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冬らしい春の日の後に、

昨日は、春分の日。


らしかった。


春を祝う日。


らしかった。


昨日は、雪が降っていた。


ここ最近でも、冬らしい日。


ぼくは、頭が痛かった。


今も。

――痛い……。

――おはよう。

――アルネ。おはよう。

――痛み止め、飲まないの?

――昨日飲んだから、今日も飲むのは……。

アルネは、ぼくの痛む頭を、そっと撫でた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――少し前は、あたたかかったもの。それが、突然寒くなったものね。

――うん。まあ、ここしばらくは、毎日痛いけど。……余計に。

――寒さが緩めば、痛みも和らぐかしら。

――え、できるの?

――まさか。

――……。

――でも、あたたかい方が、痛くないんでしょう。

――うん。それに、気持ちがあまり沈まないで済む。

――まあ、どうにもならないことを論じても、どうしようもないわね。……鉄瓶、使わせてもらうわね。

――白湯、作ってくれるの?

――沸かすだけだしね。それに、頭痛にコーヒーはだめなんでしょう。

――残念ながら。

――じゃあ、少し待っていて。

鉄瓶の蓋をずらす音。


沸騰するかしないかくらいの、注ぎ口から鳴るシューっという音。


白湯が出来上がっていく音に、耳をすまして。


ぼくは、痛みと向き合わないようにする。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……ああ、あたたかいね。おいしい。

――よかった。……うん、やさしい味だわ。

――……。

――どうしたの?

――いや……痛み止め、どうしようかなって。

――飲まないんじゃなかったの?

――そうなんだけど……痛みのせいで、なにもできなくなるのも、ちょっと。

――そうね……飲み続けて、何日目?

――ええと……どうだっけ。一昨日は、飲んでないと思う。

――とりあえず、連日じゃないなら、いいんじゃないかしら。いくら痛いといっても、1週間以上続けて飲むとは思えないけど。

――そうだったっけ。

――ええ。

――……まあ、出店も近いしね。珈琲屋の。今日も準備しないと。それで、明日は少し休もうかな。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……これで、少しは落ち着くかな。

――寒くなったんだもの。きみのせいじゃないのよ。

――うん。……大丈夫。体のことで、自分を責めることは、少なくなったから。

――なくなってはいないのね。

――まあ……。

――なくならなくても、ここにいるわ、私は。

――……うん。ありがとう、アルネ。

今日の天気も、怪しそうだ。


つまり、荒れそうで、ぼくの具合もすぐれないだろう、という。


でも、やるべきことも、やりたいこともある。


痛みは、少しずつ引いてきた。


あたたまった体と、それから頭で、できることを考えた。

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