Photo by michicusa 呼吸は少し、しやすくなったけど(今朝は、カフェオレ) 6 相地 2023年5月25日 07:00 ――桃の匂い?――わ。声をかけられて、はじめて、すぐそばにいるアルネに気付いた。ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。今朝のぼくは、一段とぼんやりしているらしい。――なんの匂い?――桃で合ってるよ。新しいVAPE。――少し前にも、買ってなかった? 新しいの。――……。――……。――口に合わなかったんだ。まずいわけじゃないけど、しっくり来なくて。――君は、気になり出すと、止まらないものね。――まあ……うん。買わないよ、当分は。――それが切れるまで。――……。――怒っているわけじゃないのよ。私も、気になり出すと、止まらないのよ。――知ってるよ。――だから、今朝は落ち着くものがいいわ。――落ち着く……ホットミルク……は、この前も淹れたな。カフェオレとか、どうだろう。――それがいいわ。まだ、すずしい朝に、湯を沸かす。牛乳をあたためる。それは、どこか祈りのように思えた。どうしてそう思うのか、わからないけど。――はい、どうぞ。――ありがとう。……うん、丁度いい温度。――よかった。……うん、おいしいね。――少し、桃の匂いがする。――え。VAPEは、さっきしまったはずだけど。――冗談よ。――……。――それは、すっかり君の生活の一部になったのね。――そうだね。いいのか悪いのか、わからないけど。――呼吸は、しやすくなったんでしょう。――まあ……これのおかげで、意識的に息を吸って吐いて、ってするようになったから。いい、のかもしれない。――代わりに、甘い匂いはするようになったけど。君から。――そんなに匂う?――ううん。私が、そんな気がするだけ。――それは、匂ってるんじゃないだろうか……。――私は、君の一部だからよ。たぶんね。――……。――さっきも言ったけど、怒ってないわ。――知ってるよ。でも、それはそれで、アルネに申し訳ないな。――そんなことないわ。悪い気はしないもの。――……。――どうして、少し悲しい顔をするの?――んん……だんだん、VAPEが手放せなくなってるような気がして。依存性はないはずだけど。呼吸がしやすくなる、という名目で、これを握りしめていいものなのかな。――体に悪くないなら、いいじゃない。――そんなものかな。――そんなものよ。――まあ……今のところは大丈夫かな。カフェオレもおいしく飲めるし。――私も。ねえ、もう一杯頂戴。――わかった。……ありがとう、アルネ。アルネからマグカップを受け取ったとき、ふと、桃の匂いが鼻をかすめた。気がした。それはたぶん、本当に気のせいだろうけど。まあ、大丈夫か。いろいろと。そう、新たにあたため始めた牛乳に思った。 ダウンロード copy この記事が参加している募集 とは 57,789件 #日記 #エッセイ #毎日更新 #とは #朝 #おはよう #通勤 #私小説 #通学 #まっとうに生きるって大変だ #1000字前後 #cider #それでも僕は生きていく 6 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。 記事をサポート