Photo by michicusa 悲しいいつかを、思い描いたとしても 3 相地 2024年5月1日 07:00 くたくたになった。体が。心が。悪い疲れじゃない。心地いい疲れだと思う。がんばった、というか。心の方は、色んなことを、悲しいことを考えて、泣くことも増えたけど。悪くはないんじゃないかと、そう思った。――おはよう。――あら、おはよう。どうしたの。――? なにか、変かな。――寝ぼすけさんじゃないから。――ああ。よく眠れるようになったんだ。この家は、とても静かだから。――隣人を気にすることもないものね。お隣さんはいるけど、その、壁の向こうには、だれもいないもの。――うん。……本当に、よく眠れる。アルネは、肩をすくめて、それから、少し笑った。ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。――「それ」は、よく眠れるのとは、べつなのかしら。――「それ」?――ぐっすり眠ったのに、目を腫らしているのね。――ああ……。今日もか。――今日も?――昨日も、ってことだね。――きみは、嫌なことがあると、眠れなくなるはずだけど。――うん、そうだよ。だから、嫌なことが、あったわけじゃないんだ。――じゃあ?――悲しいことを考える、というか、想像してしまって。――一日経っても、二日経っても、目を腫らしてしまうくらいの?――きっかけが、あったんだ。大切な人が、いなくなったらどうしよう。それも、何十年も先の話じゃなくて。とても理不尽に、命が奪われてしまったら。……決して起こりえないことじゃ、ないんだなって。――それで、ずっと泣いているの?――ずっと、ってわけじゃ。でも、ふと、考えるようになって。……なってしまって。――原因はなんにせよ、突然別れが来ることもあれば……来ないこともあるわ。――うん。――それは、どうせ、わかっているだろうけど。――……うん。――それはそれとして、悲しくなってしまうのね。――……しばらくは、そうかなあ。悲しいことが、待っているんじゃないかと。……そんな考えが、しがみついて離れない。――でも、泣けるようになったのね。――?――どれだけ辛くても、泣きたくても、泣けなかったじゃない。――ああ……そうだったかもしれない。でも、前からだよ。大切な人がいなくなったら、どうしよう、って。考えたら、涙が出てしまうのは。……自分のことだと、泣けないのかな。――大切な人がいなくなるのは、自分事じゃないの?――……そっか。そうだね。――目、冷やした方がいいわ。――うん。ありがとう、アルネ。ぼくは、濡らしたタオルを固く絞って、目元を覆った。もしかしたら、明日も、泣いてしまうかもしれないけど。いつか来る未来があるとしても。それまで、大切にできたら。ぼくが願うのは、それだけだ。 ダウンロード copy この記事が参加している募集 とは 57,654件 #日記 #エッセイ #毎日更新 #とは #朝 #おはよう #通勤 #私小説 #通学 #まっとうに生きるって大変だ #1000字前後 #cider #それでも僕は生きていく 3 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。 記事をサポート