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ふつふつと、浮き足立つわけでもなく、(今朝は、白湯)

ずっと、怒っている気がする。


もちろん、ぼくが。


何に?


誰に?


わからないけど。


突然雨が降って、また突然晴れたりするせいだろうか。


ぼくの中で、何かが暴れている。

――すごい顔ね。

――……おはよう、アルネ。

――疲れているの?

――疲れ……まあ、それはそうか。

――?

――怒って見えない?

――いいえ。

――じゃあ、いいか。

アルネは、腑に落ちない顔をして、首をかしげた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――怒っているの?

――んん……。怒ってる、ような気がして。怒るようなことは、何もないはずなんだけど。

――それは、君が、常に怒っているのとは、べつの話?

――……別件ですね。たしかに、どれだけ楽しかったり悲しかったりしても、昔のことは、しがみついて離れないから……じゃなくて。いや、うん、調子が悪いのかな。

――あるいは、疲れているのか。

――強調するね。……というか、そんなにすごい顔してるのかな、ぼくは。

――ええ、とっても。

――……。

――そうね、あたたかいものを飲んだらどうかしら。

――……アルネが飲みたい?

――そう。

――そっか。じゃあ……あ、

――?

――……今朝はコーヒーじゃなくて、白湯にしようか。うん。

鉄瓶に水を入れる。


沸かす。


湯呑に注いだあとは、鉄瓶の水気を取る。


……うん。これくらいは、出来る。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……うん、おいしいわ。

――よかった。……あたたかくて、安心する。

――手の震えが止まるくらい?

――え。

――……。

――それは……んん、あんまり、みたい。朝って、どうしてなのか、震えが強くなる。……コーヒーを淹れるのは、むずかしいかな、と思うくらい。

――もしくは、出所のわからない怒りのせいかもしれない。

――まあ、うん。一応、抗不安薬は飲んでおいたけど。

――君は、いつも不安だし、怒ってもいるのね。

――だから、体もいつもおかしい。……本当、どうしようもない。

――そういえば、疲れは?

――すごく気にしてくれるね……。まあ、疲れてる、か。昨日も、いくつか大きめのものを処分したりしたし。

――この部屋も、だいぶすっきりしたわ。

――新しい部屋は、すぐにちらかるだろうけどね。荷物で。

――楽しみ?

――……とにかく、早く、何事もなく、終わってほしい。

――ええ、でも、今日は休んだらどうかしら?

――そうだね。準備は、前倒しで進めているんだし。……怒りも、なんとか柔らかくなればいいんだけど。

ぼくは、震えを抑え込もうと、こぶしを握ってみた。


震えは、より強くなる。


力を抜いてみた。


少しだけ、ましになる。


ぼくは、不安に効け、と思って、白湯を飲み干した。

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