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血が付かなかった『悪童日記』の話。

日付は、一昨日まで遡る。


ぼくは湯舟に浸かっていて、パートナーは実家(自宅から近い)に用があるので戻っていた。ので、その時間、ぼくはひとりだった。


しばらくして、物音がした。


物音自体は、よくあること。アパートの壁が薄いので、声や、引き戸を閉じる音は、いつものこと。


ただ、そのときは、台所の方から、床が軋むのが聞こえた。音が、浴室の前を通るのも。まるで、誰かが歩いているような。何度か聞こえたあとに、音は止んだ。


一応、声をかけてみる。返事はない。パートナーは、帰ってきていない。浴室からの声は、案外聞こえる。あと、もし帰っていたとしたら、ぼくに一声かけるはず。


もちろん、音はすべて、隣室から聞こえていた。ことは、十分ありえたのだけど。風呂から上がったとき、万が一、知らない人がいたらどうしよう。とは思った。そのときは、アゴタ・クリストフの『悪童日記』(文庫本)を読んでいたので、それで殴るしかないなと思った。嫌だけど。


まあ、本当に侵入者がいるとしたら、人(ぼく)がいる浴室にまっすぐ来そうなものだしな。気のせいかもしれない。気のせいじゃなかったら、ヒッチコックの『サイコ』みたいになる。それも嫌だ。あれはシャワー中だけど。


呑気なのか、警戒しているのか、よくわからない心境で浴室を出た。なんの気配もない。一応、トイレもクローゼットも確認した。誰もいない。ベランダ側の窓の鍵は閉まっている。安心していいんだろうか。


フィクションだったら、ここでなにか起こるところだけど。幸い、フィクションじゃないので、『悪童日記』の続きを読んだ。読み終わった。とりあえず、『悪童日記』に血が付かずに済んだ。


実際、なにかいたときは、どうしたらいいんでしょうね。幽霊より、生きている人間がいる方が怖い。幽霊だったら、見間違いとかで話を終わりにできるんだけど。


昨日は、そんなことも気にせず過ごした。読み終えた『悪童日記』の感想をちまちま書いているときに、頭にちらついたりはした。内容に一切関係ないのだけど。ちなみに、おもしろかったです。とても。三部作らしいので、集めるかどうかは、考え中。


フィクションでも、ぼくはホラーは怖くない。それより、生きている人が理不尽な目に遭う方が怖い。たとえば、そういう映画は本当に苦手。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか。二度と見たくない。名作だけど。


何事もなくてよかった。けれど。あれが、色んなことに怯えているゆえの幻聴だったら、それはそれで嫌だな。と思った。

デッサン14日目

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