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ヨーロッパ旅の記録〜ヘルシンキでのコンサート

"2017年7月24日〜9月18日まで ヨーロッパ8カ国を旅した記録"

8月30日
日本を発つ前に、新しいアルバムの録音をしていた。今回の旅に間に合うように、エンジニアさんに無理を言ってマスタリング作業を大詰めで済ませ、マスターを持ってこっちに来た。日本でプレスする時間がなかったので、どこかの都市でプレスができればいいなと思っていたら、スイスで出会った友人の紹介で、チェコのプレス業者に頼むことができた。各地移動中に業者とのメールのやり取りをして、なんとかコンサートの前日にCD100枚がヘルシンキに届くように手配することができた。我ながら、行き当たりばったり感がすごい。
が、しかし、前日になっても届かない。ヘルシンキに荷物が来ていることはわかっていたのだが、物が自宅に届かない。有希ちゃんが配送会社に電話で問い合わせてくれた。荷物は会社にあるということだった。私は日本のヤマトとか佐川の感覚で、午前中指定で届けてもらうように頼めばコンサートに間に合うんじゃないの?くらいに思っていた。でもフィンランドは日本の配送会社ほど信頼できないらしい。有希ちゃんが、絶対にこれは取りに行った方がいい、との判断で、朝、車で取りに行ってくれた。申し訳なかった。私がもっと余裕を持って行動していればこんなことにならなかったのに。でも、彼女がこんなに頼りになる女性だとは、ここで一緒に過ごすまで知らなかった。本当に、たくましくて尊敬する。
無事にCDを手にすることができ、いざコンサート会場へ。

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コンサートは、シベリウスアカデミーの近くの本屋さんで行われた。壁に陳列された本に囲まれ、小さなスペースではあるが心地の良い空間だった。私は早めに着いて、CDのパッケージ詰めとレジュメの用意。今日は中原中也の詩をテーマにした楽曲を演奏するので、これも寄せ集めではあるのだが、中也の詩の英訳をプリントしたものをお客さんに配って、少しでも音楽の意図するところを伝えたかった。朗読は彩子さんに日本語でしてもらう。言語を扱う場合、互換性が難しい。本当はフィンランドでやるならフィンランド語に翻訳し、日本語とフィンランド語の朗読をしたら面白いだろう。

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事前にポスターを貼ったり、有希ちゃんや彩子さんが告知してくれたおかげで、コンサートには20名くらいの人が集まった。決して多くはないが、私の初めての海外公演、知らない人に聴いてもらえることが嬉しかった。
演奏は、今までにないくらいリラックスしていた。有希ちゃんと彩子さんとのアンサンブル、また彩子さんの朗読、お客さんの傾けてくれる集中、すべてが空間に立ち上がり、幸せな時間だった。
思えば日本を発つ前、いろいろと悩んでいた。演奏や作曲の方向性について、ステージに立つたびにストレスを感じることが多かった。理由は様々だが、一旦そういった自分を取り巻いているものから離れたいと思い、海を渡ることを決めたというのもある。今日、こんなにもリラックスしてステージに立っている自分に、少し驚いた。それは、フィンランドのおおらかな雰囲気のせいもあるだろうし、オーディエンスが違うというのもあるだろうし、ここへ来るまでの一ヶ月の旅の影響もあるだろう。なにしろ、ヨーロッパへ来てからというものの、感情の糸が緩みに緩みまくっていた。一番大きな理由はそれかもしれない。音楽に最も影響を与えるのは、自分自身の感情、精神の支柱の有りようなのだろう。そのことが今日よくわかった。

終演後にはCDを買ってくれた人もいたし、熱心に感想を言ってくれる人もいた。またいつかここへ戻ってきてコンサートがしたい。有希ちゃん、彩子さんありがとう。

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ヴァイオリン:藤田有希
ユーフォニアム・朗読:日暮彩子
Arkadia Bookshop/Helsinki

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