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寒いのは、好きじゃないけれど(今朝は、白湯)

頭痛で、目が覚めた。


外はまだ暗いけど、少し明るい。


雪のせいだ。


「おかげ」とは、言わない。


どんなに頭痛がしても、雨は嫌いになれないのに。


雪が好きじゃなくなったのは、いつからだろう。


たぶん、本当に、閉じ込められてしまうからだ。


どこにも行けない。


逃げられない。


そんな気持ちでいっぱいになって、ぼくはふさぎ込む。

――おはよう。

――……おはよう、アルネ。

――ぼんやりしているのに、していない。あいまいな顔。

――頭が痛いんだよ。

――頭が痛いと、あいまいな顔になるの?

――どうだろう……。とりあえず、痛み止めは飲んだよ。

アルネの方は、ぼんやりしているような、あいまいじゃない顔で、ぼくを見ている。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――……んん。効いてきた、かな。

――そうね。少し、ぼんやりした顔になってきた。

――そこは、「ぼんやりしていない顔」じゃないんだ。

――きみが、ぼんやりしていないなんて、ほとんどないでしょう。

――……まあ、そうだね。

――雪、どれくらい積もったかしら。

――わからない。積もってはいるけど。このメガネ、度が合ってないんだ。

――視界まで、ぼんやりしているのね。

――わざと直してないわけじゃないんだけどね。……ええと、今朝は、何が飲みたい?

――白湯がいいわ。まだ、コーヒーは飲めないでしょう。薬を飲んだばかりだから。

――……じゃあ、じっくりじっくりあたためたものを。

べつに、アルネの分だけでも、コーヒーを淹れてもよかったけど。


気を遣ってくれたんだろうか。


どうかな。


どんなに寒くても、火を点ければ、ふつふつと泡が立ち上る、やかんの中。


ぼくは、湯気が消えるか消えないかくらいのところで、軽く手をかざす。


あたたかい。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……熱い。

――気を付けて。……ああ、あたたまるね。

――今日も、ずいぶん冷えるかしら。

――まだ、雪が降ってるからね。

――この部屋も、

――?

――床が冷たいわ。

――それは、どうしようもないな……。冷たい空気って、下にたまるらしいし。

――でも、嫌いじゃないんでしょう。

――……よく知ってるね。

――私は、きみの中にいるんだもの。

――……。

――寒いのは嫌い。でも、冷たいのは好き。

――うん。……うん。「冷たい」は、「きれい」と同じ気がして。

――それだけは、昔から変わらないのね。

――よく知ってるね。……知っててくれて、ありがとう。

――ありがとう、なのね。

――昔から見守ってくれてたことが、嬉しいんだ。

そう言うと、アルネは、少し笑った。


雪が降っても、そうじゃなくても、少しずつ、外は明るくなる。


ぼんやりした頭でも、それが幸せなことだと、ぼくには思えた。

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