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きしねんりょのひる

「大丈夫。今は、死にたいと思ってない。今は、今はね。でも、たぶん大丈夫。死なない。大丈夫」


ぼくの言い分をあんまり信用していないパートナーを見送ったのは、昨日の朝。一昨日の夜、はだしの上、まっすぐ歩けず、見知らぬお姉さんに保護されかけたので、説得力も何もあったものじゃない。


希死念慮。どうしようもなく死んでしまいたい気持ち。ぼくはふり回され、自分自身を傷付けた。そして、パートナーも。最低なことをさんざん言ったと思うんだけど、それでもぼくを信じてくれ、心配までしてくれるパートナー。だからこそ、その優しさに甘えるわけにはいかないのに。


本当に、おさまったと思ったんだ。でも、パートナーがいなくなってしばらくすると、また衝動が湧き上がってきた。自分を止める人がいない今、必死でこらえる。吐き気がした。どうして、今日も。次の日まで引きずることは、あんまりなかったのに。


ぼくは、ブランケットを頭からかぶり、枕に顔をうずめた。目を覚ましてから、2時間も経っていなかった。でも、神経はずいぶん擦り減っていた。気付けば、ぼくはまた眠っていた。


15時くらいに、目が覚めた。腹は空いていた。でも、食欲はない。変わらず、死にたかった。けれど、実行に移す気力は残っていなかった。体力は多少残っていたから、とにかく外へ出た。


人気のないベンチで、読みかけの本を開く。野外とはいえ、日陰なのでそれなりに涼しい。静謐で穏やかなことばの上で、「死にたい、死にたい」が明滅する。ぼくに注意を払う人はいない。


1、2時間で本は読み終わった。読むものがなくなった。辺り全てが翳っていた。まだ死にたかった。でも。「帰ろう」そう思えた。


パートナーは、まだ帰っていない。あと数時間は一人だ。いくらでも死ねる。けれど。ぼくはすっかり疲れていた。死ぬ・死なないは、どうでもいいことになっていた。


大丈夫。まだ生きている。今日も死にたかったけど、死のうとはしなかった。だから、大丈夫。大丈夫。ぼくは無心で、洗濯物を片付けた。


一昨日。昨日。そして、今日。今日は、どうなんだろう。特に、死にたいとは思っていないけど。でも、昨日もそうだった。朝は大丈夫だったのに。気付けば。薬を処方通りに飲んでも、治らないもの。生きるのが苦しい。死にたくて苦しい。どうか。ぼくは願う。どうか、今日は「普通に」生きることができますように。

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