エミリー・ブレントは(たぶん)そうじゃなかった
指先が痛かった。
一昨日、一日中、家具を組み立てていたから。一人で。
右の、人さし指と中指の先が、すりむいたような、皮膚が固くなっているような、よくわからない感じになっている。
今はもう、痛みはなくなっているけど、見た目は少しだけ痛々しい。
だから、説明書に軍手を使え、って書いてあるのか。
それ以前に、一人でするものじゃないと思うけど。
昨日は、来客が一人もいなかった。よかった。
一昨日は、二人、というか、二組来た。
最初は、郵便局員。
ただのハガキだったけど、郵便局の方に転居届を出していなかったので、住所確認に来たらしい。申し訳ない。
それから、1時間もしない内に、また呼び鈴が鳴る。
引っ越してから、修繕のための業者しか来なかったから、油断していた。
とてもにこやかなおばあさんが二人、小さな肩かけ鞄にちらしをつめ込んでいた。
ぼくは、ああしまった、と思った。
当然、ちらしを押し付けられ、なんか、勧誘が始まる。
聖書を読んだことがあるか、と訊かれ、ないと応えれば話が長くなりそうだから、あると応えた。
が、それはそれで、仲間かもしれないと思われ、より質問が続くのだった。面倒だ。
宗教勧誘に遭遇するのははじめてではないけど、チェーンが鬱陶しいのか(もちろん、かけていた。)出て来てほしいのか、ずっと扉に手をかけていた。なんなら、チェーンが限界まで引っ張られた。
そこまでするか、と怒りより困惑が勝った。
ぼくは、今電話中なのだと、戻らなければいけないと、見え透いた嘘をついて、さっさと帰ってもらった。
手の中にねじこまれたちらしは、すぐに捨てた。
一人になってようやく、そういえば、この家には覗き窓がないのか、と思った。
宗教、それ自体は、すばらしいものだと思う。ぼく自身は、なにも信仰していないとはいえ。
ただ、信仰は、他人に押し付けるものじゃないと思う。神でも仏でも、信じている人は、もうそうしている。
信仰でも正義でも、自分が正しいと信じて疑わない人間。他人に強要する人間。大嫌いだ。
そういえば、覗き窓があっても、無意味か。扉は、全体的にすりガラスになっているから、仮にあったところで、覗きに行った時点で居留守がバレる。
どうしたらいいんだ、防犯カメラとか?
新しい家での、最初の1週間は、色々とノイズがひどかった。
ようやく、静かになったと思ったのに。
昨日は、穏やかに過ごせた。よかった。
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