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同じことをくり返す。期間限定の、

白湯をすする。


VAPEを吸う。


白湯をすする。


VAPEを、


『九龍ジェネリックロマンス』の、スイカとタバコの相性を思い出したけれど、そもそも何もかもが違うのだし、白湯は無味だ。


けれど、白湯を沸かしたとき、ときどき、思い出したように、VAPEを持ち出すことがある。


これは、マスカット味。

――魂が抜けていくみたい。

――アルネ。おはよう。

――おいしいの?

――おいしい……のかな。香りだけだよ。

――どうして煙って、魂を連想させるのかしら。

――これは水蒸気……まあ、いいか。なんだろう、天に上っていくから、かな。

ぼくのしっくり来ない応えに、アルネは首をかしげる。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――あと、どうして上を向くのかしら。きみは。

――向いてるの?

――吸ってみてよ。

――……。

――……。

――本当だ。

――やっぱり、魂なのかしら?

――そうだとしたら、ぼくの魂はどれだけ大きいの……。

――そういえば、わたしの分の白湯はないのかしら。

――ごめんね、もう一回沸かすから。

――一杯しか沸かしてなかったの?

――そういうわけじゃないけど。鉄瓶の中身をそのままにしておくと、よくないらしいから。

ぼくの分は、まだ冷めてないから、アルネの分を。


まだ、目が覚めていない気がする。


近ごろは、同じことのくり返しだから、かな。本当に。


引っ越しが近いから、荷物をつめて、少し休んで、また荷物をつめて。


朝のせいじゃない、頭がぼんやりする。


だから、熱めの白湯をすすったり、甘い水蒸気を吸ったりするのかな。

――はい、どうぞ。熱いから、気を付けて。

――ありがとう。……うん、おいしいわ。

――よかった。……ぼくの分も、丁度いい温度。

――だんだん、空っぽになってきたわ。

――? ……ああ、この部屋。

――ええ。

――あと、3週間くらいか。……まだまだ、と思ってたのに、もうすぐなんだな。

――わたしも付いていっていいのかしら。

――新しい家? もちろん。というか、自然とそうなるんじゃないの。だって、

――わたしは、きみの頭の中に「だけ」いるんだから。

――……。

――ねえ、楽しみ?

――新しい家? まあ、うん、そうかな。不安も大きいけど。べつに、ものすごく遠い場所に行くわけじゃないんだけどね。

――早く片付けないとね。

――うん。……今日も、一日荷物づめかな。

まあ、悪い気はしない。


今見えないものも、見えてるものも、捨てるわけじゃないのだし。


ぼくが新しい家でも、やっていけるようにしてくれるもの達。


白湯をすすって、VAPEを吸って。


ぼくは今日も、期間限定の、同じことをくり返す。

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