一人になりたいぼくは、水を吸って
一人になりたいときが、増えたように思う。
一人になりたいときと、一人になりたくないときが、ぼくには交互に訪れる。
それにしても、以前にもまして、増えた気がする。
ぼくは、なんというか、情報処理能力が低い。
書店の棚に並ぶタイトル、SNSの噂話、目の前でくり広げられる会話。
そんなものを、たくさん吸収した翌日は、寝込んでしまう。
一人になりたい、のも本当で、一人にならざるをえない、のも本当。
とにかく、ここしばらく、ぼくは一人でいた。
VAPE(使い捨て)シーシャを、朝と夜、一日に二度吸うようになった。
ベランダで外気に当たるのと、そのときの手持ちぶさたに、丁度いいのだった。
それに、なんだか性に合っていた。
『Muscat』と刻印されているものの、味はしない。ただ、吐き出される水蒸気は、その香りがするので、味までしたように錯覚する。
朝は、VAPEを片手に、メモ帳を開いて、詩(のようなもの)を書き付けていた。
言葉に詰まる度、VAPEを吸って、ぼんやりして、ふいにこぼれ出たものを、拾い上げてまた書き付ける。
VAPEは、なんというか、いい具合にぼんやりするのにも、一役買っていた。
夜は、膝の上にあるのは、メモ帳じゃなくポメラになる。その日の終わりに差しかかった頭の中がどうなっているか、出しておく必要があった。ぼくのために。よく眠れるように。
室内は、間接照明しか点けておらず、もちろんベランダに電灯はないので、手元のポメラだけが、ぼくにぼんやりした灯りを投げかけていた。
VAPEの、吸引していることを示すランプが、暗いとよくわかる。
引きこもっているのに、ベランダに出るだけで、ずいぶん気分は違うものだと、つくづく思う。わざわざ、外出しなくてもいいほど。
朝も、夜も。ぼくは、ますます一人になるようだった。
ぼくも、そうなれるだろうか。
今は、一人になりたくてしょうがないけど、また、誰かに会いたいと。
その日読んだ、『流星シネマ』に思った。
眠くなって、後ろに倒れ込み、固いフローリングの上で、VAPEを吸う。
水と似ていて水じゃないそれは、仰向けで吸っても、むせることはなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。