行き届いた現代ドイツなどヌルゲーなのです。そして、別の所がヌルヌルしてしまうのです。

 ここでザヴァツキはヘタレを返上し始めます。レームには及ばなくてもヘスくらいにはなってやるという意気込みを感じさせます。

 お茶くみとして復職したザヴァツキがクレマイヤーをデートに誘ってOKを貰うのは、明らかにヒトラー効果です。一方クレマイヤーはヒトラーの秘書に任命され、積極的にコンドームになっていきます。

 ヒトラーに小物呼ばわりされるゼンゼンブリンクはヒトラーをやり過ぎさせて失脚させる事を狙い、作家たちにド下品で不道徳極まるジョークを考えさせ、政治風刺番組の司会者はヒトラーがあまりに似ているのであからさまに嫌そうにします。

 かくしてワルキューレの騎行に乗って現れたヒトラーは、放送事故モノの長い間を取って台本完全無視の大演説をぶち、完璧に民衆の心を掴んでしまいます。

 それをザヴァツキとリビングで見ているクレマイヤーはメス顔になってヤっちゃいます。あんたはよくぞこんな逸材を見つけてきたと言わんばかりです。

 そう、ヒトラーへの評価はザヴァツキへの評価と直結しているのです。ヒトラーの事なので、この程度の事は予見していたでしょう。あの演説は愛する祖国ドイツの為の物であると同時に、恩ある友ザヴァツキの為の演説なのです。

 ここへきてようやくヒトラーはネオナチの存在に気付きますが、ネオナチの歓迎にバルコニーから手を振るヒトラーの隣に居るのはザヴァツキです。そう、エヴァ・ブラウンのポジションにザヴァツキが居るのです!しかしネオナチは腑抜けぞろいで、ヒトラーにとっては全くの期待外れです。

 こう言う意味でもザヴァツキはエヴァ・ブラウンです。高官は頼りなく、最も無力で最も近しい者しか信用できないという末期の状況と完全に一致します。

 左翼の密告で検察がテレビ局にやって来ても、検事がヒトラーのファンでなあなあで済んでしまうのは、やはりヒトラーの剛運の現れです。何度暗殺されそうになっても、自殺するまで死ななかった男ですから。

 しかし、ゼンゼンブリンクが犬の射殺映像を流出し、ヒトラー一派は失脚します。言い換えれば、言論の自由より犬の方が大事なのが現代ドイツなのです。

 ヒトラーは宿を出されてザヴァツキの家に転がり込み、執筆活動に入ります。そう、ここへきてザヴァツキはヘスにレベルアップです。

 ザヴァツキが原稿を持ってきてクレマイヤーと一緒にベッドで読むシーンも細かいですが重要です。つまり、そんな大事な物を持ち出す事を許すくらいヒトラーはザヴァツキを信用しているのです。こんな光景を本物のヘスが観たらショック死します。

 果たしてヒトラーの本は大ヒット。ヒトラーはフェイスブックで人材を集めて親衛隊を組織して絶好調です。

 これは若き日のヒトラーの再現、というよりも、三島由紀夫with楯の会のテイストを感じます。つまり、物凄くホモ臭い。

 更にはヒトラーの本は映画化も決定ザヴァツキは監督になり、今度はリーフェンシュタールに格上げ。一方、窮地に陥ったゼンゼンブリンクはザヴァツキに放映権契約を取りに行き、ザヴァツキはこれに応じてゲッベルスにまで上り詰めます。

 しかし、上り詰めた先がゲーリングではないのが失敗でした。ここでついにクレマイヤーのおばあちゃんがユダヤ人である事が判明してしまいます。

 ザヴァツキはようやく事の重大さに気付きますが、ヒトラーと来たらベルリン五輪の間はユダヤ人迫害を棚上げした思い出話など語っちゃって絶好調です。

 ヒトラーはネオナチの襲撃を受けますが、却ってそのせいで人気が高まり、事態はどんどん悪い方向へ進んでいきます。

 ちなみに、ボリス・ベッカーからお見舞い状が届きますが、ヒトラーの迫害を逃れてきたおホモ達のユダヤ人テニスプレイヤーを匿ったのが、美男局に騙されて国民の顰蹙を買ったスウェーデン王、グスタフ5世だったりします。

 一方でザヴァツキは映像を確認してヒトラーが本物である事に気付き、全てを決着させようと試みてヒトラー暗殺を試みます。しかも、ヒトラーから取り上げた拳銃で。

 何とも意味深なシチュエーションです。ヒトラーはヒトラーでザヴァツキを「最も近しく頼りにしていた者」と言い切ります。半端じゃありません。

 これはつまり、ついにはザヴァツキはレームの位置にまで上ったという事です。ついにガチホモに辿り着いたのです。

 ヒトラーは、明らかにマカロニウェスタン入ったBGMに乗せて撮影所の屋上で最後の言い争いに臨みます。そして、民意によって自分が選ばれた事を強調し、言い返せないザヴァツキは鉛で返事をします。

 しかし、これは映画なのです。本物のザヴァツキは撮影所に辿り着く前に捕まり、精神病院の白い部屋の中に居ます。

 この期に及んでもヒトラーは打ち上げでシャンパン飲みながらザヴァツキに献杯しちゃいます。つまり、ヒトラーがザヴァツキを心の底から大切に思っていた事は確かなのです。ますますレームしています。

 しかし、レームは死ぬことで現世の苦しみから解放されましたが、この映画は違います。つまり、ベリーニがエヴァ・ブラウン面を始め、ザヴァツキは無力にそれを見ているしかないのです。とんでもないNTRです。

 つまり、ザヴァツキの立場は二転三転しましたが、クヴィツェクに始まり、クヴィツェクに終わりました。親友は、殺す事が出来ないのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

『フィールド・オブ・ドリームス』(1989 米)(★★★☆☆)(無自覚BLロードムービー)
『グッバイ、レーニン!』(2002 独)(★★★☆☆)(思想に揺れるドイツ)

今までのレビュー作品はこちら

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