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#223 日本画に影がない理由

タイトルや表紙の絵に引き寄せられるようにして,ふと手にして読んだ面白い本の一冊,「北斎になりすました女 葛飾応為伝」檀 乃歩也著(講談社) 楽しく読み終えました.書かれてあった内容の一部に,自分の”妄想”(想像)を付け加えたお話.

影がない

 鎌倉時代から江戸時代終わりころまで,日本画には影が意図的に描かれていなかったというエピソード,アラァッと思いました.影を描けなかったのではなく,敢えて描かなかったと(確かに,あれほどうまく書けるが方たちが,なぜに影を描かなかったのか⁈).初期のアニメと同じように,江戸時代の版画などは手間を減らすために,わざと手抜きをしていると単純に想像していたのですが,どうやら違うようでした.
 本文中の3ページほどにわたって書かれてあったお話を,私なりに解釈すると以下のようになります.(専門家ではないので,間違っている可能性があります.個人の想像です.)

屏風

 例えば,日本画がよく描かれた対象の一つが屏風(びょうぶ).「風を屏(ふせ)ぐ」ための風よけが屏風の始まりで,それがやがて,間仕切りや調度品として利用され始めたとのこと.襖(ふすま)も良いキャンパスの一つでしょうが,季節ごとに変えたり,持ち運んだりすることはできません.社会的地位の高い少数の人しか,そもそも襖が無かったことでしょう.屏風,扇子(せんす),巻物,どれも簡単にたたんで持ち運び・収納ができる日本の伝統的な美術工芸の画材の一つです.

照明・採光

 日本家屋の採光や夜間照明はどうだったのでしょうか?江戸時代に菜種油が室内でも安い値段で煙の少ない行燈(あんどん)が広く日本国内で普及し,江戸時代のヨーロッパ諸国に比べて一般庶民が比較的読み書きができるという高い識字率を達成できたようです.(識字率の向上には併せて,高温多湿と高い山の豊富な雪解け水などのおかげで製紙も盛んだったことが紙の入手の容易さにも関係しているとは思いますが,,,)
 江戸以前の身分の高い人たちの夜の社交と言えば,ヨーロッパのような舞踏会は無く,屋外での薪能(たきぎのう)でしょうか?室内を煌々と照らす照明があったとは考えにくいです.天窓はおそらくまだ江戸時代にはなかったのではないでしょうか? ガラス (ギヤマン)が輸入されるまでは,障子蔀(しとみ)などで採光するのが普通だったのでは.(雪が積もった翌日なら雪見障子は明るかったかも?)

間接照明

 直接照明が暗かった江戸時代の屋内では,その解決策には間接照明に頼らざる負えなかったと思います.光源は暗いので,それの反射器をたくさん用意して部屋全体を明るく感じさせる作戦です.

暗い絵が置ける明るい部屋@西洋

 したがって,室内に置くものは,自然と光をよく反射するもの,あるいは白っぽいものが良いことになります.西洋絵画の始まりはおそらく,宗教画と貴族・富豪の肖像画だと思います.(高い絵の具を使って,落ち穂を拾い集める農夫を描くなどは,かなり後になってからのことです.)西洋画はその目的から,ホンモノっぽく描く必要があります.ステンドグラスやガラスがはめ込まれた広い面積の窓や天窓から届く直接光に照らされる機会がありますので,余白はほどんどなくほとんどを漆黒で埋め尽くすことも可能です.
 例えば,オランダの国立美術館で実際にレンブラントの夜警を観たときの印象は,絵全体がとても暗いのですが,人物の光が当たった箇所と影が実に巧妙に描き分けられている大作だと思いました.日本でこんな暗い絵を置いたら部屋全体がとても暗く感じます.(そもそも,あの大きな絵を飾る天井高さを,当時の木造建築で確保するのは大変だと思いますが,,,)

影無し・余白・金箔@日本

江戸時代までの室内を明るくする作戦:
  ・影を描かずに絵全体を明るく
  ・余白をたくさん”わざと”残して,白い紙で光を反射する技(わざ)
  ・依頼主がお金持ちなら,金箔や螺鈿(らでん)など反射材料を使用

 琳派の技巧は,現代ではギラギラの金持ち丸出しで下品と思う人もいるかもしれませんが(私はワビ・サビも好きですが琳派も好きです),部屋を明るく感じさせる間接照明装置としては,とても優秀です.薄暗い日本家屋内,特に夜間のロウソクの灯明などに照らされるとき,仏像のように光と影がチラチラとハタメキ,その動きは日本人の好きな幽玄な世界へいざなったことだろうと想像します.

 「北斎になりすました女 葛飾応為伝」の中では,畳敷きの室内では金箔は同じ黄色の同系色で目立たないと書かれてあり,”アラマァ一ッ,1本取られた”と思いました.明るさだけではなく,建物の素材を忘れていました.木造家屋の畳,天井,らんま,などなど,イ草や杉板などなど色合いからすると金箔は,妙に調和しているだろうと思います.時々,金箔をはりなおしたお寺に見学に行くと,金箔がドギツイと思うときがありますが,京都などの古いお寺では程よい煤などの汚れや,部分的な剥がれで,畳や壁と色合いが良い味わいを”奏でて”くれています.

いつかは

葛飾応為:吉原格子先之図 を観に行きたいと思いながら,本を読み終えました.

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(※ 書籍の表紙絵は,数点しか確認されていない葛飾応為の浮世絵の一部)