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【短編小説】あなたは猫じゃなかった…①

あの日の朝、空が微笑んでいた。それは、あなただった!

今日、学校が休みだからショッピングモールへ買い物へ
母と出かける私。
ルンルン気分で次のデートの服を選んでいる最中に、
「早く決めてよ。何回試着するのよ…これも買うの?」と、
少し怒っているお母さん。
私は、その言葉も耳に入らないくらい自由に服を選び、
買い物かごへ次から次へと入れていく。
服選びが終われば、次はオシャレなアクセサリーのお店に
行った。
母は、呆れた顔で私の後を追いながら付いてくる。
私は、18歳。高校3年生、楽観的で自由気ままで
悩まない性格、周りがパッと明るくなるくらいお調子者。

友達と好き放題に遊んで過ごした高校生活が
あと少しで終わる。
進学を選ばずに就職を誰よりも先に決めた。

私は、アクセサリーを買って、早く行きたい場所があった。
それもひとりで…
母が夜ご飯の買い物をしている間に、ショッピングモールに
入っているペットショップへ行った。そう、猫が大好き。

一緒に連れて帰ってあげれないのに、
いつも必ず猫を見に行く。
ひとりで猫を見ていると自分と同じように感じる。

お目当ての猫は、まだ今も居た。
「また会ったねぇ、まだ居たんだぁ、可愛いねぇ…」
目を垂らしながら話かける。
その猫は、チンチラシルバーの子供だった。
猫は、私をクリクリのまん丸な瞳で見ていた。

(な~んだ、また見に来ただけなの。
でもさぁ、嬉しかったよ)

その時、猫の心の声が聞こえた。

いつも聞こえなかったのに…びっくりしたけど、
通い続けると会話ができるのかと嬉しくなった私は、
「一緒に帰れないね、また来るよ 」と
猫に声をかけ手を振ってその場を笑顔で去った。

その後、夜ご飯を買いに行っている母を探しても
見つからず、諦めてペットショップの入口の近くに
あった椅子に座って携帯ゲームしながら待っていた。
その時、怖そうなお兄さんがペットショップへ入って
行くのを見かけた。
嫌な予感がして携帯ゲームを止めて
そっとペットショップを覗きに行った。
自動ドアが開いて近寄りすぎないように棚の隙間から
様子を伺っていると、

(あっ、あの子抱いてる!!)と心で叫んだ。

あのチンチラシルバーだった。
もしかして、居なくなっちゃうのかな。
急に寂しくなって立ち止まったまま見ていた。
あの子だけは、私の気持ちが分かる、分かってくれるから…
本当は、飼ってくれる人がいて嬉しいはずなのに、

居なくなることを受け入れられなくなっている
自分に気づいた。

とっさに、ペットショップを出て店の前で
お母さんに電話した。
「今どこ?猫がほしい…」
見ているだけでよかったのに、もう連れて帰りたくなった。
母「何言ってるの??買い物も終わったからもう帰るよ」と。
私「猫、ダメなの?」
母「ダメに決まってるでしょ。ご飯作らないとお父さん待ってるから早く駐車場まで来なさい」
私「帰りたくない、お願い、もうあの猫が居なくなるかもしれないの…」
母「何を意味の分からないこと言ってるの、いい加減にしなさい」
私「ここにずっといる、帰らない」
そのやり取りが何度も続いて、母は、電話を切ってしまった。

母は、私の前に現れたと同時に、あの怖そうなお兄さんが店から出てきた。
(あれ、猫と一緒じゃない…)
すぐに母の手を引っ張ってお店に入った。
私「お母さん!あの子、ほら、可愛いでしょ?!」
母「可愛いけど、簡単に飼えないわ…」
私「こっち見てる、あの子も私のこと好きなのよ」
母「何言ってるの?本間に諦めの悪い子やね…」と続く中で、

お店の人が
「この子は、大人しくて落ち着いていて可愛いですよ、
一度抱きますか~?」と、
私の体に寄せてきた。

私は、初恋をしたときのようにドキドキだった。
「こっち見てるよ…」って母に近づけたとき、
母の怖い目が優しくなっていくのを感じた瞬間、
母「分かった、一緒に連れて帰ろう」と言った。
私「え?本当?」
母「その代わり、最後までちゃんと自分で面倒みなさいね」

その言葉が後で身に染みることになるとは
現時点では思っていなかった。

私は大喜びをして、帰り道、
車の中でずっと膝の上に猫を入れている箱を
抱えて、大切に持っていた。
そして、一緒に暮らすことになった。

チンチラシルバーの子猫。

家に着いて、お父さんに見つからないように
そっと自分の部屋に行き、猫とずっと一緒に居た。
撫でると「にゃぁ~」って鳴く。

猫も嬉しそうに私の膝で寝てしまった。

続く。

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