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朝ドラと大阪と香川の話

言葉足らずの愛を、愛を貴方へ・・・と優しいメロディーから始まるあいみょんの「愛の花」で寝ぼけ眼を擦る生活が当たり前になっていたのはもう1ヶ月以上も前のことで、すっかりブギウギスタートが新しい日常になりつつある。

仕事をしている時はNHKの朝ドラを観ることはなかった。朝が早かったからではない。8時20分頃に起きていたからだ。

だけど春に子どもが生まれて育休中の今、朝ドラを観ることが毎日の密かな楽しみになっている。

とはいえ正直、間に合う日もあれば間に合わない日もある。娘が5時台に起きた日は私もその時間に起きるので、8時前後には娘と二人で二度寝していることが多い。だからそんな日には朝ドラには間に合わない。オンタイムに観れなかった日は、身動きが取れない授乳の時の暇つぶしに、録画を鑑賞する。録画だと朝イチの朝ドラ受けを見れないのが残念ではあるけど。

さて。

学者崩れの私は植物学者を描いたらんまんにすっかりハマっていたので、終わった時はかなりのらんまんロスだった。新しい朝ドラ?正直、タイトルも意味わからんし、歌劇に関心のない私はブギウギなんてどうでもいい・・・と思っていましたNHKさんすみません。

ブギウギは、最初の1週間でらんまんを吹き飛ばすインパクトがあった。元気で明るくてノリがいい。

私がブギウギを楽しく観れている理由は、しかし脚本の面白さだけではない。

単純に舞台となっている土地が身近に感じるからだと思う。大阪生活4年目、テンポのいい大阪弁の音にも十分耐性がついている。

もしここ大阪ではなく地元の横浜でこのドラマに出会っていたら、私は全く観る気が起きないままだったかもしれない。NHKさんすみません。

まず、主人公のスズ子の実家が大阪市の福島である。

福島は去年の12月まで私たち夫婦が住んでいたところだ。しかもスズ子んちの銭湯の暖簾には野田藤が描かれており、銭湯に集う人たちの溜まり場に野田藤の藤棚がある。

野田藤は福島のアイデンティティである。
たった2年しか住まなかったけど、私はそう理解している。

吉野の桜に野田の藤…っていうくらい、奈良の吉野山の桜と並ぶ藤の名所だったという。ちなみに野田とは、福島の地名である。なお標準語で「野田」と呼んではいけません。バカボンのパパ風に「これでいいのだ」と言った時の「のだ」の発音でこの地名を読みます。

秀吉も福島まで野田藤の花見に来たらしい。現在では、当時の藤はほとんど残っていないかわりに、地元住民の根気強い努力によって区内至る所に藤棚が設けられ、5月にはあちこちで藤を楽しむことができる。区役所、公園、幼稚園、その他諸々、とにかくめちゃくちゃたくさん藤があり、細かなところに藤の花の絵があつらえてある。区のゆるキャラだって藤だ。

駅前にも藤の藤棚
公園にも藤棚

だから、スズ子んちの暖簾に藤の花が描かれていたり、藤棚があるのは福島らしい芸の細かなリアリティなのである(ドラマ内で季節関係なく藤がいつも咲いているのは、目を瞑る)。ただしこの点は、福島区民と年配の物知りな方以外、大阪の人でも気づく人は少ないかもしれない…。

それからブギウギのもう一つの舞台は香川である。主人公スズ子のモデルである笠置シヅ子は香川県の東かがわの出身ということで、第20話の今日、香川が出てきた。

香川は私の第二の故郷になる予定の土地である。夫が高松の出身なのである。

まだ住んだことはないけれど、本籍だって今は高松だ。そして数年内には、高松に移住する(と夫は結婚前から宣言している)。このまま夫婦円満死が二人を別つまで一緒にいる予定なので、私のこの骨だって高松市内の小高い丘のてっぺんにある墓に入るのだと思う。

私にとって義父である夫の父親の一家は東かがわの出身で、義母つまり夫の母親の一家は高松の出身だ。これまで機会がなく東かがわで親族と関わったことはまだないけれど、東かがわから大阪市福島の野田に移住した義従兄弟の一家とは何度か会った。東かがわから大阪・福島ってまさにスズ子一家やないかい。

こういうわけで、東京生まれ横浜育ちの生粋の関東もんだけど、縁とゆかりがあって大阪も香川も今の私にはものすごく身近な土地になっていて、それだけにブギウギは二重で熱く観られるドラマになっています。

今日の香川のシーンは実際に東かがわ市でロケされたらしく、ロケで使われた白壁こと猪熊邸はまだ行ったことのない場所だったので、次の帰省の時に寄れないか夫に聞いてみようと思う。

ところで私の場合、土地への興味はそのまま、土着の言語への興味につながる。

映画でもドラマでも舞台となっている現地の言語を現地の言葉のまま試聴するのが好きなので、今日はもう、なによりも香川の人たちのセリフがちゃんと讃岐弁なのかが一番気になって、耳をかっぽじって観てしまった。

「こんまい(小さい)」という言葉以外は、高松帰省の時に義実家で聞く讃岐弁とは違うような気がしたけれど(特に「〜じゃ」と多用されていた語尾に違和感。そんなに言うかなぁ?)、今日のドラマではどのくらいの再現度だったのだろうか。私の耳では残念ながらまだわからない。

讃岐弁の方言指導があったのかオープニングソングのクレジットを2回見直したけれど、「東かがわの皆さん 丸亀市の皆さん」の記載しかなかったので方言指導はなかったのかもしれない。それか時代考証的にはそういう言語表現が普通だったのかもしれない。ブギウギの大阪弁だって、私の職場の学校で学生たちが話す若者大阪弁とはだいぶ違うし。

ただ、夫から香川の東と西では方言が結構違うと聞いていたので、東かがわ(東部)と丸亀(西部)が並列していたのは不思議であった。まあこれは単純にロケ地の問題なだけだとは思うけど。

ああ。

それにしても「かがわ」と「かながわ」名前は似ているし、面積の小ささだって最下位層。海もあって山もある。そんな共通点のある2つの県だけど、全然違う。

そして私は神奈川県を隅々まで愛していたと思っていたけれど、夫の郷土愛を見ていると足元にも及ばない。

夫は「香川はなんもない」「香川は田舎だから」と口ではいうけれど、香川のことについてとても詳しい。

例えば海遊館にある、水圧に耐える分厚くて大きな水槽のガラスは香川の企業が作ったとか。例えばウッチャンナンチャンのなんちゃんは香川出身だよ、とか。丸亀製麺は丸亀という地名と讃岐うどんを名乗っているけど、香川県の会社じゃないくせに名前を騙って許せない、絶対に食べない、とか(はなまるうどんは香川の会社だからいいらしい)。

そういう香川エピソードを無数に知っていて、ことあるごとに教えてくれる。あと香川のブランド豚であるオリーブ豚がスーパーで売っていれば、必ずオリーブ豚を買っている。

そういう夫を見ていると、私は横浜のことも神奈川のことも、知っていたつもりになっていただけでなんにも知らなかったんだなーという気になってくる。それに、葉山牛も鎌倉ハムも買って食べないし。

私は相模湾に望む湘南の海や、岩がゴツゴツした三浦半島の海しか知らない。波は白い。寄せては引く波の中で浮き輪に揺られるのが私の海水浴だった。

でも夫は、白い波が見える日は海が荒れている日だという。瀬戸内海では波が立たないのだそうだ。浮き輪で波乗りするのではなく、ちゃぷちゃぷするのが海水浴らしい。同じ海でも全然違う。

高松市一望(屋島)
穏やかな青の中に島がぽこぽこ


高松からフェリーで女木島に海水浴に行ったという夫の子どもの頃の話を聞いて、数年後に娘を連れて女木島で海水浴に行く未来を夢想する。

何年か先、いつかはまだわからないけれど、戸籍だけじゃなくて住民票も香川の人間になって、瀬戸内海の穏やかな海とぽこぽこ浮かぶ島やぽこぽこ林立する小さな山を見ながらうどんを啜り、香川を本当の故郷にしていく残りの人生は、私にとって未知で不安で、そしてちょっとだけ楽しみだったりする。


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