見出し画像

ぼくと憂鬱と水平線

ずっとフードをかぶっていた。


パーカーを着てから、ずっと。


自宅に帰っても、ずっと。


ぼくは、内へ内へと籠もっていた。


ずっと、泣き出しそうだった。


泣き出しそう、を保ったまま、泣き出せずにいた。


桜が視界に入ると、怖い。


小さな顔が、揃ってぼくを睨んでいる。


ように、見える。


両手が、小刻みに震えている。


それは、いつものこと。


(ぼくには見えないけれど、まぶたも震えているらしい。)


自律神経がおかしいから。


今は、「ストレス」と一言で片付けられる何かに、苛まれている。


誰にも頼れないときがある。


誰に頼ればいいのかわからないときが。


そもそも、誰かを頼ってしかるべき問題なのか。


何もわからずにいる。


ぼくは、どうしようもなくなると、電車に1時間揺られた先にあるカフェを目指す。


自宅のある○○市から、住所が変わるくらいしっかり離れられるのと、経営しているのが友人だから、彼らの顔を見に。


友人とはいえ、ぼくは客の身だ。


店に着いたときには、ぼく以外の客は誰もいなかったとはいえ(後に、続々とやって来たのだけど。)ふと、愚痴をこぼしてしまったらどうしよう、と思った。それをきっかけに、ぼくの話が止まらなくなったら。


友人のカフェには、大きな窓があって、そこから海が見える。


水平線以外には、何もない景色。


目の前に何もないことが、いつも、ぼくに安心をもたらしてくれる。


それは、昨日も同じだった。


限界が近いくらいに沈んでいたのに、思い出そうと思えばすぐに思い出せる景色なのに、目の前にしてみると、たじろいでしまうほど、ぼくは救われた気がした。


本も読めた。目が文字を追うだけじゃなく。内容も、頭に入ってくる。


なんだか、景色一つで、ずいぶん大げさなようだけど。


その、景色一つに、大きな力があることを、このとき思い知った。


友人と少し話せたのも、救いになった。


ぼくが抱えている問題には、一切触れていない。


それでも、まったく関係のない話題でも、心が軽くなるのだ、と思った。


一昨日、パートナーに「自分の機嫌取りは自分で出来るよ。大丈夫」と見栄を切った。


それが嘘じゃなくなったことが、嬉しかった。


帰りの電車に乗る前に、仕事終わりのパートナーから連絡が来た。


ぼくは、「ぼくはもう大丈夫」と伝えた。


すぐにまた、大丈夫じゃなくなるとしても。


今のぼくは、ひとまずは。

この記事が参加している募集

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。