キース・ジャレットの『My Wild Irish Rose』を、ふと、思い出した。のは、そのときに、なにか思い出すものがあったからだろうか。もちろん、「経験したことのないもの」を。
アルネは、肩をすくめながら、くすくす笑った。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
ぼくらは、同時に肩をすくめた。
『私の愛しいバラ』。野に咲いているのだから――持ち帰らなかったのだから、遠目に眺めていたことも、ありうるな。
あたたまった牛乳が、甘い匂いを立ち上らせるのを嗅いで、そんなことを思った。
架空の思い出に、『私の愛しいバラ』に浸るのは、ここまで。ぼくは、目の前のかわいい人のために、おかわりを淹れ始めた。