少しずつ、上向きになる、そんな日を、
桜を見に行った。
ものすごく、ではないけれど、混雑はしていた。
公園の駐車場が、満車になるくらいには。
でも、パートナーと、ベビーカステラを片手に回れるくらいには、ゆっくり見ることができた。
桜は、まだ満開じゃなかった。
調べたけど、三分咲き? くらい。
でも、急に雨が降って、散ってしまうことも珍しくない。
「来れてよかった」
パートナーは笑った。
とても穏やかな時間だと思った。
また、満開じゃなくても、七分咲きくらいに、見に行きたいと思った。
夜の、ライトアップも見てみたいけど、どうだろう。
にぎやかすぎるのは、少し苦手だから。
まあ、いいか。
桜を見る前に、不動産に契約書等を持って行った。
これで、大家さんに確認してもらって、なにも問題がなければ、ぼくらは、もうすぐ新しい家に住むことになる。
アパートじゃなく、戸建て。
今のアパートを、ほんの少し広くしたくらいの、決して大きな家ではないけれど。たぶん、ぼくら二人には充分だ。
いつもは、不安が勝っているけど。
昨日は、楽しみな気持ちでいられた。
いい天気だったからかな。
それに、桜も見られた。
パートナーも、いつにもまして、にこにこしていた気がする。
嬉しい。
朝は、散々だった。
というより、昨日の夜から。
なぜなのか、体がひどく冷えてしまって、眠れなかった。
それで、朝を迎えて、ようやく二度寝できたのだけど。
また、ひどい夢を見てしまった。
また、まただ。
悪夢を見るのは、今に始まったことじゃない。
それでも、最近は、悪夢として、質が上がっている気がする。
まったくうれしくない。
だから、昼前に目を覚ましたとき、ぼくは自然と頭を抱えていた。
早く、忘れてしまえ、あんなもの。
(今までなら、どんな悪夢でも、すぐに忘れていたのだけど。近ごろの夢は、なかなか頭にこびりついて離れない。)
だから、重たい体を引きずって、陽射しを浴びた。
世界は美しい、と言うつもりはないけれど。
少なくとも、現実の方がましだ、と思い込むように。
(昔は、まったくの逆だったのに。)
それで、なんとか、穏やかに始まることができた。一日を。
そういえば、嘘をつかなかった。
(ぼくが目覚めたのが、そもそも昼前だから、そんな隙もなかった。嘘をついていいのは、朝だけでしょう。)
たぶん、忘れているか、嘘を思い付けないか、だと思っていたけど、その通りになった。
無理矢理にでも嘘を捻り出したい性格ではなくなったのかもしれない。
とろくさいのは、変わらずだけど。
どうか、これからも静かに穏やかに生活したい、と思う。
誓って、嘘じゃなく。
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