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センリョウと、つかの間の(今朝は、ホットコーヒー)

今日の日付に、少しばかり、目を見張った。


あれを終わらせて、これを終わらせて。が、ほとんど進んでいないことに気付く。とはいえ、大晦日までには終わるだろう。それに、新年に間に合わなかったとして、どうということもない。


けれど、身綺麗にしておきたい気持ちはある。

――この実は何?

――……。

――ねえ、

――……あ、アルネ。おはよう。

――この実、

――ああ、センリョウ、だったかな。

――センリョウ? 赤じゃなかったかしら。

――うん。黄色は珍しいんだって。かわいいでしょう。

――お正月のために?

――そういうわけじゃ。かわいいから、ってだけ。そしたら、たまたま縁起物だっただけ。

だんだん回ってきた口に、アルネはくすくす笑う。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――まだ眠り足りない、って顔ね。

――そうかな。……まあ、疲れが残ってる感じはあるかな。

――そんなに?

――んん……昨日、大掃除してたから。というか、片付けか。まだ、掃除するまでに至ってないよ。

――君は、ものが多そうだものね。

――否定できないな。

――それに、休憩もしない。

――……。

――今朝くらいは、一緒にお茶してくれる?

――もちろん。朝くらいは、ゆっくりしたいしね。何が飲みたい?

――コーヒー。

――わかった。

どれだけ寝ぼけていても、ミルが豆を挽くときの振動で、少しずつ目が覚めてくる。同時に、薫りが立ち上って。


身も心も、少し余裕が出てきた気がする。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……うん、おいしいわ。

――よかった。……うん……うん、いいんじゃないかな。

――今日は、一日中大掃除?

――んん……そうしたいところだけど、体力が保つ気がしないな。まあ、出かけたりもするかな。できれば、だけど。……年末までに終わるかな。

――終わらせるでしょう、君は。

――まあ……なんとかする、つもりではいるけど。

――休憩癖が付けばね。

――……。

――キリのいいところまで進めないと、気が済まないんでしょう。

――うん……その、キリのいいところが、だいぶ遠いんだけどね。

――ふふ。

――?

――疲れて、眠くなったら眠って、そうしたら、丁度いい休憩になりそうね。

――ああ……たしかに。

――そうでもしないと、休まないでしょう君は。

――……気を付けます。

――とりあえず、今は。

――?

――センリョウを買ったときのこと、教えて。

――……うん、いいよ。

あれを終わらせて、これを終わらせて、今日中にあれを、明日中にはこれを。上手くできるだろうか。上手くできなくても、いいか。


ぼくは、少し軽くなった体で、センリョウとの初対面を思い出していた。

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