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【短編小説】僕のまぼろし①

僕は、途方に暮れていた。

何も楽しいと感じない毎日がただただ過ぎていく。
友達もいない、根暗で人と話すことが苦手、
ひきこもりの生活を繰り返す。
家でずっとゲームをしていても無の状態。
このままでいいのかと考えたこともなく、
生きることすら諦めていた。

こんな僕になってしまったのは、小学校の5年生の時、
毎日一緒に通っていた友達にあることがきっかけで
いじめられた。
靴は隠され、体操服はボロボロになって、悪口を言われ、
僕の周りからみんなが消えた。
僕が悪かったのか、友達が悪かったのか考えたくもない。
僕は人を笑わすことが好きだったのに、
それがきっかけで学校の人気者になり仲が良かった友達が
僕を妬み始めたのがきっかけだった。
いつも中心は僕で友達がその笑いをつっこんで周りが笑う。
みんなからも、二人は大人になったら漫才師になればと
言われるくらい阿吽の呼吸の仲だった。
それなのに、僕から友達は離れた。

信頼していた友達が離れ、僕はひとりになったとき、
友達って何?って、そんな簡単に離れていくの?って
人を信じれられなくなり学校に行けなくなった。
そして、親の離婚で6年生の二学期にお母さんと
一緒に家を出た。
お母さんは、きっと新しい出会いがあるからと
僕の背中を押す。
お母さんは仕事で忙しい中、朝食を作ってくれた。
でも、喉が通らない。
僕「ごめん、食べれない。」と言って自分の部屋に
閉じこもった。

学校に行くのが怖かった。ありのままの自分を出すと
またいじめられると思う。
こんな僕は、みんなには必要ないんだと
思いこんで布団にもぐった。
その日から、ずっと家の中にいる。
周りはきっと学生生活を楽しんでいるのであろう。
電気もつけないまま、ただただ日が過ぎていく。
お母さんは、そんな僕を怒ることなく黙ってずっと
見守ってくれていた。

それなのに、こんな僕でごめん、
いつもありがとうも言えない。

20歳の誕生日を迎えた夜、
電気はつけたまま、いつものように布団の中にもぐっていた。
大人になっても何も変わらない。

「なんで、僕は、生きているんだ・・・・」
とつぶやいたとき、

部屋の電気が、急に消えて真っ暗になった。
電気まで僕を見放すのかと、
もう何もかもなくなってしまえばいいのにと思った瞬間、
天井からヒラヒラと白い妖精のようなものが降りてきた。
僕は、一瞬怖くなり布団を頭からかぶり座った。
幻覚が起きてしまったのかと
落ち着かせようと深呼吸をした。
妖精は、僕の顔の目の前にきた。

「あなた、今、何を考えていたの?」

えっ、僕にその妖精が話かけている・・・
もうこれは僕がおかしくなり始めたんだと思って
目をつぶってもう一度目をあけた。
妖精がいる、いや、ほっぺをひねった、
やっぱり、妖精がいる。
目を何回もこすった。
それでも僕の目の前に小さな妖精がいる。

白い羽が2つあって白のワンピースみたいな服に
薄い黄色の福寿草(フクジュソウ)の華がリボンのように
付いていて目がキラキラ光っている。

とりあず、何か言ってみようと咄嗟に出た言葉が、
僕「誰ですか・・・」
なんでこんな質問してしまったんだろう。
まったく面白くもない。

妖精「私?私は、あなたから呼ばれてきましたよ!!」
手を頬に当てながら嬉しいそうに話す。

僕「え・・・」
僕は、会話ができると更にびっくりした。
あの最初に話かけられたのは本当なんだと思って会話を
続けてみた。

僕「呼んでないです、あなたはどこから来ましたか?」

妖精「あはは、呼ばれたわよ!
なんで、僕は、生きているんだって言ってたじゃない!」
とても陽気に笑いながら喋る妖精。

僕「あぁぁ、言ってたような気がする」

妖精「気がするじゃない!じゃないの!
あなたには、生きる意味があるのよ!」

僕「そんこと言われても、
いきなり出てきたあなたに何が分かるんですか」

妖精「私?私にはあなたのことは分からないわ~、
私は、生きる妖精なの。じゃぁ、またね!!」

妖精は消えた。そして電気がパッとついた。
妖精がいた時間は、3分くらいだったが、もっと長く感じた。
今の何だったんだろう、夢か、きっと夢の中の夢だと思って
そのまま寝てしまった。

次の日の朝、いつも通り起きる。
部屋でぼーっとしていた僕は、
昨日のあの妖精を思い出していた。
言ってることは意味が分からないけれど、
いったい何だったんだろう。

(あなたには、生きる意味があるのよ)
あぁ、それを言われたんだ。

妖精に言われても、関係ないことですぐに変わるわけがない。
ただ、なぜか、気になる。

妖精って…
今まで笑うことも忘れていた、いや、
笑うことをやめていた僕が、薄っすら微笑んでいた。
その日からずっと妖精のことを考えていた。

今、どこにいるんだろう
また僕の前に現れるのかな
僕に何を言いたかったのかな
生きる意味って?教えてくれないの?

妖精は、僕の前に、あれから現れない。

そして、半年が経った。

続く

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