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つれづれ雑記*イチゴ大福、の話*

 私はケーキよりどちらかというと和菓子が好きで。特に餡菓子に目がない。
 餡の味そのものが味わえる羊羹もいいし、パリッとした皮とのマリアージュ(すみません、新しい言葉を使ってみたかっただけです)が絶妙な最中もいい。
 ちょっと気取ったお高い練り切りの上生菓子もいいが、求肥や羽二重の大福餅、おはぎなどの普段遣いのものも捨てがたい。それから…、いや、もうこのあたりにしておこうか。
 とにかく、餡を使ったお菓子が好きだ。

 イチゴ大福なるものが存在すると私が知ったのは、いつのことだったか。
 実際に見たことはないけどそういうものがあると言葉だけで聞いたのは、確か、社会人になってからだと思う。
 
 イチゴ大福?
 大福の中にイチゴ?

 最初に思ったのは。
 「あり得ない」
(ごめんなさい。でも、このときは本当にそう思ったのだもの)
 
 だって、餡、だよね?
 そこに、果物の女王、イチゴを入れる? (イチゴは果たして果物か野菜か。意見の分かれるところだが、ここでは置くことにする)
 甘酸っぱいイチゴ。そこが美味しいのに、いくら美味しいとはいえ、砂糖を使った甘い餡と一緒に食べたらイチゴの酸味だけが際立って、元々の美味しさが台無しではないのか。それにイチゴの水分でベチャベチャにならないのだろうか。

 当時の私の頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。
 
 この記事を書くにあたり、少し調べてみたのだが。
 イチゴ大福が世に出たのは昭和のごく終わり頃らしい。なので、私がその存在を知ったときはもう既にイチゴ大福誕生から数年が経っていたことになる。
 和菓子としてその起源は新しいのだが、どこが発祥かというと、どうもよくわからないそうだ。
 ウチこそが本家、と主張する店が複数存在するらしい。有名どころでも、東京に2軒、群馬に1軒、あと、三重や滋賀にもあるという。

 さて、言葉だけで知っていたイチゴ大福と私が初めて対面したのは、何と、その十数年後。次女が高校生になってからのこと。

 次女の高校は、我が家のある(程よい)田舎とは違って、街中にあった。
 最寄り駅の前には古くからの商店街があり、さまざまなお店が軒を連ねていた。
 その中に、なかなかに老舗た小さな和菓子屋さんがある、と次女が話してくれた。
 どこか近くの別の場所に菓子工房があるらしく、店自体はごく小さいそうだ。

 高校に入学した年の初冬だったと思う。スーパーにクリスマス用のイチゴが並び始めた頃、通学にもすっかり慣れた次女が、
「例の、和菓子屋さんにね、イチゴ大福が並んでるんよ。買ってきたら、食べる?」と言う。
 イチゴ大福かぁ。
「食べたこと、ないやろ? ここのは美味しいらしいよー」
 と、誘惑してくる。うーん、と言いながらも、まあ、話のネタに食べてみるか、ということで買ってきてもらうことにした。

 翌々日くらいだったか、次女がビニル袋を下げて帰宅した。
 袋の中にはセロファンで包まれた大福。思ったより小ぶりで可愛い。サイズのわりには持ち重みがある。
 
 では、実食。巷で噂のイチゴ大福、食べてみようじゃないの。
 お茶を入れて、セロファンをはがして恐る恐るひと齧り。

 思わず、目をパチクリと見開いた。

 大福の生地はごく薄く柔らかく、でも、もっちりしている。中の餡は白餡。この白餡とイチゴの甘み酸味がとてつもなく合う。
 決して出過ぎず控えめでいながら、ちゃんと存在を主張し、そしてイチゴとの絶妙のマリアージュ(もう1回だけ使ってみました)は言葉ではとても言い表せない。

 ……何、これ。めっちゃ美味しいやん。

 言葉もなく、一生懸命に食べている私を見て次女は笑った。
「何事も、食わず嫌いはあかんね」
 はい。おっしゃるとおりです。

 一転して、すっかりイチゴ大福のファンになった私はその学期末の学年懇談会のときに、その和菓子屋さんに行ってみた。
 
 次女が話してくれたとおり、本当に小さな店だった。
 要冷蔵のお菓子を入れておく小さなショーケースの後ろは人ひとりがやっと通れるほど。歩道まで伸びた巻き上げ式の日除けの下に置かれた台の上の浅いコンテナの中にセロファンに包んだ和菓子が並んでいる。
 最初に私が行ったとき、店内は誰もいなくて、ショーケースの横に小さなショッピングカートを置いた年配の女性がパイプ椅子に座っていた。
 私がウロウロしていると、
「ああ、今ね、お店の人、ちょっと出てるから。待っとったら戻ってくるよ」
とその女性が言った。
 しばらくしてエプロンをした店主さんらしき人が帰ってきてその女性に言った。
「あー、ごめんごめん。ありがとうね」
「いや、ええねんよ」
 どうも、この女性は常連のお客さんで、店主が用事で出かける間、留守番をしていたようだ。いかにも下町商店街らしい風情だった。
 
 もう夕方だったためか、イチゴ大福は残り7つしかなかったが、私は全部買って帰った。ひとつ、何と170円。びっくりだ。しかも、次女が買うと学割(?)が効いてさらに20円引きらしい。

 それから、次女がその高校に在籍中に何度か(何度も)、買ってきてもらった。
 私も、学校に用事があって行くたびに立ち寄ってはイチゴ大福を買った。
 ただ至極当然ではあるが、イチゴ大福は季節限定なのでいつも買えるわけではないのが残念だった。

 次女が高校を卒業してからも何度か買いに行ったが、何年かして、どうも閉店したようだという噂を聞いた。
 残念でたまらなかった。
 もっと行っとけばよかったなぁ。

 最近はフルーツ大福と称してイチゴ以外にも、パイナップルだの八朔だのマスカットだの、さまざまな果物が入った大福があちこちの和菓子屋さんで売られているようだ。
 すっかり食わず嫌いを克服した私も、ときどきいろんなフルーツ大福を美味しくいただいている。
 でも、あのとき初めて食べた白餡のイチゴ大福、あれより美味しいものはない、と密かに思っている。

 *ヘッダー写真は最近食べた、塩トマト大福、です。もちろん、とても美味でございました。

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#食わず嫌いはいけません