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落語家のはなし

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第十席

【ここまでのあらすじ】
社会人の私は口だけと言われ、落語会に行くことにした。
今回は初落語会の二人目の話です。

お金を払った価値はあったかもしれない、と思った。
なんで私は金勘定ばかりするんだろう。自分が嫌になった。
前にネットで見たが、男は必要だったら値段を気にせずに買うらしい。女は安ければ必要なくても買うらしい。

お金の有無じゃなくて自分が欲しいか、必要かどうかで買う人間になりたい。
私は

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第九席

お金を払ってきたんだ。どうか払う価値がありますように。

一人目は小太りで坊主の若い男だ。
座布団の上に乗っていると、大福のようだ。

男は前、斜め右、左に頭を下げた。
どうやら客全体に軽く頭を下げるしきたりらしい。出てきても真正面にしか頭を下げない威張った音楽会とは違うらしい。

伝統芸能とはいえ、何かへりくだったような気安さを感じた。

男は有名なある落語家の弟子だと話した。
今日の主役となる

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第8席

 私は、心が怯えていた。
 世の中に対して。
 
 常に人に愚痴を言い、感情を垂れ流し、理性で制御することが出来ないように見える一方で、私は本当の気持ちを誰にも言うことが出来なかった。家族にも、友人にも。
 私が今歩んでいる道は私が選びたかった道ではない。ずっと目標としていた道は家族から反対された。ある大学の文学部に入学したいとずっと中学の頃から努力していた。
「許さない」その一言で私の夢は崩れ落

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