見出し画像

「現実のぼくはどうなるんだろうって。」(今朝は、アイスコーヒー)

――おはよう、アルネ。

――おはよう。……今朝は、寝ぼすけさんじゃないのね。

――よく眠れたよ。

アルネは、ふっと息をつくように笑った。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――良い夢を見れたの?

――ううん、まったく。どんな夢だったのか、忘れたけど。

――忘れたのに、悪い夢だったのは覚えてるの?

――なにを感じたのかは、忘れないもんだよ。

――ふうん。

――……ええと、今朝はなにがいい?

――冷たいコーヒー。

――はいはい。

温かいコーヒーのときより、ほんの少し豆を多くする。挽いて、淹れて、温かいのができたら、今度は氷の入ったグラスに注ぐ。マドラーでしっかり混ぜて。

――はい、どうぞ。

――んん、冷たい。

――冷たいコーヒーだからね。

――今朝も暑いのね。

――そうだね。雲一つないよ。

――うれしそうじゃないのね。

――暑いのは苦手だからね。PCと同じ。

――人間なのに?

――はは。

笑いながら、「もっと濃いめに淹れた方がよかったかな」と薄めのアイスコーヒーを思う。

――訊いてもいい?

――なに? アルネ。

――私、夢の中に出てきたことある?

――アルネが? ぼくの夢に?

――そう。

――ないよ。あったら、覚えてるはずだから。

――……。

――あーっと、たぶん出てこない方がいいよ。ぼくの夢、ろくでもないから。危ないよ。

――どうして「ろくでもない」の?

――なにかに追いかけられたり。ひどいときは、ころされそうになったり。散々だよ。アルネまで、そんな目に遭わせたくないよ。

――毎日そうなの?

――たぶん。詳しいことは覚えてないけど。

――大変なのね。

――……時々、怖くなるんだ。夢の中だけどね。もしも追いつかれたり、ころされたりしたら、現実のぼくはどうなるんだろうって。

――現実でも、しんじゃうってこと?

――わからないけどね。

――じゃあ、助けに行く。

――?

――追いつかれそうになったり、ころされそうになったら、そのとき、夢の中まで助けに行く。

――……アルネも危ないよ。

――大丈夫。あなたの夢だもの。私は危険な目に遭わないわ。

――ぼくは遭ってるけど……。まあ、アルネなら大丈夫か。

――だから、そのときは名前を呼んで。

――覚えてたらね。

――必ずよ。

――うん。必ず。

頼もしいヒーローができた。いや、ヒロインかな。どっちでもいいか。祝杯の代わりにおかわりを淹れようと、空のグラスを受け取った。

この記事が参加している募集

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。