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火葬と、あたためすぎたフォンダンショコラ

なぜか、近ごろふいに思い出すものがある。


レンジでチンしたフォンダンショコラ。


たしか、祖母の葬儀だった。


(もしくは、祖父だったのかもしれない。)


葬儀場で、火葬が終わるのを待っている間。


たしか、仕出しの弁当が用意される前。


ロビー? でソファに体を沈ませているところに。


「なにか食べる?」と言われた。


(だれに言われたのかは、覚えているけど、忘れたことにしている。)


こういうところのメニューは、割高だ。


ぼくは、フォンダンショコラにした。


フォークを入れなくても、それが既製品であることは、なんとなくわかった。


(だれもが利用するわけじゃないそこに、一から手作りしたものがあるはずがない。)


レンジを使ったにしても熱すぎて、食感もぽそぽそして、おいしくなかった。


のを、ずっと忘れていたのに、ここしばらく、ときどき思い出すのだった。

――どうしてだろう。

――最近、フォンダンショコラをいただいた、とか。

――食べてないよ。

――知っているわ。

アルネも、小さく首をかしげた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――心当たり、なくはないよ。

――なんだ、あるの?

――おじいちゃんでも、おばあちゃんでもないと思うけど……ときどき、気配を感じることがあって。

――気配?

――見えるわけじゃないし、それに「ときどき」といっても、年に何回かのことだよ。いつもは、盆の少し前に感じることがあったけど……。

――最近もあったのね。

――うん。たしか、1週間くらい前……もう少し前かな。台所にいるときに、ぼくの斜め後ろ……浴室の辺りかな。だれか、立っている気がして。気付いたときには、気配はなくなってたけど。あと、他の日にもあったな。すぐ背後にいるな、とか。

――それが、葬儀場のおやつと関係があるの?

――あとで知ったけど、気配を感じたのは、彼岸入りの少し前だったんだ。

――ああ。それで、盆のことを思い出したのね。

――うん。……ぼくは、おじいちゃんでもおばあちゃんでもないと、思ってるけど。でも、二人が亡くなったときのこと……じゃないや。立ち会ってないから。葬儀のことを思い出すんだ。

――それが、熱すぎるフォンダンショコラに集約されているのね。

――……どうしてだろうね。

――さあ。そのときの出来事が、味覚に強く結びついた、とか。

――……。

――もう、気配は感じないの?

――そうだね。彼岸明けしても、特には。

――きっとまた、思い出さなくなるわ。少なくとも、今年のお盆までは。

――そうだといいけどね。……毎日悲しい気持ちにはなりたくないから。

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