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「知りたくなかったこと」との遭遇。

ぼくは、知らないことがあまりにも多くて。知りたくないことは、さらに。知りたくなかったことは……わからない。


引きこもりたくないぼくは、なるべく外へ出る。外へ出ると、良いこともある。悪いこともある。悪いことは大抵、他人がもたらす。たとえ、ぼくが何もしていなくても。会話、会話、会話。それは、悪意に塗り潰されていたり、質の悪い善意にまみれていたり。なので、イヤホンが手放せないぼく。


アイスコーヒーがおいしかった記憶。昨日、最近知り合った人の出店へ行ってきた。蒸し暑い中、さっぱりしたコーヒーが心地いい。


ふと気付くと、耳障りな声がした。知人が、妙なおばさんにからまれている。


「あなた、予防接種は受けたの?」

「まだ受けてません」

「それが正解よ。アメリカではね……」


それから雲行きは怪しくなり、「私のグループ(何百人も加入しているとか。詳細不明。)に入りなさい」だの、話は変わり「現状に満足しちゃだめ」「夢は大きく持ちなさい」「もっと集客のことを考えて……」思い出すだけで、気分が悪くなる。


集客うんぬんなんて、あんたが言えることじゃないだろう。あんたのせいで、知人の出店に他のお客さんが近寄りがたくなっている。ぼくは帰り際、無理矢理会話を遮って、知人に声をかけた。わかりやすくおばさんを無視して。


けれど、ぼくの真意は伝わらなかったみたいだ。おばさんは、すっと後ろに下がっただけだった。案の定、ぼくがその場を後にすると、また知人にからみ始めた。さっさと帰れよ。善意で構成されているおばさんは、一人だけ幸福そうだった。


予防接種の有無を含め、人によって色んな考えがある。それは充分わかる。ただ、他人に押し付けるな。良かれと思って助言しているんだろうが、端から見れば、心優しい(笑)自分に酔っているだけだ。


その証拠に、あんたは周りが見えていなかっただろう。商売を邪魔しておいて、なにが「もっと集客のことを考えて」だ。あんたがその場を離れるだけで、お客さんはもっと集まっていたよ。


おばさんみたいな人が存在することは、SNSで知っていたけど。実物を見たのは初めてだった。こんな人が一人や二人じゃないだろうことに、実感を伴って、ぼくはますます気持ち悪くなる。知りたくなかったことが、また増えた。『知らなければいけないこと』だったとか、思いたくない。


帰宅したぼくは、インスタで知人の宣伝をしておいた。ぼくの力なんて微々たるものだけど、『知りたくなかったこと』が少しでも和らげばいいと思った。

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