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映画『赤の涙』ネタバレ感想/軍事政権化の学生運動を描く

2016年制作(スペイン、ウルグアイ)
原題:Migas de pan
監督:マナネ・ロドリゲス
キャスト:セシリア・ロス、ジャスティナ・ブストス、キケ・フェルナンデス、アンドレア・ダビドビチス、パトクシ・ビスケルト

スペイン、ウルグアイ合作。1975年の軍事政権下を舞台に、学生運動に身を投じ、拷問の末投獄された女性の生涯を描く。中南米の歴史に明るくないので、こんなことがあったのかと非常に興味深い映画であった。

中南米といえば、1950年代のキューバ革命は聞いたことがあるかもしれない。チェ・ゲバラ、フィデロ・カストロを中心とした武装解放闘争である。

勿論キューバ革命の影響は他の国にも波及した。しかし、そのような革命分子はキューバ以外は軍事政権により抑えられたようである。アメリカが軍事介入をしていたということもある。

1970年代は中南米各国で軍事独裁政権が国内外の反政府活動、左派の学生・労働運動に対し激しい弾圧を行ってきた。これらはコンドル作戦と呼ばれ、アメリカが支援を行ってきたとされるが、詳しい実態はいまだにわかっていないことも多い。この作戦により投獄、拷問されたり、失踪したり…と多くの人が犠牲になったが詳しい数も分かっていない。

本作はまさに、1970年代のウルグアイの実態を実話をもとに描き出している。同じく、チリの軍事政権下で学生運動に身を投じ、現代になってもその時代に囚われている人々を描いた映画に『蜘蛛』がある。

『赤の涙』の主人公リリアナは学生運動に身を投じていたが、捕まり兵舎に連れて行かれる。そこでは人権を無視した非道な行為が行われていた。床にたくさん並べられた布団に粗雑に寝かされている人は皆裸同然の格好。

兵舎の中には裸で吊るされた男女の姿。そして床には血や排泄物。リリアナも裸にされ拷問され、夜になると兵士が遊び半分で適当に選んだ女をレイプし、男と女に無理矢理性行為をするように強要したり。愕然とするような惨状。

10ヶ月にも及ぶ兵舎での拷問・暴行に耐えたリリアナは刑務所に送られる。出所したのは、5~6年ほど経った1982年。逮捕時1歳であった息子は成長していたが、リリアナは親権を奪われ疎遠になってしまう。

80年代に入ると、中南米では徐々に民政移管が始まり、1985年にコロラド党のフリオ・マリア・サンギネッティが大統領に就任したことでウルグアイも民政移管が完了する。ちなみに軍事政権下で国民に対し人権侵害をおこなった兵士など組織の組員に対し、国民投票で恩赦が承認されている。1988年のことだ。

月日が経ち、2010年。カメラマンとして成功していたリリアナであったが、息子とは形式的な付き合いで、溝は埋まっていない。リリアナが学生運動に身を投じていた頃に生まれた息子は恐らく国が圧政を行っていた頃は幼く、母親の行動を理解できていないのだろう。

そんなリリアナは、平和維持軍の兵士が少年を性的暴行している動画を目撃し、何10年も経った今も変わらない現状に声を上げることを決意する。仲間たちと共に自分たちが経験したことをメディアの前で発言する場面で本作は終わる。

あの頃の実情を映し出すとともに、今も行われている軍人や政府による圧政に対し声を上げるという意味で、映画化する意義があると感じさせる映画であった。

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