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「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「世界はきっと僕の味方じゃないから」


世界は味方じゃない。味方してくれない。世界は優しくないから。でも、「じゃない」で句読点を打つのではなく、「から」と続き、その先のことばを予感させる。ぼくはそれを、とても優しいと思った。


SNSには、善意がある。わかりやすい悪意もある。本人は善意と思っていても、他人に押し付けることで悪意に変質するものもある(本人はそれが善意だと信じたまま)。なにを言ってもいいのだけど、なんでも言っていいわけじゃない。同じようで、違うのだ。


だからこそ、ぼくは時々SNSが苦手になる。フォロワーさんはさておき、フォロワーさんじゃない、よく知らない誰かのツイートが流れてくることで。本人はよかれと思っているのかもしれないけど。でも。


みずいろさん(もしくは水色爽さん)は、フォロワーさんの一人だ。人によっては発言しにくいことも(おそらく、慎重に)丁寧に発信してくれる。


(ここで言う「発言しにくい」は、「これを言ったら、ものすごくダメ出しされるんじゃないか」「フォロワーさんの気分を害するんじゃないか」と気後れすることだ。僕にはよくそういうことがある。)


でも、みずいろさんのことばは、(全てではないにしろ)誰かへ届くように発言している。それ自体は、めずらしいことではない。けれど、140字以内という制限の中で、あらゆることを丁寧に語っているのだった。みずいろさんにも、厳しい現実はあるだろう。それでも、そのことばは見る人にとって、どこまでも優しいのだった。


だから、みずいろさんが本を出すと聞いたときは、単純に嬉しかった。140字以内のことばも、もちろんすてきなのだけど、その枠を越えて(収録されているのは、エッセイに始まり、詩や漫画など。)さまざまな形でみずいろさんの優しさに触れられることが、嬉しかったのだ。


この本を読んでいると、苦しくなることもある。どうしても、自分自身に重ねてしまうから。もしかしたら、これはよくない読み方なのかもしれない。でも、ありきたりかもしれないけど、「そうか、ひとりじゃないのか」と思えることは――そう思わせてくれることは、やっぱりすごいことじゃないかと思った。


「世界はきっと僕の味方じゃないから」


「から」に続くことばは、わからない。でもぼくは、「世界は味方じゃないから、この本が味方になる」そう言っているように思えた。

10/6更新

世界はきっと僕の味方じゃないから - 水色爽(2021年)

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