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結婚って、好きな人とするものじゃないのかもしれない

お母さんの友達に、ゆりちゃん(仮)という福島在住の女性がいる。小柄でおしとやかな外見とは裏腹に、スパスパとものをいうなかなか強い女性である。おかし作りが得意で、よくわたしに大量のクッキーをくれた。なにやら怒るとすごく怖いようで、わたしは見たことがないけどちょっとだけ想像できる、めちゃ怖そう。

ゆりちゃんには2人のお子さんがいて、そのうちのひとり、妹さんはわたしと同い年だった。両親の繋がりで出会った私たちは不思議と意気投合して、よくリカちゃん人形で遊んでいた。

そして、ゆりちゃんの家はすごく立派だった。
シルバニアファミリーにありそうなかわいらしい屋根の一軒家で、福島の住宅街の中でも異質を放っていた。
今考えてみれば、ゆりちゃんの趣味全開の家だった。かわいらしい家の外観もそうだけど、置いてあるインテリアも全てゆりちゃんが選んだものだったのだろう。うさぎがたくさんの家だった。
いわずもがな、結婚したゆりちゃんはお金持ちで、子供に与えるおもちゃもすごい量だった。まてや、そのリカちゃん最新作やん、ってまてや、こっちも海外のやつやん。そんなつっこみを心の中で何回かしていた。妹さんのおもちゃコレクションが羨ましくてしょうがなかった。

旦那さんは、穏やかでふっくらとした方だった。こちらも父と仲が良くて、よく一緒に飲みに行ってるらしい。ゆりちゃんとツーショットで並ぶと、完全に彼女が尻に敷いているとわかる感じの、あの弱いような優しそうな男性。ゆりちゃんくらい可愛くて美人だったら、きっと男の人なんて選び放題なんだろうなって思っていたから、ちょっと意外だった。

ある日、ゆりちゃんにいきなり質問をしてみた。多分その時のわたしはなにも考えていなくて、ただ素朴に感じていた長年の疑問をぶつけただけだった。
「どうして今の旦那さんと結婚したの?」
ゆりちゃんはちょっとの間だけ真顔になって、そしてこう言った。

「わたしはあの人のことを少しも好きじゃなかった。でも、あの人はわたしを絶対に幸せにしてくれるって思った。」

幼きわたしはこの意味がわからずポカンとしてしまったけれど。
今ならわかる。

まさに、かいしんの一撃。
ゆりちゃんのこの言葉がスパーンと脳天を突き抜けて目が覚めた23歳。

結婚は、好きな人とするものだとずっと思っていた。恋い焦がれて愛おしくて、この人のことならなんでもゆるせる、支えたい。そういう感情が結婚相手に必要だとずっと思っていた。
だけどゆりちゃんには、わたしが想像するそれが一切なかった。自分の好きという感情は関係なく、注がれる愛情にただ身を任せたのだ。
そして今、ゆりちゃんは幸せそうに暮らしている。あのシルバニアファミリーのようなかわいいお家で。

周りが少しずつ結婚をしていくようになって、最近少しだけ思う。じぶんのいままでの恋愛は、相手に与えようと必死になっていただけなのかもと。受け取ってもらえなくてわかってもらえなくて苦しくなって、そして爆発する。それでなんども失敗てきた。
思えばちゃんとわたしを好きだと言ってくれた人は、過去に何人かいた。優しくて穏やかでわたしを受け止めようとしてくれる人は確かにいた。
気づかずここまで来てしまったけれど。
選ばなかった手が、幸せへの道だったんじゃないだろうか。

結婚は、好きな人としなきゃいけないものではないのかもしれない。
受け止め上手な相手に、すこしだけ身を委ねて見てもいいのかもしれない。そうしてはじめて相手を受け入れて、自分を好きでい続けられるのかもしれない。
ゆりちゃんが幸せなのはお金持ちだからじゃなくて、地に足がつく安定した愛情を注いでもらっているからだ。だから、ゆりちゃんも不倫なんてしないし、おうちで旦那さんをしっかりと愛してあげている。
好きとか恋とかそういうものをこえて、夫婦になっていく。

結婚ってなんだろう。
きっとそう遠くはないこの言葉。恋と結婚って違うのかな。違うんだろう。

#コラム #エッセイ #結婚 #恋愛 #cakesコンテスト

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