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糖質代謝のダイナミズム

自転車を楽しまれている方ならポタリングやロードレース、どのようなシーンであれ一度は糖質(炭水化物)の摂取について思いを巡らせたことがあるだろう。

今摂取している量は足りているのか?それとも過剰なのか?
補給食としてどれくらい摂取すべきなのか?
ヒルクライムの大会では糖質を摂取すべきなのか?

このように、糖質摂取に関する疑問はいくらでも挙げることができる。それくらい糖質はサイクリストにとって密接であり、また謎多きものでもある。

そこで今回の記事では糖質(炭水化物)摂取についての知識をサイクリストや持久系アスリートに向けて整理をしてみた。

体がどのように糖質をエネルギー源として使っているのか、時間あたりどれくらい糖質を消費できるのか、補給食はどのくらい摂取すると効果があるのかなどを研究者たちが築き上げてくれた礎(論文)をもとに紐解いていこう。

是非、最後まで読み進めてみて欲しい。

毎度のことであるが、出てくる数値は分かりやすいものに概算していることをお断りしておく。



話題の中心:糖質とは

説明を冗長にしてしまうと記事を読み通してもらうモチベーションを下げかねないため、押さえてもらいたいポイントのみをお伝えしていく。(そのため糖質の全体像はカバーしきれていない点はご容赦いただきたい)

筋肉がエネルギー源として使えるものに「グルコース(ぶどう糖)」があることをご存知かと思う。

糖質はざっくりと言えば、グルコースやグルコースっぽいもの(フルクトースやガラクトースなど)の集団を指す言葉だ。

グルコースやグルコースっぽいものを1つだけで見て単糖類と言ったり、単糖類が2つくっついたものを二糖類といったり、さらに多くつながったものにデキストリン(数十個)やでんぷん(数千個)などがある。

様々な種類があるものの、最終的に私たちの筋肉が必要としているものは単品のグルコースだ。グルコースのみを欲する偏食な筋肉(他の多くの体の細胞も同様)のため摂取された様々な糖質は胃や小腸を経由し、最終的に肝臓でグルコースに作り替えられて全身の血流に運ばれていく。

そのためこの記事では主にグルコースについて話を進めていく。この記事では糖質=グルコースと思ってもらって構わない。

ちなみに人が消化できない糖類は食物繊維と呼ばれている。



糖質代謝

以前に投稿した「グリコーゲン」についての記事をご覧いただいたことはあるだろうか?

もちろんまだお読みになっていなくても問題はないが、是非一度目を通してみて欲しい。グリコーゲンも糖質代謝に関わる重要なもので、ひとまず筋肉や肝臓の中に貯めこまれているグルコースの塊であるとイメージしておいてもらいたい。

このタイミングでグリコーゲンに触れたのは筋肉が糖代謝(筋を収縮させるために糖質をエネルギー源として活用すること)を行う戦略が2通りあって、①血中からグルコースを受け取るか、②筋内にある自前のグリコーゲンを消費するかがあり、この2つは分けて考えた方が分かりやすいからである。

この2つの戦略が別物であることを理解してもらうために、下の図をみていただこう。(糖代謝の戦略が2パターン、脂質代謝の戦略が2パターン記載されている)

運動強度が増すごとに血中グルコースも筋内のグリコーゲンも多く消費されるようになるが、どれくらい消費が増えるかは2つの戦略で異なっていることがお分かりいただけるはずだ。

参考1

今回の記事ではこの2つの戦略のうち特に血中グルコースの利用について詳しく述べていくため、グリコーゲンの利用については先ほどご紹介した記事を参照いただきたい。



血中グルコース利用の上限値

さて、いよいよこの記事の中核である血中グルコースの代謝について述べていく。まずは1分間あたりに利用できる血中グルコースの上限値をお伝えしていこう。

私たち人が血中のグルコースを代謝できる(体のエネルギーに替えられる)量的な上限はおおよそ1.0g/min前後である。

しかもこの上限値を実現できるのは糖質を運動中に適切に摂取し続け、運動開始から75-90分が経過したころだ。それまでの時間帯はもっと少ない量になり、このことは一般人であろうがアスリートであろうが大きくは変わらない。(参考4)

血中グルコースを1.0g/minのペースで消費することは、ペダリングの出力に換算すれば50-60wほどの出力分になる。(概算の方法は後ほどご説明する)

あれ、結構少なくない?と感じた方もいらっしゃるだろう。初めて計算した時に私もそう感じたが、血中グルコースを利用してまかなえるペダリング出力はそこまで多くはない。

もう一度先ほどお見せした代謝割合を見てみよう。LT強度(おおよそFTP強度)のところに注目すると、血中グルコースの貢献度合いは全体の15%に満たないほどの割合だ。

なぜこれほど少ないのか?余っているならもっと血中からグルコースを受け取ればいいのではないのか?とも思えてくるが、どうやらそうもいかないらしい。体全体のシステムを維持するためには、このくらいの量が上限となるようだ。

一先ず、血中グルコースを利用できる上限は1分あたりに1.0gであり、ペダリング出力に換算すると50-60wであることを頭に入れておいてもらおう。

この話を頭に入れておいてもらえると、続くサイクリング中の栄養補給についてどれくらいの糖質を摂取すればよいのかという話をスッと飲み込めることと思う。

以下に文中にあったペダリング出力の概算方法を載せているが、興味のない方は飛ばしてもらって構わない。


<概算の内容>

cycling efficiencyと呼ばれる概念によれば、酸素と二酸化炭素の体への出入りから計算される体全体で消費したカロリーのうち、ペダリング踏力(ワット)に変換される割合は人によって異なるがだいたい18-25%である(参考3)。今回は20%と想定して計算を進めた。

グルコース1gが完全燃焼すると4kcalであり、血中グルコース利用の上限値が1g/minであることから、1秒あたりに費やすジュール値であるワット(w)に変換すると

1g × 4000cal(4kcal) ÷ 60秒 × 4.2(cal→J) = 55J/sec = 55w 

人によってcycling efficiencyに幅があることを踏まえ、血中グルコース1g/minあたり50-60wとした。




糖質摂取の上限値、下限値

ここではグルコースの摂取(食べること)によってサイクリング中の血中グルコースの利用がどう変化するのかを見ていこう。

先ほどご説明したように、血中グルコースの利用量は1.0g/min前後が上限である。そしてこの血中グルコース利用量を達成するためには1時間につき60g以上のグルコースを摂取し続ける必要がある

下の図を見ていただこう。この図は85-90%FTPで巡行する際、グルコースを1時間につき60g以上摂取した場合と、1時間につき10-20g摂取した場合の血中グルコースの利用量の推移を示している。量的な目安をいえば、「inゼリー」1パックに30gのグルコースが含まれているので、60gはinゼリー2パック分だ。

参考2

摂取量が1時間につき60g以上であれば血中グルコース利用の上限である1.0gに到達するが、摂取量が少なければ上限には達しない。

また摂取するグルコースが多いほど開始後から血中グルコースの利用量は多いが、いきなり上限値である1.0g/minに到達する訳ではなく、開始後75-90分後に上限に達してその後プラトー(並行)に至って推移する。

図では「1時間で60g以上」という表記になっているが、これ以上多くのグルコースを摂取しても血中グルコース利用量の推移については基本的には変わらないようだ。つまりグルコースを1時間につき60gもしくは120gのどちらを摂取しても、利用できる血中グルコースの上限に達するためその効果は変わらないと言える。

余ったグルコースは肝臓のグリコーゲンとして蓄えられたりなどする。

ここで反対に水のみの摂取(糖質を摂取しない)の場合はどうなるのか?と疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれない。

水のみの摂取の場合、血糖値(血中グルコースの量)は時間経過とともに目減りしていくようではあるが、肝臓に貯められているグリコーゲン(グルコースの塊、50-100gのストックがある)が血液中に支出される。

そのため筋肉による血中グルコースの利用は量的には小さいものの継続している。

このことについてグルコースを摂取するか、水分を摂取するかで75%FTP(持久ゾーン、L2ゾーン)で巡行中の血中グルコース利用量を比較した検証結果を見てみよう。(下図)

下図では巡行開始から60-120分後のエネルギー戦略の割合を示していて、このうち血中グルコースに該当する部分は赤の点線で囲っている範囲だ。

赤点線で囲った範囲が血中グルコース利用。参考6

図を見てもらうとグルコースを摂取し続けた(右)場合、血中グルコースの利用は全体の20%で、19%分が食べたものに含まれるグルコース由来となり残りの1%が肝臓のグリコーゲンから支出されていることが分かる。

一方水分摂取のみの場合(左)は血中グルコースの利用は全体の10%と低く、その全てが肝臓のグリコーゲンから来ていることがうかがえる。また血中グルコースを利用できない分は脂質代謝によって補われている。

同じペダル出力(ワット数)を維持していても、栄養補給でこれだけ差が生じることは何とも面白い。

ちなみに肝臓のグリコーゲン貯蓄量は50-100g程度であり、筋グリコーゲン同様にストックには限りがある。そのため糖質摂取により肝臓のグリコーゲン支出を節約できることは長時間に及ぶライドの際に血糖値を維持する上でアドバンテージとなり、後半戦でその差が現れてくる

このことについても論文の結果を見ていこう。

90%FTPという高い強度帯を何分間維持できるかを調べた研究では、水分摂取のみもしくはグルコース摂取で継続時間を比較している(参加したサイクリストはどちらの条件でもテストを実施)。

その結果、水分補給のみでは1時間経過以降の血糖値が下げ止まらずに3時間ほどで疲労困憊となり脚を止めている。

一方でグルコースを摂取し続けた場合、血糖値は正常な水準を維持し4時間ほど巡行出来ていた(下図)。

参考7

このことからサイクリング中の糖質摂取は血中グルコースの利用度合を高めるだけではなく、血糖値の維持という大切な役割もあることが分かる。


ここまでの説明を一度まとめてみよう。

サイクリング中にグルコース(糖質)を摂取することで、

  • 時間あたりの血中グルコースの利用量が増える(上限値あり):効果①

  • 肝臓のグリコーゲン消費が抑えられる:効果②

  • 巡行1時間以降でも血糖値を正常にキープでき、パフォーマンスを長時間キープできる:効果③

このような点がサイクリング中に糖質を摂ることの主な利点である。

そしてもう一点興味深いことは、筋グリコーゲンの利用戦略は糖質を摂取してもしなくても変わっていないことだ。

筋グリコーゲンといえばラストスプリントやFTP強度以上を発揮するために必須のエネルギー源であり、筋グリコーゲンの支出を極力抑えて走ることがペーシング戦略の中核ともいえる。

そのため糖質摂取によって筋グリコーゲンが回復したり消費量が抑えられることを期待したいが、現実はそうはなっていないようである。

限りある筋グリコーゲン、レース中の駆け引きやラストスパートのためにしっかりとセーブしておこう。(筋グリコーゲンの消費についてはこちらの記事で説明している)

(※筋グリコーゲンの消費、回復については研究者間でも意見は一致しておらず、糖質を摂取することで消費を抑えられるとする研究者もいるようだ。私が読んできた論文では糖質摂取によって筋グリコーゲンの消費は抑えられないとする意見が優勢のようであった。)


この節の最後に、パフォーマンス向上が期待できる糖質摂取量の下限値についても触れておこう。

参考論文によれば、グルコース摂取がパフォーマンスにプラスになる下限値は1時間につき20g前後であろうと述べられていた。(参考8)

これは検証を行った結論ではなく、あくまで様々な研究結果を見渡したときにパフォーマンスにプラスになっている量が20g/h前後であろうという書き方であった。

おそらく血糖値を長時間適正の範囲におさめつづけるためにはこれくらいの量が必要なのであろう(水分摂取だけで正常な血糖値を長時間キープするのは困難である)。

以上のことから、サイクリング中の糖質摂取は1時間につき20-60gの範囲が一つの目安になる。

なお、糖質摂取に詳しくフルクトースなどの同時摂取はどうなんだい?という方は糖質代謝Tips「グルコース+α」に記載しておいた。併せて読んでみて欲しい。



1時間以内のパフォーマンスへの影響

今までの説明では、主に1時間以上継続するような運動中にグルコース摂取がどのような影響を与えるのかを見てきた。

血中グルコースの利用が1時間経過以降で高いこと、1時間経過以降の血糖値低下を抑えられることが糖質摂取の利点ではあったが、では1時間以内のライドやレースで糖質摂取の効果はあるのだろうか?答えは半分Yesで半分Noである。

何故半分なのかは研究者によって意見が大きく分かれており、個人差が大きいように思えるからである。

FTPが5.0w/kg前後の選手に対して水分摂取or糖質摂取で1時間の全力走を行った研究では、糖質摂取を行った場合の方が平均して6w前後出力ワットが高い結果となったという論文がある。(摂取タイミングは開始前に40g、15分、30分、45分後に10g)※参考9

ただ、なぜ1時間前後の短時間のパフォーマンスに糖質摂取が影響するのかははっきりしていないようだ。というのも摂取した糖質がパフォーマンス発揮中に吸収され血中グルコースになる量は多く見積もって15g(運動開始から1時間は血中グルコースの利用がそこまで多くない)、そしてそれがなぜパフォーマンスを高めるのかは代謝的な側面からは良く分かっていない。

どちらかというと、メンタル的な側面を含む脳など他の器官に糖質摂取が何かしら影響しているのではと考えられているようだ。参考9

また糖質摂取の1時間以内のパフォーマンスへの影響は上記の論文のように「ある」とするものと「ない」とするものが混在している。条件によって結果が大きくばらつくということは、個人の差が大きいということでもあろう。

平均6w向上することはレースの結果を大きく左右するものだ。摂取量、摂取タイミングなどを調整するとこのような効果が出る可能性があるため、皆さんご自身の体で試してみて本番のレースに臨んで欲しい。先ほどの論文の考察から言えば15g前後の糖質摂取でまずは効果を確かめるのが良いのかもしれない。



糖質代謝Tips

今までにご説明してきたことがこの記事の柱であるが、多くの事柄、また小さなニュアンスの違いなどは全て脇に置いて最短距離で説明してきた。

そのため以下に挙げたTips(小ネタ)を読んでもらいながら、糖質代謝に関する理解の幅を広げて欲しい。


◆糖質摂取は必要か?

糖質代謝(特に血中グルコースの利用)についての話を読んでいただいた今、きっとみなさんの糖質摂取意欲は高まっていることだろう。

しかしここで一度立ち止まり、本当にサイクリング中に糖質摂取が必要であるのかを考えてみよう。

まず血糖値を安定させるためには、最小限の糖質(1時間あたりに10-20g)を摂取し続けることが必要である。ここまではいい。

では、それ以上の糖質を摂取して血中グルコース利用量を高めることは必要だろうか?

少し前にお見せした巡行時のエネルギー利用割合の図をもう一度見てみよう。特に脂質代謝の割合だ(下図の赤点線で囲ったところ)。

参考6

仮に水分摂取(左側)では最低限の糖質摂取が行われ、肝臓グリコーゲン消費が摂取したグルコースに置き換えられたとしよう。そうすればこの図は糖質摂取min vs 糖質摂取maxの比較と捉えられる。

この場合、両者ともに血糖値の問題はクリアできている(正常値をキープできる)。そして筋グリコーゲンの消費度合も同じとなると、両者の違いは血中グルコースを使うか脂質を使うかの違いだけであって、どちらかが優れている訳ではない。

そうなってくるとわざわざ糖質をたくさん摂取して血中グルコースの利用量を高める必然性はない。

つまるところどれだけ糖質を補給した方が良いのかはその人にとって望ましい量を調節する必要があり、やはり普段のライドやトレーニングで試してみる他ない。

研究者の中には糖質摂取によって血中インスリン(糖質を筋内へ取り込むための物質)の濃度が高まると脂質代謝が落ちてしまうため、パフォーマンスにとってはマイナスではないかと考える方もいる。

糖質はたくさん摂取することだけが是ではない。日々のライドで皆さんのベスト糖質摂取量を掴んで欲しい。


◆グルコース+α

他の糖質のことを含めるとややこしくなってしまうため記事の中心はほぼグルコースにまつわるものであったが、グルコースの摂取にプラスして他の糖質たとえばフルクトースを同時に摂取すると、摂取した糖質由来のものをエネルギー源とする割合が増える。

つまりグルコースのみの場合は1.0g/minが上限値であったが、グルコース+フルクトースでは1.5g/minほどが糖質代謝として利用される。

縦軸が「血中グルコース」でない点を注意。参考10

ただ血中グルコースの利用量が高まっている訳ではなく、肝臓に運ばれたフルクトースが乳酸などに変換されて、筋へと運ばれエネルギーとして利用されるといった別のルートをたどるようだ(乳酸は疲労物質という悪役のイメージが強いが、エネルギーとして使える)。

もう少し説明を加えると、グルコースとフルクトースなどの糖質が肝臓に入る際には肝臓の細胞膜上にある扉のようなものを通過する必要があり、グルコースとフルクトースは異なった扉から肝臓に入っていく。

そのため時間あたりに肝臓に運べる糖質が増える。しかし肝臓から血中へグルコースを渡す上限は決まっているため、肝臓はフルクトースを乳酸などに変換して血中へ運んでいるのではないかと筆者らは考察している。実際にグルコース+フルクトース摂取では血中乳酸値が高まっていた。(下図)

どのような利用のされ方であれ摂取した糖質によって体にストックされているエネルギーを温存できることは持久競技の後半戦に活きてくる。グルコース+フルクトースでの利用上限アップの発見がなされて以降、プロロードレースにおける栄養摂取戦略は大きく変わったようである。

この内容は以下に載せた書籍の「③ツールのための燃料補給」でも詳しく紹介されている。興味のある方は読んでみることをおススメする。


◆血糖値上昇のタイムスケール

摂取した糖質がどのように消化されていくのかも見ていこう。

胃に脂質やたんぱく質などが存在せず空腹状態の場合、グルコースを摂取すると血中グルコース濃度は下図のように5分後ほどから上昇し始める。

量の目安として「inゼリー」1パックにはグルコースが30g含まれている。参考5

なおこの記事では見やすさを重視し単位を「g」に揃えて表記するようにしているが、よく見る「血糖値」をイメージされたい方は縦軸の数値を×100した数値が血糖値になる。

※「血中に乗ったグルコース」は「食べたグルコース」そのものかは厳密には分からない。血中グルコース利用の上限値のところでお話したように摂取した糖質は肝臓に運ばれ、様々な規制のもと適量が血中へと受け渡されている。その中には肝臓のグリコーゲン(肝臓に予め貯められているグルコースの塊)が含まれている可能性もある。しかしながら上昇した血糖値分のグルコースの大部分は摂取した糖質由来と見てよいだろう。


◆糖質の種類と血糖値の上昇度合

糖質の最小単位であるグルコースを主軸にお伝えしてきたが、サイクリング中に食べる補給食にはパンやおにぎりといったもっと大きな糖質(多糖類)から摂取することも多い。

そういった補給食がどのくらい血糖値を上げるものなのかはグリセミックインデックス(グリセミック指数)やグリセミックロードなどを調べてみよう。

グリセミック指数のイメージは、グルコース50gを摂ったあとの2時間の血糖値上昇分を100としてその他の食べ物がどの程度血糖値を上げているのかを示したものだ。

たとえばおにぎり(白米)のグリセミック指数は85前後だ。純粋なグルコースよりも血糖値の上昇度合は低い。

グリセミック指数が低いということはその食べ物に含まれる糖質を消化しきるまでに時間がかかるということであり、血中グルコース上昇のタイムスケールが間延びする(少しだけ上がって、長く続く)ようだ。

参考:

サイクリストにとって重要なことは血糖値が正常値よりも極端に下がらないようにすることであり、そうすれば肝臓のグリコーゲンストックも不用意に支出する必要がなくなる。

そのため食品によってどの程度血糖値が上がるのかという関心は二の次にはなってくる。しかし腹持ちのことを考えればグリセミック指数の低い食品のチョイスも良いのかもしれない。

一点、消化のために大事な血液がそちらへ分配されてしまうことも念頭に入れておこう。高強度帯になるほどその影響は大きくなるはずだ。大事な局面までには消化を終えておきたい。

グリセミック指数の高低をそのまま消化の速さと解釈してよいのかについては論文を調べられていないが、いくつか数値を挙げておく。

あくまで目安です。


◆糖質は常に味方な訳ではない

さて、この記事では糖質について話を展開してきた訳だが、最後に注意喚起を行っておきたい。

糖質は常に私たちの味方になってくれる訳ではない。

糖質を摂りすぎると太ってしまうからといった見た目の問題ではなく、もう少し根は深い。

糖質、特に今回大きく取り上げてきたグルコースは多量にあると大変有害な物質であり、グルコースは体を構成しているタンパク質や脂質を変性させる力も持っている。糖尿病の方に神経障害や失明、動脈硬化が見られるのはグルコースの反応性(攻撃性)を物語っている。(参考11)

今糖質(炭水化物)を食べて、すぐにこのようなリスクに遭遇することはないだろう。しかし長期的な目でみれば糖質の過剰摂取には大きなリスクがあることも頭の片隅に置いておいてもらいたい。

研究者の中にはアスリートは「Fit(高いパフォーマンスを発揮できる)」だが、「Unhealthy(不健康)」だと注意喚起しており、その要因一つに糖質の過剰摂取が挙げられている。(参考12)



おわりに

今回もボリュームの多い内容となったが、まだまだ糖質代謝は奥が深く説明しきれるものではない。

この記事では断定する言い回しを多用しているものの、調べてきたことが現在も通用しているのか?間違った解釈はしていないだろうか?と不安で一杯である。

栄養、代謝の研究は日進月歩で進んでおり、過去の情報が役に立たなくなることも多い。

そのためこの記事を参考にしていただくことは大変光栄なことではあるが、この記事だけを信用してもらうのは危険であり、他の方が書かれている素晴らしい記事にも目を通してもらいたい。

今後も情報収集に努め、修正が必要な際には適宜修正を加えていこうと思う。

これらの点にご留意していただき、この記事が面白く感じてくださった方は是非「いいね」を押してもらえると大変励みになる。

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皆さんの日々のライドがより豊かなものになることを願い、この記事を締めくくることにする。

また読みに来てください。


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併せて読んでもらいたい記事

参考文献

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  2. Jeukendrup, A. E., & Jentjens, R. (2000). Oxidation of Carbohydrate Feedings During Prolonged Exercise Current Thoughts, Guidelines and Directions for Future Research. Sports Medicine, 29(6), 407–424.

  3. Ettema, G., & Lorås, H. W. (2009). Efficiency in cycling: A review. In European Journal of Applied Physiology ,106(1), 1–14. https://doi.org/10.1007/s00421-009-1008-7

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  11. 「代謝」がわかれば身体がわかる. 大平万里. 光文社新書

  12. Maffetone, P. B., & Laursen, P. B. (2016). Athletes: Fit but Unhealthy? Sports Medicine - Open, 2(1). https://doi.org/10.1186/s40798-016-0048-x

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